MTBなどのオフ車界隈では随分前から定着している油圧式ディスクブレーキですが、ここ数年でディスクブレーキの標準化がロードバイクどころかクロスバイクにまで波及しています。
「重くなるしロードバイクにはキャリパーブレーキで十分!」
「いやいや、それはディスクブレーキの利点を理解していない!」
ウェブ上でこういった論争を目にすることも増え、あと数年は収拾がつきそうにありません。
さて、当の私はリムブレーキ派でもディスクブレーキ派でもなく、風変わりなメカニカル派。
特に「コレじゃなきゃダメ!」みたいな明確な拘りを感じている訳でもなく、単にこういったニッチな物が好きなだけです。
メカニカルディスクブレーキ、いわゆる紐引きの「機械式ディスクブレーキ」のことですが、最大かつ唯一かも知れない利点は、リムブレーキと同じブレーキレバーやデュアルコントロールレバーが流用できること。
正直、機械式ディスクブレーキの長所を問われても、こう答えるのが精々です。
細かいことを言えば、油圧式と比べて輪行時にトラブルが出づらかったり、ローターとパッド間のクリアランス調整に自由度があったりもするのですが、「そんなのリムブレーキ車で万事解決じゃん!」と一蹴される程度の物です。
一応、私のメカニカル歴はファットバイクで過去に数年、現在はグラベルロードに活躍の場を移して絶賛稼働中。
リムブレーキ派にも油圧ディスクブレーキ派にも手放しでオススメできない中途半端な立ち位置なのは間違いありませんが、制動力は上位グレードのリムブレーキと同程度かその前後。
レバータッチの軽さはリムブレーキを若干上回るものの、油圧ディスクに対しては越えられない壁がある。
油圧ディスクよりもメンテナンス性が良くトラブルも少ないが、パッドまわりにマメなお世話が必要。
これが機械式ディスクブレーキに対する、私個人の嘘偽らざる評価でしょうか。
リムブレーキと油圧式ディスクブレーキの狭間で存在感が薄れゆく機械式ディスクブレーキですが、今回は備忘録も兼ねて現時点で入手可能な製品を幾つか紹介してみます。
古参の安心感「AVID BB5/BB7」機械式ディスクブレーキ
まずはこちら、古参のMTB乗りにはお馴染みのAVIDのBB5とBB7。
一昔前なら機械式ディスクブレーキの鉄板とも言われた製品で、今でも根強い人気がありますね。
機械式は油圧式と異なり、パッドが減ってもパッドとローター間のクリアランスが自動調整されないため、手動で世話をする必要があります。
古い製品ながらこのパッドアジャストの機能が完成の域にあり、工具を使わずにつまみを回すだけの簡単調整が可能。
BB5はエントリーモデルなのでつまみが片側にしか備わっていませんが、BB7は左右につまみを備えます。
機械式に多く見られる片側ピストンである点が残念ですが、制動力は今でも上位に入るかも知れません。
キャリパーの取付けはインターナショナルマウントとポストマウントに対応するものの、フラットマウントには対応していないので、ロードバイクやグラベルロードに使えないのが悲しいところ。
見落としがちですが、キャリパー取付け部分に球面座金が上下ふたつ使われていて、フェイシングの甘いマウントにも柔軟に対応してくれます。
ラインナップにはロード用とマウンテン用があり、それぞれ対応するレバーが異なるので注意が必要。
また、軽量モデルの「S」や「SL」が存在し、最軽量のロード用SLはボディがチタニウム製と豪華な仕様になっています。
通好みの逸品、PAUL「Klamper/クランパー」機械式ディスクブレーキ
もう、見た目がカッコイイ!
そんなふうに思ってしまうのが、このPAUL「Klamper/クランパー」でしょうか。
ご存知、米カリフォルニアの人気コンポブランド「PAUL COMPONENT」の製品で、こちらも片側ピストンの機械式ディスクブレーキです。
パッドアジャスト機能をBB7から更に進化させたような仕様になっていて、歯車のような左右ふたつのつまみを回すことで、いつでも素早く調整が可能。
ピストン部分はベアリング入りで、制動力の高さはもちろん引きの軽さと動作のスムーズさも兼ね備えます。
こちらはポストマウント用の他に、フラットマウント用もラインナップされているので、ロードバイクやグラベルロードでも使えるのが嬉しいですね。
それに加えて、それぞれにレバーの引き量が異なるショートプル用・ロングプル用・カンパ用が準備され、至れり尽くせり。
カラーバリエーションは七種類とドレスアップパーツとしても優秀ですが、お値段はPAULお馴染みの価格設定になっているので覚悟しましょう。
たった一つで型落ちのクロスバイクが買えてしまうお値段ですが、一度は使ってみたい機械式ディスクブレーキです。
可もなく不可もなく「シマノ製」機械式ディスクブレーキ
可もなく不可もなく……
既に大半が油圧化しているせいか、想像していた以上にパッとしないのがシマノ製の機械式ディスクブレーキでしょうか。
現在、正式にラインナップされているは三種類前後で、ポストマウント用がALTUS「BR-M375」とTOURNEY「BR-TX805」。
フラットマウント用が「BR-RS305」で、こちらはたぶんSORAグレード。
一昔前ならULTEGRA 6800シリーズの「BR-CX77」という見栄えのするモデルもありましたが、現在では入手困難になっています。
どれも機械式では標準的な片側ピストン仕様となり、工具が必須な上にアクセスもしづらいパッドアジャスト機能は使い勝手がイマイチな印象。
世代的にはTOURNEY「BR-TX805」と「BR-RS305」が新しく、パッドクリアランスが広めに設計されていて、フラットマウント用の「BR-RS305」はICE TECHNOLOGYのフィン付きパッドに対応しているとのこと。
気になる制動力ですが、他社製で評判の良い機械式ディスクブレーキに引けを取らないそうで、ロードバイク・グラベルロード用の「BR-RS305」はそれなりの評価を獲得しています。
対向ピストンの定番「TRP製」機械式ディスクブレーキ
今まで取り上げた機械式ディスクブレーキは全て片側ピストンでしたが、ようやく真打が登場。
油圧式と同じ対向ピストン採用の代名詞として知られるTRP製です。
マウンテン用のSPYKEとロード用のSPYREの二種類があり、更にSPYREには一部カーボン素材を採用した軽量モデルのSPYRE-SLCがラインナップ。
因みに、完成車にはSPYRE-Cというモデルが採用されいる場合がありますが、こちらは中華製のOEM品。
本家TRPでリコールされた不具合が未修正のままになっているバージョンも出回っているので、単品売りの安価なバルク品には要注意です。
左右のピストンが等しく押し出されることでブレーキング時にローターが歪むことが無くなり、ブレーキパッドのアジャスト調整も左右からキッチリ可能。
調整に3mmの六角レンチが必要なのは残念ですが、つまみはクリック感のない無段階仕様なのでギリギリまでパッドクリアランスと、レバーを引いた際のコンタクトポイントを追い込めます。
私はマウンテン用のSPYKEをファットバイクに数年使っていましたが、制動力も含めて特に不満を感じることはありませんでした。
レバータッチの軽さは使用するケーブルとルーティング次第ですが、前述の通り調整を追い込むことでエントリーグレードの油圧式ブレーキに迫る制動力が得られます。
今では油圧式ブレーキのファットバイクに乗り替えていますが、機械式なのに意外と良く効いたなぁ……とたまに思い出すことがありますね。
一番人気のGROWTAC「EQUAL/イコール」機械式ディスクブレーキ
閉塞していた機械式ディスクブレーキに一石を投じたのがこちら。
ご存知方も多い、日の丸メカニカルの出世株ことGROWTAC「EQUAL/イコール」です。
イコールを始めて知った時は、いまさら機械式で勝負?
しかも対向ピストンじゃなくて、片側ピストンかよ……
そんなふうに訝しく思いましたが、気が付けばあれよあれよと機械式ディスクブレーキの大本命にのし上がりました。
イコールは制動力の高さ、引きの軽さ、本体重量の三点に拘った製品で、ケーブルとパッドは専用品がパッケージに同梱され、キャリパーの重量は136gほど。
注力した引きの軽さと制動力の高さは概ね前評判通りで、国内企業らしく日本語でのマニュアルやTIPSが充実しているためディスクブレーキ初心者にやさしい側面もあります。
ブレーキフィーリングの調整が容易だったり、左右のパッドアジャストを無段階で調整できたりと卒の無い仕上がりですが、油圧式から乗り換えると定期的なクリアランス調整が面倒に感じる場合も多いとか。
現在はポストマウント用とフラットマウント用の二種類がラインナップされ、カラーバリエーションも七種類と豊富。
正直、これが対向ピストンで工具無しのパッドアジャストに対応していたら……なんて思いますが、その辺は次期モデルに期待したいところ。
因みに、フルパッケージで購入してもディスクローターは付属しないので、別途準備する必要があります。
コスパと期待の二種、「テクトロ&ZENO」機械式ディスクブレーキ
ここまで紹介してきたものと比べるとややマイナーですが、コスパに優れるテクトロ製と期待のZENO製に触れておきます。
完成車でよく見掛ける安ブレーキのイメージがあるTEKTRO/テクトロですが、先述したTRPはテクトロのレースグレードの製品だったり。
当然テクトロからも複数の機械式ディスクブレーキがリリースされていて、その中でも特にイチオシなのがフラットマウント対応の「MD-C550」でしょうか。
TRP SPYREの廉価版にあたりますが、対向ピストンはそのまま引き継がれていてロードバイクやグラベルロードの入門用ブレーキとして打って付け。
価格もSPYREの約半分で、価格と性能のバランスに優れる機械式ディスクブレーキです。
お次はちょっと聞き慣れないZENO/ジーノというブランド。
こちらは台湾発のブランドで「Speed Clip Dual Piston Mechanical Disc Brake」という製品をリリースしています。
この製品も対向ピストンを採用していて、レトロ仕様のクロモリバイクと相性の良い総メッキ仕上げのキャリパーをラインナップ。
金属光沢のあるキャリパーは前述したPAULのKlamperくらいしか選択肢がないので、安価な代替品として重宝されるかも知ませんね。
忘れちゃいけない「ハイブリッド式ディスクブレーキ」
最後はこちら、油圧式と機械式の特徴を併せ持つハイブリッド式のディスクブレーキです。
ハイブリッド式はキャリパーまでがケーブルによる紐引き、キャリパー内部の動作が油圧式という構造になっていて、機械式よりも高い制動力を発揮します。
代表的な製品はTRP「HY/RD ハイロード」とダイアコンペ「JUIN TECH」のふたつで、どちらにもポストマウント用とフラットマウント用が準備されています。
うろ覚えですが、油圧式の特徴でもあるパッドクリアランスの自動調整機能がJUIN TECHには備わっていなかったはずのなので、ハイブリッド式の利点を活かしたいならTRPのHY/RDを選びましょう。
レバータッチの軽さは、機械式と同様にケーブルの質やルーティングに依存するので、ケーブル類は低摩擦な日泉ケーブルやJAG WIREの「Elite Link Brake Kit」と組み合わせるのが正解です。
因みに、現在私がグラベルロードに使用しているのがこのHY/RD。
制動力は機械式以上なのでその点には満足してるものの、キャリパーの本体が230gと少し重いのが難点でしょうか。
外観も大柄につき、取付け時にはフレームとの相性問題が発生しやすくなるので、導入の際にはくれぐれも注意したいところ。
おまけで紹介しますが、ジャイアントからはかなり特殊なハイブリッド式のディスクブレーキがリリースされています。
GIANT CONDUCT HYDRAULIC DISC BRAKE SYSTEMという製品で、2016年頃から販売されている模様。
レバーからステム部分という短い区間をケーブル式にすることでレバータッチの軽さを実現し、ステムから下は丸々油圧式というかなり特殊な仕様です。
レバータッチが油圧よりも重いというハイブリッド式の欠点を最低限に抑えつつ、油圧式の制動力を享受できるという興味深い製品ですが、高価そうに見えて導入コストは15000円程と二度ビックリ。
私が調べた限り、まだ販売されていてジャイアント関連の実売店を頼るのが入手への近道みたいですね。
ケーブル長を最短にした効果がどの程度なのか、ちょっと気になります。
まとめ
現状把握と私的な備忘録を兼ねて、機械式ディスクブレーキを幾つか紹介してみましたが、「消えゆく機械式…」なんて意味深なタイトルを付けたわりに根強く生き残っている印象ですね。
私は対向ピストンの製品が好きなので、次に購入するならTRPのSPYRE-SLCあたりになりそうですが、国内で高評価なグロータックのイコールにも興味津々。
余談ですが、今回はあえてプロマックスの機械式ディスクブレーキを取り上げませんでした。
安価な完成車でよく見掛けるブランドですが、制動力や剛性にあまり良い話は聞きませんし、いくら調べてもどの国の企業なのかがわからず仕舞い。
最初は中華系かな?とも思ったのですが、プロマックス公式HPの言語選択が英語とスペイン語の二択になっていて、それ以外の可能性も。
HP記載のアドレスはミネアポリスなので、ひょっとしたら米国企業なのかも知れませんね。