変速機付きの自転車には急所が存在する。
これを聞いて直ぐにピンとくる方は、そこそこ長い自転車歴をお持ちかも知れません。
内装式変速は例外ですが、外装式変速機付きの自転車はリアディレイラーに横方向からの強い衝撃が加わると、高確率で変速機能に不具合が発生します。
とはいっても、その急所はリアディレイラーそのものという訳ではなく、フレームとリアディレイラーとを繋ぐ「ディレイラーハンガー」だったり。
昔のクロモリフレームの自転車だと、フレームとディレイラーハンガーが一体化しているタイプも珍しくありませんが、今どきのカーボンやアルミフレームの自転車はこの部分がアルミ製の別バーツ化している場合が殆ど。
ディレイラーハンガーはリアディレイラーの巻き込みによる重大事故を防いだり、フレームへのダメージを肩代わりしてくれる有難いパーツですが、それ故に変形や破損しやすい性質を備えます。
リアディレイラーに横方向から衝撃が加わると、アルミ製のディレイラーハンガーは実にあっさりと変形してしまい、変速のインデックスを狂わせることもしばしば。
軽微なら何となくシフトチェンジがしっくりこなかったりチェーンがチリチリ鳴る程度で済むのですが、変形が一定レベルを超えるとスプロケ最大ギアを飛び越えて、ギア板とホイールの狭い隙間にチェーンがガッチリ噛み込んでしまうといった惨事も起こります。
リアディレイラーのあるドライブ側に横方向からの強い衝撃。
そう聞くと、真っ先に落車や転倒などの派手なトラブルをイメージするかも知れませんが、実は知らず知らずのうちにダメージが蓄積しているケースも少なくありません。
ピンポイントならイタズラの蹴り一発で症状が出ますし、密集した駐輪場で他の自転車に急所を圧迫されたりなんてのがよくある例。
他にもドライブ側を下にして横倒しに駐輪していたり、リアディレイラーに圧を掛けた状態で立て掛け駐輪したりすると、自覚の無いまま変形が進行するなんてことも。
ほんの一例ですが、私の知り合いに俗に言う「乗り専」の自転車乗りがいます。
文字通りロードバイクに乗るのがとにかく大好きな乗り専につき、メンテやカスタマイズの大半はショップに任せっきりで、パンク修理と注油を辛うじてセルフで出来るくらい。
そんな彼の変速が頻繁に狂うのを不思議に思っていたのですが、いつも無造作にしていた車止めへの立て掛け駐輪がまさにその原因でした。
さて、前置きが長くなりましたがここからが本題。
こんな貧弱なリアディレイラーまわりを保護してくれる「ディレイラーガード」と呼ばれるプロテクターが存在します。
これさえあれば、転倒も雑な駐輪もなんのその。
ライド中は過度に愛車に気を遣う必要が無くなり、MTBなどのオフ車には特に恩恵の大きい代物です。
少し前までは本格的なスポーツ車に使える製品が殆ど無く、あってもクイックリリースのみの対応が殆どでしたが、ようやくスルーアクスルにも対応してくれる製品が充実してきました。
今回は変速機付き自転車の急所こと、リアディレイラーを衝撃から守ってくれる「ディレイラ―ガード」を話題にしてみたいと思います。
本命はミノウラ製!使える「ディレイラ―ガード」あれこれ
さて、ディレイラーガードと聞くと上画像のような物を思い浮かべる方が多いかも知れません。
この手の製品は本格的なスポーツ自転車に採用されることは少なく、キッズ用のMTBなんかでよく見掛けます。
子ども用の自転車はひたすら雑に扱われるのが宿命なので、外装式変速機の付いたキッズ用MTBには大抵装備されていますね。
大人の自転車に取付可能な物も販売されていますが、リアエンド付近に泥除けやキャリヤ用のダボ穴が備わっているフレームでしか使えなかったり、車軸がボルト締めタイプにのみ対応だったりと、取付けに制限が多いのが難点。
一応、クイックリリースではなくジャイアントのエスケープR3などに採用されているレバー無しの9mmスキュワー軸に対応する製品もあり、強風で横倒しになりがちな通勤や通学用自転車に取付けるのも一つの活用法でしょうか。
防御力の高さは折り紙付きですが、走りよりも使い勝手が求められる実用車でこそ輝く装備な気がします。
現在、ディレイラーガードとして最も人気なのが、ライトマウント・ライトホルダーから派生したこのタイプ。
車軸付近へのライト取付けマウントとしても使えますが、プレートを追加することでディレイラーガードとしても機能します。
40g程度と軽量なKCNCやGORIXの製品が良く知られていて、両者ともクイックリリースだけでなくスルーアクスルにも対応している親切設計。
見栄えがイマイチ、スルーアクスル終端に6mm六角穴が必要、頻繁なホイールの着脱には不向き、こういった欠点もありますが、使っている方は割と多い印象ですね。
因みに、スルーアクスルは軸のお尻側がドライブ側に来るため、アスクル軸の終端に6mmの六角穴が備わっていないと取付けができません。
うろ覚えですが、MTB系はこの条件を満たしていないことも多いので、気になる方は購入前にしっかりとスルーアクスルのお尻を確認した方が良さそうです。
また、画像上段の右端にある製品のように、プレートを含まない製品もあります。
こちらは横転時につっかえ棒のように作用してリアディレイラーを保護してくれる仕組みですが、総寸が短いと十分に機能せず、総寸が長いと走行中に邪魔になるといった懸念があり、機能性はそれほど高くありません。
プレート無しでリアディレイラーを保護するには最低でも8~9cmの長さが必要になるため、見栄えの面でも妥協して使用する必要が出てきます。
最後はこちら、この先ディレイラーガードの本命なりそうなが、ミノウラ「DG-2」です。
一世代前のDG-1よりも対応するディレイラーが増え、寸法にも余裕を持たせた作り。
50gと軽量ですが、形状的にクイックリリースには対応していてもスルーアクスルには非対応。
そんなガッカリ感の伴う製品でしたが、よくよく説明文を確認してみると気になる一文が。
「別売りの弊社製スルーアクスルシャフトとの併用で12mmスルー アクスル採用車にも取付可能。」
ミノウラHP上にあるPDFマニュアルで確認してみると、確かに「別売品」の12mmスルーアクスル対応と説明があります。
ぶっちゃけ、DG-2がスルーアクスルに対応していることよりも、ミノウラがスルーアクスルを単体でリリースしていることの方が驚きですが、これで見栄えがイマイチなKCNCやGORIX以外の選択肢が生まれました。
元々はリアキャリアを取付けるための製品だそうですが、こちらが「12mmリアスルーアクスル
セット」。
各種スペーサーとスレッドピッチが異なるネジピッチアダプターが備わっていて、リアエンド幅142mmと148mmに対応します。
最近のディスクロードやグラベルロードはリアエンド幅が大抵142mmですし、MTB用ブースト規格の148mmにも対応しているので、別売りのスルーアクスル単体としてもかなり魅力的。
シャフトレングスだけでなく、スレッドピッチの互換性を気にしなくて良い試みは大いに評価したいところ。
因みに、DAVOSスルーアクスルシャフトという同ミノウラ製のアクスル軸もあり、機能は共通するもののこちらはスレッドピッチを車体に合わせて正しく選ぶ必要があるので要注意です。
マニュアルを見る限り、ディレイラーガードはアクスル軸の終端部分にギザ歯ワッシャーとボルトで固定する仕組み。
衝撃を受ける部分なので、しっかり固定する必要があるのは重々承知していますが、ミノウラ「DG-2」もホイールを着脱する際は一旦ディレイラーガードを外すひと手間が必要になります。
取付け後の外観はこんな感じ。
しっかりとリアディレイラーを保護しつつも、主張が控えめなよくまとまった形状をしていますね。
右が12mmスルーアクスルで左がクイックリリース、何気にグラベル用コンポのGRXにしっかりと対応していて一安心です。
まとめ
一度でもライド中にディレイラーハンガーを曲げてしまった経験のある方なら、個人的にイチオシなミノウラ「DG-2」あたりに魅力を感じたかも知れませんね。
ホイールが着脱しづらくなる欠点はあるものの、リアディレイラーへのダメージを過度に心配する必要が無くなるのは、見返りとして十分すぎるほど。
余談ですが、SRAMのUDHことユニバーサルディレイラ―ハンガーが普及すれば、ディレイラーハンガーの互換性問題がそう遠くない未来に解決されるかも。
シマノがこのまま黙っているとは思えませんが、業界内でのディレイラーハンガーの規格統一は早期に達成して欲しいことのひとつですね。
とはいえ、SRAMからはUDHフレームに対応した、ハンガー無し、Bテンション無し、リミットスクリュー無しのイーグルトランスミッションのリアディレイラーがリリースされているので、将来的にディレイラーハンガーそのものが無くなってしまうのかも……