前回の記事で唐突にグラベルロードのバラ完を開始してみたものの、無駄に高価なスモールパーツやロードバイク特有のアクセサリー類の収集に手間取っています。
車体への取付けもままならず、割と中途半端な状態での紹介となりますが、今回の主役は変わり種の油圧式ディスクブレーキこと、TRPのHY/RD ハイロード。
割と有名な製品なのでご存知の方も多いでしょうが、このブレーキは油圧式にも関わらずワイヤー引きで動作するという、大変面白い特徴があります。
実のところ、バラ完用に入手したフレーム「KONA ROVE ST DL」の完成車にも標準装備されているブレーキで、機械式に不足しがちな制動力を補ってくれるシロモノ。
バラ完ゆえにブレーキは自由に選べましたが、いざ吟味してみると不思議とKONA純正と同様のチョイスに落ち着いてしまう結果に……
まだ車体が組み上がっていないため、使用感のレビューについては後回しになりますが、TRP HY/RDの詳細や個人的に気になった点などを、簡単にまとめてみます。
クリアランスに要注意?TRP「HY/RD」の詳細と気になることろ
本来ならキャリパーひとつで15000円程度はしますが、使用感の殆ど見られない良品が前後セットで入手できました。
とはいえ、ローター・マウントアダプター・固定ボルトが付属しない完成車からの取外し品なので、痛い追加出費は避けられそうにありません。
グラベルロード用に購入したので、もちろんマウントはロード用のフラットマウント規格。
HY/RDにはMTB用のポストマウントタイプも存在していますが、セット価格はこちらの方が遥かにリーズナブルです。
また、画像にチラッと映っているのは、フロント用マウントアダプターにキャリパーを固定するための小ボルトで、辛うじてこの二本だけが付属していました。
前回の記事でも軽く愚痴りましたが、初見のフラットマウント規格で一番頭を悩ませたのが、先ほども触れたフラットマウントアダプターとキャリパー固定ボルトのふたつ。
大雑把に説明すると、フロントキャリパーの取付けは、ローター径がΦ140mmでもΦ160mmでも、画像右上のフラットマウントアダプターが必須。
フロント用のフラットマウントアダプターは向きを変えるだけでΦ140/Φ160mmの両方に対応し、取付けに必要なボルトも全て付属しています。
リアキャリパーの取付けは、Φ160mmローター使用に限り、画像左上のフラットマウントアダプターが必須。
リア用のフラットマウントアダプターにはキャリパーをアダプターに固定する小ボルトは付属していますが、フレームにマウントする画像下の固定ボルトが付属していないという初見殺しな仕様。
おまけに、上記の全てを揃えると約4000円という馬鹿にできない出費になるので、丸裸のキャリパーはあまりコスパが良いとは言えません。
フラットマウント規格のリア側は、フレームの下からボルトを貫通させてキャリパーを固定する仕様になっていて、フレーム幅を把握してから適切な長さの固定ボルトを選ぶといった、ちょっと面倒な過程が存在します。
TRPのマニュアルによると、フレーム幅+6~10mmがボルトの適正長とのことで、こちらのフレームは幅20mmですから、TRP純正の27mm固定ボルトを選ぶのが正解。
因みに、M5ボルトなので最寄りのホームセンターで適当なボルトを見繕う手もあります。
ですが、本家シマノ製の固定ボルト先端には脱落防止用の「ちょぼ」が設けられいるくらいなので、例えTPR製でも汎用ボルトを試すなら、緩み止めは必ず塗布しましょう。
下側からボルトで固定する仕組み上、通常よりも脱落しやすい規格なのかも知れません。
再びキャリパーに目を移すと、本来レバー側にあるリザーバータンクがキャリパーと一体化しています。
リザーバータンクの影響で通常の油圧キャリパーよりも大柄になってしまい、フレームによっては相性問題が発生する可能性も。
本体に小さく記載がある通り、フルードにはミネラルオイルが使用され、シマノ製ミネラルオイルを使用したオイル交換の方法も公式マニュアルに記載されていました。
HY/RDはホースなどのオイルラインが無く、キャリパー内の省スペースで動作が終始しているので、エア噛みに強いのも魅力ですね。
とはいえ、オイルの総量が少ないためにフルードの劣化が早いというレビューもあり、このあたりはトレードオフな感じでしょうか。
厳つい外観とずっしりとした手触りから予想はしていましたが、重量は223gと若干重め。
とはいえ、最軽量クラスの機械式キャリパーでも150gくらいなので、十分に許容範囲でしょうか。
目立った汚れはありませんでしたが、念のためキャリパーからブレーキパッドを取外してクリーニング。
パッドの固定は安っぽい割ピンではなく、固定ボルト+脱落防止ピンの組合せでメンテナンス性も上々です。
使用されているブレーキパッドは、対向ピストンで人気の機械式ディスクブレーキ、TRPのSPYREやSPYKEと同様の物が使用されていました。
よく聞くHY/RDの評価で、機械式以上、油圧式未満というのがありますが、キャリパー部分の仕組みは油圧式と全く同じなので、効きの良し悪しはブレーキパッドの違いが影響しているという見方もできます。
このパッドはシマノ互換品なので、制動力に不満を感じるならシマノ純正レジンパッドのB01Sか、同じくシマノ純正メタルパッドのE01Sに交換するのも手でしょうか。
因みに、対応するシマノ製レジンパッドはB01S ⇒ B03S ⇒ B05S-RXと耐摩耗性がアップした後継モデルが登場しているので、特に理由が無い限り最新版のB05S-RXがオススメ。
ピストン側も忘れずに綿棒でクリーニング。
少し気になったのが、見慣れたMTB用とは異なるパッド収納スペースの狭さで、横幅が乏しい上に左右が土手のように盛り上がっているため真下からしかアクセスできません。
ピストンを押し戻しづらい構造になっているので、市販のピストンプレスかプラ製のタイヤレバーが大変役に立ちます。
また、リザーバータンクが一体化されている弊害として、一般的な油圧式キャリパーのように上方からパッド・ローター間のクリアランスを確認することができません。
一応、画像のように穴が開き素通しにはなっていますが、せり出したリザーバータンクが視界を完全に塞いでいます。
パッド・ローター間のクリアランスを目視で確認したい場合は、車体を逆さまにする必要が出てきますが、前述の通りエア噛みしづらい構造になっているので、「油圧で車体倒立&ブレーキ操作はリスキーなのでは?」といった心配はしなくて済みそう。
さて、キャリパーのクリーニング中に最も気になったのがこの部分、ローターの引きずりに影響するパッドクリアランスです。
ファットバイクに使っている新SLXの油圧ブレーキはパッドクリアランスが広めに設定されていましたが、HY/RDは数年前から販売され続けている定番モデルなだけに、割とシビアでした。
普通はローターを挟んだ後に多少は左右のピストンが手前にせり出すものですが、1.9mm厚のローターを挟んでもピストンのせり出しはごくわずか。
マニュアルでは1.8mm厚のローターが推奨されていて、パッドクリアランスの最大幅が狭いがゆえにシマノ製などの2.0mm厚ローターとは相性が悪いかも知れません。
因みに、ピストンを完全に押し戻した状態のパッドクリアランスは約2.5mm、1.9mm厚のロータで動作させた後のパッドクリアランスは約2.3mmでした。
パッドクリアランスを確認するために、手で握ってキャリパーを動作させてみましたが、リターンスプリングの強さは機械式ディスクブレーキとほぼ同じ抵抗感。
ワイヤー引き部分は油圧ピストンを動作させるトリガー的な役割しか果たしていないので、もう少し動作が軽くても良い気がしました。
ケーブルは下側のアジャストボルトに接続し、そこからインナーワイヤーを上部のクランプに固定、インナーワイヤーを固定する際は、赤矢印のストッパーボルトをねじ込んで油圧部分の動作をキルしてから行います。
最後に手持ちのM5ボルトを使ってリア側を仮どめしてみましたが、ご覧の通りフレームとのクリアランスは結構ギリギリ。
キャリパー本体の高さは最大で85mmですから、フルサスMTBのようにチェーンステーとシートステーを挟むシートステーアングルの角度が小さいフレームでは使えない場合もありそうです。
また、これはバラ完グラベルロードの組み上げ中に判明したことですが、このKONA「ROVE ST DL」のフレームは標準でΦ160mmのディスクローターに対応する仕様になっていて、Φ140mmのディスクローターは使用不可。
フロントキャリパーを取付ける際はマウントアダプターが必須ですが、Φ180mmのディスクローターを使用しない限り、リアキャリパー用のマウントアダプターは不要となります。
完成車の画像で、前後に160mmのディスクローターを使っているのに、フロント用マウントアダプターが140mm側で取付けられ、リア側がマウントアダプター無しだったのを不思議に思っていましたが、Φ160mmローターがデフォというオチでした。
まとめ
大雑把にTRP HY/RDをチェックしてみましたが、動作の起点がワイヤー引きなだけで構造自体は油圧式ブレーキとほぼ同一でした。
パッドクリアランスとフレームクリアランス、HY/RDを使うならこの二つのクリアランスは忘れずに留意したいところ。
ブレーキ選定に際して、評判の良い機械式ディスクブレーキ、GROWTACのEQUAL/イコールと悩みましたが、やはり片側ピストンという点と割高な価格が決断を鈍らせました。
因みに、ワイヤー引きによるレバーの重さは「日泉ケーブル」で対策する予定。
日泉のアウターとインナーをセットで使い、ケーブルグリスも併用すると相当な摩擦軽減効果が得られ、ワイヤー引きの抵抗感が劇的に和らいでくれるとのこと。