ここしばらくファットバイク絡みの話題に触れていませんでしたが、実は少し厄介なトラブルに見舞われていました。
ロードバイクやクロスバイク、MTBやミニベロなどのスポーツ自転車に長年乗っている方なら一度や二度は経験したことがあると思うのですが、そのトラブルとは自転車最弱パーツこと『ディレイラーハンガー』の変形です。
このディレイラーハンガーは走行中の落車や転倒、駐輪中の横倒しなどが原因でダメージを受ける事が多く、取付けられたリアディレイラーに衝撃が加わると、フレームへのダメージを肩代わりして、思いの外あっけなく折れ曲がってしまいます。
見た目のゴツさとは裏腹に、私の乗っているとファットバイクもその例に漏れず、ちょっとした油断から、フレームや新車への買い替えを考慮するまでのプチ惨事に陥りました。
今回の内容は私の迂闊さが積み重なったレアケースなので、大半の方には無関係となりますが、SALSA/サルサやSURLY/サーリー製以外のファットバイクに乗っている方や今や絶滅規格となったリアエンド幅190mmのファットバイクに乗っている方には少しだけ参考になる情報が含まれています。
ダラダラと長い割に実りの少ない内容で心苦しのですが、最後まで宜しくお付き合い下さい。
悪夢は突然訪れた…横風でファットバイクが無事死亡
時は五月上旬、目に鮮やかな新緑の中を気ままに走り、自宅から15kmほど離れた場所でトイレ休憩をした際の出来事です。
使い勝手の良いキックスタンドを過信していた事もありますが、遮蔽物の無い場所に停車させてしまったせいで、極太なファットタイヤが真横からの突風をまともに受け、この写真を撮影した直後に惨事が訪れます。
トーストがバターを塗った側から床に落ちるが如く、ダメージ必至のドライブ側(右側)へ横転し、ペダル先端とハンドル先端がアスファルトにヒットしました。
この時点ではよくある事だと高を括っていましたが、リアディレイラーに異常が無いかを確認するため、微速で走りながらシフトチェンジをしてみると、チェーンがローギアを飛び越えてホイール側に落ちてしまい、瞬時に表情が青ざめます。
やっちまった…と思いつつ停車させてリアディレイラーをチェックしてみると、最小ギアではカリカリとリアディレイラーにチェーンが干渉し、最大ギアではホイール側にチェーン落ちすると言った典型的な症状があり、目視で分かるレベルでディレイラーハンガーが内側にひん曲がっていました。
ありがちな車体の倒れ方だった割にはダメージが大きく、何故だろう?と疑問に思ったのですが、どうやらハンドルが若干左方向に切れた状態でヒットした事と、ファットバイク特有の車体の重さがダメージに拍車を掛けてしまった様です。
あっけなく変形したのにこんな言い方も変ですが、同じアルミ製とは言えファットバイクのディレイラーハンガーはロードバイク用よりも強度があり、素手での応急措置では最小ギアへの干渉を無くす程度の修正がやっとでした。
しばらく格闘した後に、何とか走れるセンターギアに固定したシングルギア状態で15kmの道のりを引き返す事が出来ましたが、気分はもちろん最悪です。
自宅でリアディレイラーとディレイラーハンガーを確認してみると、ディレイラーハンガーが見事に内側に曲がっていて、二つのプーリーとトップギアが一直線上に位置していません、2速分くらいはズレているでしょうか?これではホイール側へのチェーン落ちも納得ですね。
更なる悪夢、ディレイラーハンガーがまさかの在庫切れ?
さて、リアディレイラーには生々しいヒット痕が刻まれていますが、私のファットバイクは MONGOOSE社製の2016年モデルで、画像の通りスルーアクスルのネジ切り部分とディレイラーハンガーが一体化しています。
車軸がスルーアクスルの自転車では珍しくない仕様ですが、ファットバイク用のディレイラーハンガーはロードバイク用よりも硬質なアルミが使われ、厚みも結構なものです。
変形が軽微なら専用工具を使わずにプライヤーかモンキーレンチでお手軽に修正する事もできますが、このネジ切りのお陰で下手に修正をすると金属疲労とともに再タップが必要になるなどの悪影響が懸念されます。
貧乏性の私でも、これは流石に新しいディレイラーハンガーと交換した方が良いと考えて下調べしてみると、 現行のMONGOOSE社製ファットバイクではロードバイク用に近い形状の新しいタイプが採用されていました。
ディレイラーハンガーはいまだに規格化の進んでいない低互換なパーツで、それこそ世の中には星の数ほどのバリエーションが存在します、この時点で少し嫌な予感がしたのですが、ファットバイクを購入したショップを通じて代理店に在庫の確認をしてもらう事にします。
問い合わせから数日後に代理店から返答があり、辛うじて一つだけ在庫がある事がわかりました、手持ちのディレイラーハンガーを修正すれば多少は延命できますが、今後の安定供給が望めない以上、そう遠くない未来にフレーム交換や新車への買い替えを考慮しなければなりません。
知名度の高い大きな会社の自転車でも、年式によってはディレイラーハンガーが手に入らない事はよくあるらしく、自転車の種類に限らず新車を購入する際は忘れずに予備のディレイラーハンガーも注文した方が良さそうですね、購入から時間が経つほど入手は難しくなります。
私の場合、ファットバイクの規格が不安定だった時期の製品と言う不運も重なっていますが、三年前の部品が既に入手困難な事実に少し驚かされました。
余談ですが、ロードバイク・クロスバイク・ミニベロ用には、ある程度の汎用性を備えた『エマージェンシーハンガー』という製品があるそうで、文字通りロングライド時の緊急用として持ち歩いている方も多いそうです。
悪夢は終わらない…ファットバイクのディレイラーハンガーを交換
海外からの取り寄せの可能性もあったので半月は覚悟していましたが、注文から一週間ほどで手元に新しいディレイラーハンガーが届きます。
既に交換の準備は整い、後はポン付けするだけの状態ですが、新たに届いたディレイラーハンガーには細かな仕様変更が見られました。
両者を並べてみると、形状に大きな違いは無いものの右側に置いた新型は僅かに角の取れた丸みのあるフォルムになっていました、アルファベット『B』の刻印位置も変更され新型は6時、旧型は9時方向になっています。
一番の違いはフレームへの取付けボルトで素材が硬質な物に変更され、やたらと舐めやすかった旧型の欠点が補われていました。
よく見ると、上画像左側で旧型が歪んでいるのが確認できますね、モンキーレンチで挟んで修正を加えていますが、元はもっと変形していたことになります。
早速、新しいディレイラーハンガーを取付けますが、締め付けトルクに関する情報が殆どありません、ロード用は1Nmあたりだそうですが、このスルーアクスル型は一切不明でYouTube上にある海外の動画を見る限り、結構アバウトに締め付けられていました。
結局、2Nm程度でもしっかりと固定できたのですが、最終的にスルーアクスルのスキュワーがフレームにガッチリと固定してくれるので、あまり神経質になる必要は無いかも知れません。
さて、リアディレイラーやホイールを元に戻す前に念のためスキュワーを捻じ込んでみます、パーツが恙なく交換でき安心しきっていた私ですが、ここで再び悪夢に襲われます。
あれ?以前の様にサクッと小気味よくスキュワーが入らない…しかも妙にネジの締め込みがキツいぞ…これは何か変だ!?
慌ててディレイラーハンガーを取外し再び並べてみると、新旧でネジ切り部分の加工に違いがある事がわかりました。
旧型の穴にはネジ切り部分に到達するまでに3mmほどの遊びがあり、入口の直径も少しだけ大きく加工されていますが、新型には一切その遊びがありません。
加えて、フレーム取付けボルト用の穴(一番左の穴)にも歪みが見られ、全体的に加工精度が低くなっています。
上画像を見るとわかりますが、このファットバイクはスルーアクスルのスキュワーが車体のフレーム穴を通過した後にディレイラーハンガーのネジ切り部分に到達します、遊びの溝が失われ加工精度が甘い状態では僅かなズレでもスキュワーがスムーズに固定できなくなります。
実のところ、多少強目にスキュワーを捻り込めば、ズレがあっても問題なく機能するのですが、残念ならが現在使用しているΦ12mmのリアアクスル用スキュワーは、強い締め込みに耐えられない構造になっています。
既に規格自体が消滅しているリアエンド幅190mm用のスキュワーは希少で、過去にレバー部分を舐めかけた物をだましだまし使い続けている事情があり、レバー部分に過度な負担を強いる無茶ができません。
曲げによる金属疲労で破断しやすくリスクはあるものの、この時点で路線を変更して旧ディレイラーハンガーを専用器具で修正して、後々の選択肢を増やす方向にシフトします。
早速注文した上画像の工具は俗に『ディレイラー直付けゲージ』と呼ばれ、ディレイラーハンガーの調整や歪みの測定が可能です、因みに結構なお値段でしたが、変速に精度を求める方は新品のディレイラーハンガーにもこの工具を使い、個体差による歪みを微調整するそうです。
ディレイラー直付けツールはOEMも含め似たような製品が各社からリリースされていますが、どれも基本的な使い方は一緒です。
上画像の様にディレイラーハンガーに工具を捻じ込み、ホイールのリム部分を基準にしてディレイラーハンガーを物理的に修正して行きます。
使い方は付属のマニュアルを一読するだけで理解できるほどシンプルですが、“derailleur hanger”と言うワードでYouTubeを検索すると参考になる動画が幾つかアップされています。
スキュワーよ、お前もか…追い打ちでスルーアクスルも破損
前項で触れたスルーアクスルのリア用スキュワーですが、レバー部分はΦ4㎜程の中心軸を左右からイモネジで固定しただけの構造になっていて、無理な力でレバーを捻るとイモネジが中心軸を削り、簡単に軸を舐めてしまいます。
さて、よせばいいのに諦めの悪い私は最後にもう一度だけホイールをはめた状態でスキュワーの捻り込みに挑みます。
フレームの穴とディレイラーハンガーの穴を手で押さえ付けながらスキュワーを捻り込めば、少しはスムーズに固定できるのでは?と言う算段で、実際その思惑通りに運んでくれました。
しかし喜びも束の間、逆の要領でスキュワーを抜き取ろうとすると、危惧していた通りレバー部分がすっかり軸を舐めてしまい途方に暮れます。
ディレイラーハンガー側のネジ切り部分にラスペネを吹き、軸を直接ペンチで回してもダメで、軸がますます削れていきます。
スキュワーはピクリとも動かず、これは虎の子のネジザウルスを求めてホームセンターに足を運ぶか、最悪の場合は在庫ゼロのアルミ製ディレイラーハンガーをチマチマ破壊するしかありません。
焦りに焦りまくった末に、左右二箇所のイモネジが舐めない様に軸の表裏を金ヤスリで平らに加工し、やっとの事で取外しに成功しましたが、希少なこのスキュワーは既に再起不能です。
ディレイラーハンガーの在庫はもう手に入らず、リアエンド幅190mm対応のスキュワーも代替品が手に入る保証は無い、この時点で精神的に疲弊していた私は何もかもが面倒臭くなり、フレームセットか新車の購入を真剣に考え始めていました。
交換用のディレイラーハンガー、ディレイラー直付けツール 、代替用のスキュワーと出費が積み重なり、ひょっとしてコレってコンコルド効果ってやつじゃないか?と思いつつも、六月にフレームセットや新車を購入するのは時期が最悪すぎるなぁ…と何とか思いとどまります。
気を取り直して修理に再び臨みますが、手元にある『ディレイラー直付けツール』を使うには、基準点となるホイールがしっかりとフレームに固定されている必要があり、まずは破損したスキュワーの代替品を探さなければなりません。
以前に記事にしたことがありますが、リアエンド幅190mm対応のスキュワーをゲットする最終手段は中華製のノンブランド品を選ぶ事です。
次点として、アクスルレングス以外の仕様が全く同じなリアエンド幅197mm対応のスキュワーをスペーサーを噛ませて流用する方法ですが、こちらは出来るだけ選びたくない手段でしょうか。
取り合えず、破損したスキュワーの正確な仕様を把握するために採寸してみると、レバー部を除いた実質のアクスルレングスが232mm、その内ネジ部分のスレッドレングスが18mm、ネジピッチがM12x1.5でした、因みにファットバイク用スルーアクスルのネジピッチ(ネジ山の間隔)は大半が1.5mmです。
この寸法を参考に、スルーアクスル用スキュワーを単体で販売している海外通販を虱潰しに探してみますが、その過程である事に気付きます。
今までリアエンド幅190mm用だと信じ込んでいたこのスキュワーは、実はリアエンド幅197mm用とほぼ同じ寸法で、どうやらディレイラーハンガーやフレームの形状を工夫することで197mm用を流用していた様です。
三年目にして気付いた遅すぎる真実に少し当惑しましたが、これでようやく憂いを拭い去る事ができます、因みに絶滅したと思っていたリアエンド幅190mm用のスキュワーは197mm用に吸収される形でちゃっかり生き残り、アクスルレングス224mm前後のショート規格がこれに相当していました。
2015年前後に販売されたファットバイクにはリアエンド幅190mmの物が多く、私と同じ悩みを抱えてている方は、手持ちのスキュワーを採寸し直してみるか、リアエンド幅197mm用スキュワーのショート規格を探してみるのが良いでしょう。
復活なるか!ファットバイクのディレイラーハンガーとスキュワーを交換
あれこれ探した結果、破損したスキュワーの代用品として『ROCK SHOX Maxle Ultimate』の12x197mmタイプを購入しました。
フロント用の15x150mmタイプなら国内でも何とか入手可能ですが、リア用は全く見掛けず海外通販を頼る事になります、上画像を見てわかる様にROCK SHOXもSRAMの傘下なので、例によって日本への出荷制限が設けられていましたが、幾つかのサイトからは辛うじて入手できます。
今までのスキュワーと寸法が近いのもそうですが、レバーの作りがしっかりしている点がROCK SHOX Maxle Ultimateを選んだ一番の理由で、ひょっとしたらネジの締め込みがキツい新ディレイラーハンガーにも普通に使えるのでは?といった希望的観測もありました。
因みに、ここまで悪夢と失敗に苛まれて続けた私は、保険として中華アマゾンことアリエクスプレスからDT SwissのRWSに酷似したパチモノスキュワーも注文しています。
本家のRWSには12x197mmタイプは存在しませんが、何故か中華製のパチモノにはしっかりとラインナップされていて、本家RWSと同様に強い締め込みにも耐えられる作りになっています。
画像上の新スキュワー、画像下の旧スキュワーを並べてみると、レバーを除くレングス部分やスレッドレングスにミリ単位の差異があるものの、やはり全体の仕様は共通しています。
杞憂とは思いますが、ROCK SHOX Maxle Ultimateのレバーとシャフトの境目部分が一段細くなっているのが少し気になり、丁度フレームと重なる部分だけにガタが出そうで心配になりますね。
肝心のレバー部分は期待していた通りの頑丈さで、どちらかと言えばクイックリリースレバーよりもDT SwissのRWSに近い使い勝手でした。
因みに ROCK SHOX Maxle Ultimateにはレバーを寝かせた後の角度を30度単位で調節する機能が備わっていて、固定後のレバーの収まりが良いです。
ROCK SHOX Maxle Ultimateの強度が期待通りだったので、思い切って精度がイマイチな新ディレイラーハンガーで試してみます。
スキュワーの捻じ込み時にやや強めの抵抗感はあるものの、特に問題なく固定でき、気になっていた一段細い部分にもガタは見られませんでした。
上画像ではレバーが10時方向を向いていますが、先ほど説明した機能を使うと締め付け加減はそのままに30度単位でレバーの向きを自由に設定できます、クイックリリースレバーとRWSのハイブリッドの様な使い勝手でしょうか。
仕上げとして、リアディレイラーを8~10Nmの締め付けトルクで再びディレイラーハンガーに取付けてから、リアディレイラー本体にダメージが及んでいない事を祈りつつ、最終チェックのシフトチェンジを試してみます。
変形していない新しいディレイラーハンガーでも、インデックスが狂ってしまう事があるので再調整ありきのつもりでいましたが、意外なことにリアディレイラーは何の問題もなく動作しました。
ここに至るまで丸一ヶ月を浪費し、今回のトラブルは精神的なダメージと細かな出費で散々な目に遭いました…まあ、大半の原因は私がキックスタンドに依存し過ぎていたせいですね、多少不便になりますが、軽量化の一環としてキックスタンドから卒業する時期なのかも知れません。
因みに上画像をみるとわかりますが、このファットバイクにはリアキャリアを取付けられるダボ穴が備わっています。
このダボ穴を利用すれば、横転からリアディレイラーを保護する『ディレイラープロテクター』を装備できるのですが、残念ながら穴部分が盛り上がった通常とは異なる形状をしているため、転倒時にディレイラープロテクターから伝わる衝撃に耐えられそうにありません。
ロードバイクやクロスバイクなど、車軸の固定にクイックリリースが使われている自転車では、ライトホルダーをリアスキュワーに取付けて、ディレイラープロテクターとして活用できるのですが、スルーアクスル仕様でダボ穴無しの自転車では、成す術がないのが現状です。
まとめ
さて、最終チェックとして久々にファットバイクで出走してみると、今度はBBやクランクまわりからセカンドマシンのミニベロで飽きるほど聞いた、パキッパキッと一定周期で鳴る異音が発生しています。
まさか横転した際にカーボン製のクランクにクラックでも入ったのか?と冷や汗をかきましたが、経験上これはBBまわりのトラブルで間違いありません。
急いでガレージに引き返し異音のするBBまわりを確認してみると、いつの間にか右ワンと左ワンが緩んでいます。
二月前にクランクをBBを交換したばかりですが、どうやらその時の締め付けが甘かった様で、キツめに増し締めすると異音はピタリと止みました、最後の最後まで本当に意地悪なトラブルですね。
ようやく一段落と言った感じに何とか平穏を取り戻せましたが、予備のディレイラーハンガーを確保できない事実に変わりはなく、早ければ新モデルが登場する十月前後を目処にフレームセットか新車の購入を考えなければなりません。
パーツの入手性や現在使用しているファットバイクからの流用度を考えると、必然的にサーリー/SURLYやサルサ/SALSAあたりのフレームセットが最有力候補になりますが、WEB通販オンリーのキャニオン/CANYONもそのあたりの管理がしっかりしているので、新車を購入するなら候補に入る可能性がありますね。
最後に重ねて言いますが、新車を買うときは必ず予備のディレイラーハンガーも一緒に購入しましょう!スルーアクスル仕様のスポーツ車は特にです。