以前も記事にしたことがありますが、私が数十年ぶりに購入した自転車は油圧式ディスクブレーキを採用したファットバイクです。
はじめてのディスクブレーキ車ということで制動力の高さとレバータッチの軽さに驚かされましたが、この油圧式ディスクブレーキが思いのほか曲者で、初心者の私を嫌というほど振り回してくれました。
今になって思い返せば、無知だった私が招いたトラブルなのですが、その大半が『事前に知っていれば防止できる』レベルの単純な行為が原因でした。
油圧式ディスクブレーキの『エア噛み』と『引きずり』
ファットバイクに乗り始めた最初の半年でブレーキ関連のトラブルに3回以上も見舞われましたが、『エア噛み』と『引きずり』の二つに大別できます。
『エア噛み』はブレーキフルードに空気が混入することで、ブレーキレバーがスカスカになりブレーキが効かなくなってしまう不具合で、『引きずり』は上画像の様にローターがブレーキパッドに触れてシャリシャリという接触音が鳴り続ける不具合のことです。
予備知識無しで、はじめて油圧式ディスクブレーキを使うと、このトラブルのどちらかに高確率で見舞われるのですが、『エア噛み』よりも『引きずり』の方が対処が楽でトラブルとしては軽度です。
他にも、誤ってローターやブレーキパッドにオイルを付着させてしまうとブレーキの効きが極端に悪くなったり、ブレーキの度にローターがけたたましく鳴く現象が起こります。
注油や洗車の際はくれぐれもパッドとローターを汚染しないように注意しましょう、この部分の掃除は他の部分と道具をわけた方が良く、メンテナンス時に市販のカバーでローターを覆ってしまうのも手です。
【1】ブレーキメンテ中はレバーを握ってはダメ!!
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
予備知識ゼロの私がはじめての油圧式ディスクブレーキでハマった一つ目の失敗は『ブレーキレバー』に関してです。
これはよく知られた話なので、あらためて注意喚起する必要はないかも知れませんが、油圧式ディスクブレーキ車はホイールを車体から外している状態でブレーキレバーを強く握ってはいけません!!
正確にはパッドを含むブレーキキャリパーにローターが挟まっていない状態で、ブレーキレバーを握るのはNGという意味なのですが、油圧式はパッドの減りに対応してクリアランスが自動調整されるため、その状態でレバーを強く握り込むとピストンが過剰に押し出されてしまう顛末に。
仕組み上、ブレーキパッドが完全に閉じて隙間がゼロになることは殆どありませんが、クリアランス幅がローターの厚みを下回ってしまい、輪行時などにホイールを再取付けできなくなるなんてことも珍しくありません。
こうなるとブレーキパッドの僅かな隙間にヘラ状の器具を挿し込んでグリグリ押し広げたり、パッドを取外してピストンを直接押し戻してあげる必要がありますが、あまり適当な器具を使うのは避けた方が無難です。
よく使われるマイナスドライバーは先端が鋭利過ぎてパッドにダメージを負わせがちですし、ピストン本体にも優しくないので、緊急時は樹脂製のタイヤレバーあたりが適任かも知れません。
また、最悪なケースとしてブレーキパッドを外した状態でレバーを強く握り込んでしまうと、今度は左右ピストンのどちらかがキャリパー本体から深海魚の目玉のように飛び出し、そこからフルードが滴り落ちたり空気混入の原因になったりもします。
知っていれば、こんな失敗はまずしないだろ…と思うかもしれませんが、ブレーキレバーは無意識に握ってしまいがちな部分で、ブレーキのメンテナンスに集中していると思わず握ってしまう事があるのです。
数回軽く握る程度なら全く問題ありませんし、レバータッチで直ぐに不手際に気付きますが、パッドスペーサーと呼ばれる器具があれば簡単に防止でき、ダンボールの切れ端を挟むなどの応急処置でも効果が見込めます。
因みに、飛び出したピストンを押し戻すのに前述した樹脂製タイヤレバーや幅広のマイナスドライバーがよく使われますが、ブレーキピストンプレス・ブレーキピストンレバー・ブレーキピストン押しなどと呼ばれる、パッドやピストンに傷を付けづらい専用工具も存在しています。
私は主にPARKTOOL製『PP-1.2』を使っていますが、力を加えやすい持ち手の作りと先端部分の角度が絶妙で、閉じたブレーキパッドを押し広げたり飛び出したピストンを押し戻したりと、ディスクブレーキのメンテナンスには欠かせない必需品になっています。
特にピストン押しは汚れたキャリパーのピストンをメンテする時にも便利で、ピストン清掃後や動きの悪くなったピストンを何度も押し込んで潤滑させる作業に重宝します。
油圧ブレーキ―ユーザーなら、どのメーカーの製品でも構わないのでピストン押しくらいは工具箱の片隅に備えておきましょう、地味ながら何気に出番の多い工具かも知れません。
【2】高温に注意!乗らなくてもブレーキに異変が発生することがある
続いて私がハマった二つ目の失敗ですが、こちらはちょっとイレギュラーです。
夏場の暑さにやられて丸一ヶ月間ファットバイクに乗らずに放置していた際に、ブレーキレバーに異変は無いものの、自然にブレーキキャリパーが閉じてブレーキに引きずりが起こる現象が見られました。
事前情報として、油圧式ディスクブレーキは機械式と比べてメンテナンスや機能維持が容易だという話を聞いていたので、これは全く予想していなかったトラブルでした。
原因は夏の暑さにより僅かに混入していた気泡が高熱で膨張したせいなのか、はたまたフルード内に入った水分が膨張したためなのか定かではありませんが、これらの混入がピストンを勝手に押して出してしまうことがあるとのこと。
特に水和性の高いDOTオイルは上記の症状が出やすく、シマノやマグラといったミネラルオイルを使用した油圧ブレーキシステムと比べて、頻繁にフルードの交換をしてあげる必要があります。
因みに、DOTオイルは開封した時点から吸湿してしまい長期保存には向かないので、出来るだけ小容量の製品を購入しましょう。
一応、某ジャイアントストアの『ディスクブレーキについて』というWEB上の記事にも、以下のような注意書があり、高温などの温度変化は不具合の引き金になる模様。
暑い季節の長時間車載にもご注意ください。
ジャイアントストア
暑くなった車内の温度によって、思わぬ不具合が発生する事がございます。
他にも、直射日光下で駐輪した際にレバーまわりからポタポタとフルードが漏れてしまった……などの事例もあり、こちらは整備不良が絡んでいるとはいえ、油圧式ディスクブレーキは屋内屋外を問わず急激な温度変化に注意を払う必要がありそうです。
外気温の低下する冬場になるとパタリと症状が無くなったり、ピストンを押し戻すことで普通に使えるようになる場合もありますが、DOT系のSRAMやHOPEのブレーキを使用している場合は、先述したようにフルードが劣化している可能性が高いので、素直に交換してしまうのが得策でしょう。
【3】油圧式ディスクブレーキのメンテは天地無用が鉄則か?
さて、最後となる私がハマった三つ目の失敗ですが、これはまさしく私の無知さが招いた出来事でした。
ファットバイクの購入から、頻繁にブレーキの引きずりに悩まされていた私はブレーキパッドを含むキャリパー部分とローター部分のクリアランス幅が確認しやすいように、車体を180度逆さまにしてメンテナンスをする癖がついていました。
この方がファットバイク特有の極太で重いタイヤを車体から着脱しやすく、様々な面で利便性が高かったからです。
ですが、それが間違いの元でした…油圧式ディスクブレーキは車体を逆さまにしてブレーキレバーを引くとエア噛みする可能性がある事を知らなかったのです。
この問題に関しては、車体を長時間逆さまにして検証されている方やブレーキの製造メーカーに問い合わせをして確認されている方がいて、正しくインストールされていれば車体を逆さまにしてもエアは混入しないという結論に至っているのですが、実はこの『正しくインストール』の部分が素人にはなかなか難しいのです。
大雑把に説明すると、インストール時に僅かに混入した気泡や長時間の使用によってブレーキシステム各部から集まってきた気泡がリザーバータンク内に溜まる。
それが『逆さま&ブレーキ操作』により、レバーのリザーバータンク側からキャリパー方向のオイルラインに移動してエア噛みする。
こういった要因の積み重ねが、この現象の正体とのこと。
熟達者でもインストール時の空気混入はゼロにできませんし、実際はブレーキが機能する程度に空気が混入しているのが殆どらしいです。
このケースの場合、車体を正常なポジションに戻し時間を置けば、気泡がレバー側まで自然に戻り、ブレーキ機能が回復してくれることもありますが、平坦でオイルラインの長いリアブレーキは自然回復しづらいので逆さまの状態でブレーキ操作を多用することは避けた方が良いでしょう。
シマノのマニュアルにも、この点について『このディスクブレーキシステムは倒立に対応できる設計ではありません。』といった記載があるそうで、車体を逆さまにする『倒立』以外にも横倒しでの長期保管についても注意喚起がされています。
余談ですが、この『倒立』を逆利用してブレーキがエア噛みしているか否かを判別する方法もあり、1~2日ほど逆さまにした車体を正位置に戻し、ブレーキレバー最初の一握りがスポンジ―だったら高確率で空気が混入しているそうです。
ちょっとした小技ですが、輪行やメンテナナンス等で車体をどうしても逆さまにする必要がある場合は、キャリパーにパッドスペーサーを噛ませつつゴムバンドやベルクロでレバーを握ったままにしておく方法がおすすめです。
仕組み上、レバーを握ったままだと空気がリザーバータンクからオイルラインへと移動せず、エア噛みが起こりづらくなります。ただし、長期間だとオイル漏れを招く場合もあるので、車体を保管する際は避けた方が無難でしょうか。
さて、前述した二つの失敗はピストンを押し戻す程度で済みますが、エア噛みは専用のブリーディングキットを使って、俗に言う『エア抜き』をしなければ、ブレーキ機能を回復できません。
エア抜き用のキットはメーカーによって違いがあり、 使用するブレーキフルードにもミネラルオイルやDOTといった違いがあります 、キットの入手性や使い方などの情報量を考えると、日本国内ではシマノ製の油圧式ディスクブレーキの方が便利でしょうか。
シマノ製の油圧式ディスクブレーキをお使いなら、予備のミネラルオイルと専用のブリーディング&エア抜きキットくらいは、常備しておいて損はありません。
まとめ
私が経験した3つの失敗についてまとめてみましたが、面倒なのはエア抜きが必須な【3】くらいでしょうか?
原因が不確かなものも含めて何とも歯切れが悪いのですが、密閉式とされている自転車の油圧式ディスクブレーキでもリザーバータンクやキャリバー側のピストンの密閉が結構アバウトですし、インストール時にオイルに含まれる微細気泡が時間差で悪さを働くことも珍しくありません。
因みに、頻繁に発生する引きずり音に悩まされていた私は、エア噛みしてブレーキレバーがスカスカになったのを契機に、ファットバイクのブレーキを油圧式からワイヤー引きの機械式に変更しています。
せっかくの油圧式なのに勿体ない…と思うかも知れませんが、異音に対して敏感なロードバイク乗りにも似たような選択をする方がチラホラ。
ディスクロードを選んでみたものの、油圧は何かと面倒臭い……そんな理由からGROWTACの機械式ディスクブレーキ『EQUAL』に乗り換える方も多いと聞きます。
引きが軽いという話を聞きますが、実際どうなんでしょうね?
MTBにも取付けやすいポストマウントタイプもリリースされいるそうなので、機会があれば試してみたいところ。