少し前までは自転車用のディスクブレーキといえばMTBの独壇場でしたが、最近はオフ車寄りなグラベルロードだけでなく、ロードバイクやクロスバイク、果てはミニベロにまで油圧式のディスクブレーキが採用され始めています。
これらのブレーキは慣れ親しんだワイヤー式とは仕組みが大きく異なり、はじめての油圧式ディスクブレーキで悪戦苦闘した方も多いのではないでしょうか?
実は私もその一人で、数年前に購入したファットバイクにはそこそこグレードの高い油圧式ディスクブレーキが備わっていました。
その後、ディスクブレーキにまつわるトラブルを一通り経験し、面倒臭くなってワイヤー引きの機械式ディスクブレーキに逃げていたのですが、フルサス29erの増車を機に再び油圧式ディスクブレーキと向き合う日々が始まります。
最近になって、ようやく油圧式ディスクブレーキとのストレスのない付き合い方が出来るようになり、日々のメンテナンスやトラブル対処で頭を抱えることも無くなりましたが、今思い返すと『あのとき、この工具さえあれば…』といった場面も少なくありません。
はじめての油圧式ディスクブレーキでちょっと不安…今回はそんな方のために、私の経験から『これがあると便利だよ!』といったディスクブレーキ三種の神器をさらっと紹介してみます。
油圧ディスクブレーキに欠かせない3つのツールとプラスワン
さて、冒頭で油圧ディスクブレーキ三種の神器なんて大見得を切りましたが、画像には見覚えのある工具が一つ加わっていますね…これについてはオマケで後述します。
左側の工具は無視して、上から順に一つ目が『ディスクブレーキピストンプレス』、二つ目が『ローター修正器』、三つ目が『ディスクローターセンターリングツール』と呼ばれる工具で、既存の油圧ディスクブレーキユーザーなら一度はお世話になったことがあるかも知れませんね。
ディスクローターセンターリングツール
まずは、最も出番が多いディスクローターセンターリングツールから説明します。
初見では『これ、どうやって使うの?』と思ってしまう工具ですが、車載や輪行などでホイールを頻繁に着脱させたり、ディスクローターとブレーキパッドが干渉してシャリシャリとうるさい引きずり音が頻繁に起こる、といった方にオススメですね。
普通はブレーキキャリパー本体の固定ボルトをカタカタと動く程度に緩めてから、ブレーキレバーを握った状態でキャリパー本体のボルトを締めて再固定する。この流れでディスクローターのセンター出しを行いますが、固定する際のトルクでキャリパーが微妙にズレてしまったり、何度やっても微妙にローターが擦れたりと割と失敗も多いです。
そこで出番となるのがこのディスクローターセンターリングツールです。
各社から発売され形状も様々ですが、基本的な使い方はどれも同じで、キャリパーの固定ボルトを緩めてから上画像のようにロータに沿わせてはめ込み、その状態のままセンターリングツールの先端部分をブレーキパッドの間にスルっと差し込んで、最後にキャリパーの固定ボルトを締めるだけです。
このセンターリングツールを使うと、ローターの厚みにプラスされたセンターリングツールの厚み分だけ自動的にローター左右のクリアランスが確保されます。加えて、ブレーキレバーを握ったまま作業する必要が無いため、楽な姿勢で二つの固定ボルトを交互かつ小刻みに固定でき、トルクによるズレも最小限にできます。
余談ですが、YouTubeなどでセンタリングツールについての動画を見ると、レバーを握らずにキャリパーを固定する方法と、レバーを握りながらキャリパーを固定する方法の両方を確認できます。
知識不足でどういった違いがあるのか不明ですが、経験上レバーを握らない方が成功率が高い気がしますね。
ローター修正器
お次はこちら、何となく使い方が想像できてしまうローター修正器です。
モンキーレンチで代用する方も多いそうですが、このローター修正器は新品なのに精度が低かったり、ブレーキングの摩擦熱で反ってしまったり、落車や接触などで変形したディスクローターを物理的に修正する工具で、ディスクブレーキ最大のストレスとも呼べる、ローターとパッドの干渉音、いわゆる『引きずり音』がした時に出番となります。
とはいえ、物理的にローターを曲げてしまうわけですから、八方手を尽くしたのに引きずり音が収まらない場合の最終手段と考えた方が無難でしょうか、一番目、二番目に打つ対策ではないかも知れません。
本当は別の部分が問題なのに、早合点して真っ直ぐなローターを曲げてしまった…なんてことになるので、ローターの歪みが目視で確認できる場合にだけ使いましょう。
因みにローターの歪みを確認する時はキャリパーの真下に白い布を置いたり、下側から面光源(スマホで白い画像を表示、ナイロン袋で自転車用ライトの光を拡散)で照らすなどして、上からキャリパーの隙間を覗き込んだ際に、パッドとローターの接触状態が確認しやすいようにすると作業が捗ります。また、歪みの確認や修正には振れ取り台が流用できるそうです。
例え間違っても、もう一度曲げれば良いだけですが、油圧ディスクブレーキの引きずり音の原因とされる以下部分を一通り見直してから修正したほうが良いですね。
- 【1】キャリパーの取付け位置がロータに対してセンターリングされていない
- 【2】ローターに歪み、または固定が緩んでいる
- 【3】キャリパー内部の汚れでピストンが動作不良を起こしている
- 【4】ブレーキパッドの極端な摩耗もしくは片減り
- 【5】ブレーキフルードの劣化や過多
- 【6】キャリパー取付台座の精度が悪い
- 【7】ハブ・ハブ軸に緩みやガタつきがある
- 【8】ホイール取付け時にスルーアクスルの固定トルクがまちまち
余談ですが、ローターは円盤状ゆえに140mm→160mm→180mm→200mmの順に歪みや変形の影響が大きくなります。
あくまでも私の印象ですが、ローター径140mmと小さくフレームやフォークの精度も高いディスクロードは、MTBよりも引きずりに悩まされる頻度が少ないように思います。
YouTube上でも『引きずり』よりも『鳴き』関するTIP動画が目立ちますし、同じディスクブレーキ車でも、オン車のほうが引きずりに悩まされづらいのかも知れません。
ディスクブレーキピストンプレス
続いてこちら、閉じてしまったブレーキパッドに効果覿面なディスクブレーキピストンプレスです。
この工具に関しては専用品を揃えずに、タイヤレバーやマイナスドライバーで代用されている方が多いですね、割れやすいピストンには意図的にタイヤレバーを使うという通な方もいらっしゃいます。
ご存知の通り、油圧式ディスクブレーキはホイールを外した状態(バッド間にローターが無い状態)でブレーキレバーを握り続けると、パッドがせり出したまま元の位置に戻らなくなったり、完全に閉じてパッド同士が隙間なく密着してしまいます。
レバーを軽くニギニギする程度ならこういった状況に陥ることはありませんが、パッドの間隔が狭くなり過ぎてホイールを付けられなくなった際は、パッドの隙間にピストンプレスの先端を差し込んで、パッドごとピストンを押し戻すか、パッドを外して直接ピストンを押し戻して対処します。
因みに、ピストンプレスで無理にこじったり鋭利なマイナスドライバーで代用すると、ブレーキパッドの縁や表面を傷付けてしまい、ローターに干渉するバリが出来てしまうことがあるので注意が必要です。その場合はバリをヤスリで削って滑らかな平面に整えてあげましょう。
また、新品のブレーキパッドに交換する際にもピストンを押し戻す必要があったり、汚れたピストンを何度も押し込んでクリーニング&潤滑する際にも便利に使えます。どちからといえば、油圧デビュー直後よりもメンテの必要になる一年後くらいから重宝しだす工具でしょうか。
ピストン部分のクリーニング&潤滑方法については以前記事にしているので、興味のある方はチェックしてみて下さい。
オマケの『T型ヘックスレンチ』
最後にオマケで紹介するのが、こちらのT型ヘックスレンチ/六角レンチ 5mmです。
ディスクローターセンターリングツールを紹介した際にも軽く触れましたが、キャリパーのセンター出しはブレーキレバーを握りながらキャリパーを固定する方法が一般的です。
この方法は簡単で特別な工具を必要としない反面、片手が塞がってしまったり無理な体勢を強いられたりと細かな不満も多く、よくあるL型の六角レンチでは作業がスムーズに行えません。
慣れの問題もありますが、画像のT型の方が扱いやすく先端が斜めでも使えるボールポイントになっていると、更に良いですね。因みに、私の購入したパークツール製はT型ではなくPハンドルと呼ばれていました。
本当にちょっとした違いでしかありませんが、ブレーキレバーを握りながらの固定が少しだけ楽になります。
もう一つの問題、油圧式ディスクブレーキの『鳴き』を解消する方法
油圧式ディスクブレーキの話題ついでに、ブレーキの『引きずり音』と何かと混同されがちな、もう一つの問題であるディスクブレーキの『鳴き』について触れておきます。
こちらも油圧式ディスクブレーキを使い始めると遅かれ早かれ遭遇する問題で、ブレーキングの度にローターからギーギー、キーキー、フォンフォン、プォ~ンと人目を引く異音を奏でるアレです。
ローターやパッドに汚れや油分が付着するのが主な原因で、仮に新車・新品であっても雨や雪の水分で大音響を奏でる場合もあります。後者は乾けば収まりますが、前者はローターとパッドの両方を脱脂&洗浄または交換してあげないと異音が収まりません。
脱脂&洗浄には良く知られた方法が二通りあり、一つは水を含ませてペースト状にした重曹でローターとパッドをゴシゴシ洗浄する方法、もう一つは食器用の中性洗剤で同じようにゴシゴシ洗浄する方法です。
重曹は100円ショップで買えるシンプルな物で十分ですが、中性洗剤はJOYの効果が高いようですね、私は中性洗剤の方法を試したことがありますが、安い電動歯ブラシを併用すると作業が短時間で済み、効果もしっかりとありました。
この方法で効果が無かった場合は、パッド表面を番手#80くらいサンドペーパーで表面がひと皮むける程度まで平面状に研磨し、再び脱脂&洗浄すると上手く行くことがあるそうです。
他にも、パッドを煮沸したりバーナーで加熱したりする方法があるそうですが、パッドが樹脂系のレジンパッドだったりセミメタルだったりすると、思わぬダメージを負いかねないので避けた方が無難でしょうか。
また、不精だったり逆にもっとマメにメンテナンスしたい!という方にはディスクブレーキ専用のケミカルがオススメでしょうか。
左から順に、KURE『ブレークリーン』、フィニッシュライン『BICYCLE DISC BRAKE CLEANER』、ワコーズ『BC-9』、MUC-OFF『DISC BRAKE CLEANER』となり、この中で本当の意味でディスクブレーキ専用なのは、フィニッシュライン製とMUC-OFF製だけです。
KUREのブレークリーンはコスパと入手性が高い代償として、ゴムやプラスチックへの攻撃性が高く、ローターとパッドには取外してから使う必要アリ。ワコーズのBC-9はディスクブレーキ専用ではないもののゴムやプラスチックへの攻撃性が低く、659mlと大容量なのも魅力。
MUC-OFF製は攻撃性が低いため何も考えずにキャリパー・ローター・パッドの全てにジャバジャバ使えるが、人気過ぎて入手が難しい。フィニッシュライン製はMUC-OFF並みにジャバジャバ使える上に、水置換性があるので残留水分によるブレーキの鳴きにも効果がある、でも295mlなのが難点。
簡単にまとめると、それぞれの特徴は以上にようになりますが、やはり大本命はMUC-OFF製かフィニッシュライン製になるでしょうか?どちらも人気で手に入りづらいのが一番の問題かな…
まとめ
私もそうでしたが、油圧ディスクブレーキデビューすると遅かれ早かれ『面倒臭いなコレ…』と思わず愚痴ってしまうトラブルに見舞われます。
特にディスクブレーキの『引きずり音』『鳴き』『閉じたパッド』の三つは定番中の定番で、転ばぬ先の杖として今回紹介した三つの工具とディスクブレーキ専用のケミカルくらいは備えておきましょう。
欲をいえば、ブレーキフルードの交換やエア抜きのためにブリーディングキットも揃えておきたいところですが、最初は最寄りのサイクルショップを頼った方が確実かも知れませんね。