油圧式ディスクブレーキを使っていると、ローターとブレーキパッドが擦れる『引きずり』に悩まされます。
ローターとブレーキパッド間の隙間(クリアランス)を自由に調節できる機械式ディスクブレーキなら割と簡単に解消できますが、元々クリアランス幅が狭い上に自動で一定に保たれる油圧式では、キャリパーの固定位置を変更するくらいしか調整手段がありません。
良く知られた調整方法としてキャリパーのセンタリング(並行出し)があり、手で動かせる程度にキャリパーの固定ボルトを緩める⇒ブレーキレバーを握ってローターを挟む⇒その状態でボルトを締めてキャリパーを固定⇒レバーを放してキャリパーのセンタリングが完了!といった手順で行いますが、この方法では引きずりを解消できないケースも多いです。
キャリパー内のピストンがスムーズに動作し、クリアランスに異常が見られない状態なら、概ね上記の方法で問題は無いのですが、二箇所の固定ボルトを交互かつ小まめに締め付けたとしても、ボルトを締める際のトルクでキャリパーが僅かにズレてしまい、これが失敗に繋がります。
手慣れた方はこのズレを見越して取付けたり、キャリパーを手で動かして微調整したりする職人芸を発揮しますが、もっと簡単にできれば…というのが正直な気持ちですね。
実は、この面倒な調整を手助けしてくれる『ディスクブレーキ センタリングツール』という便利な道具があり、私も最近お世話になりました。
結構有名なツールなのでご存知の方も多いと思いますが、外観だけではイマイチ使い方がわからない…という実態の掴みづらい工具で、私も実際に使うまでは『なんじゃこりゃ?』くらいの認識でしたね。
油圧ブレーキユーザーにとっては新鮮味の薄い内容ですが、今回は初めて油圧ディスクブレーキを使う方向けに『ディスクブレーキ センタリングツール』の使い方や注意点について簡単に説明してみます。
grunge製『センタリングツール』を追加購入
上画像は最近購入したgrunge/グランジ製『ディスクローターセンターリングツール』ですが、センタリングツールはこれで通算ふたつ目となります。
数年前に購入した、PWTの『ブレーキキャリパーチューナー BCA-8030』という製品を29erプラスのブレーキ調整に使っていたのですが、4ピストン仕様のブレーキキャリパーにはサイズが少し不足していたため、試しに利用者の多いグランジ製を追加購入してみました。
パッと見は『これ、新手の肥後守?』といった外観なので、ディスクブレーキ未体験の方にとっては使い方が全く想像できない代物かも知れませんね。
今まで使っていたPWT製と並べてみましたが、両者ともロータに挟み込むための溝が設けられ、実際に使う部分は左半分だけです。
ローターに装着してからローターとパッドの隙間に滑り込ませて使いますが、前述の通りPWT製は4ピストンに対してサイズがやや小さく、それを補うために奥まで差し込もうとすると中央のリングが邪魔になるという使い勝手の悪さでした。
キーホルダーにぶら下げられる仕様から察するに、本来は輪行などに向いた携帯用のセンタリングツールでサイズ的にディスクロード用の油圧ブレーキに適した製品だと思いますが、どうやら既に生産は終了しているようですね。
因みにPWT製は厚さが2.4mm、グランジ製は2.2mm、ローターの厚みと同程度となる黒いプラ製の部分は1.8mmでした。ローターを挟み込む薄い金属板の厚さは0.3となり、ツールの仕組み上これに近い値がパッドとローター間のクリアランス幅になります。
両製品ともに対応するローターの厚さについて特に説明書きはありませんが、ペラペラの金属板を『コ』の字状に成型しただけの構造なので、一般的な1.7~2mmくらいのローター厚になら問題なく使えそうです。
センタリングツールはグランジやPWT製以外にも幾つか販売されていて、上画像右のBirzman/バーズマン『CLAM DISC BRAKE GAP MEASURER』のように、持ち手のないタイプも存在します。
前述した通り、どれも基本部分は薄い金属板を『コ』の字状に成型しただけの構造なので、誤って踏んでしまうと一瞬でお釈迦になるので注意しましょう。
安価な中華製もあるのでそれほど神経質になる必要はありませんが、ホイールを取外す必要のある輪行やトランポ用としてセンタリングツールを携帯して使いたいと考えているなら、上画像左のHAYES製のようなタイプを選ぶか1.8~2mm程度のプラ板でスペーサーを自作すると安心して使えます。
『ディスクブレーキ センタリングツール』の使い方
ダラダラとセンタリングツールについて説明してみたものの、上画像を見れば使い方は一目瞭然ですね。
本来は油圧式ディスクブレーキのクリアランス調整に最適なツールですが、解説のために機械式ディスクブレーキ車を使っている点には目を瞑ってください。
今回使用したグランジ製は140~160mm径のローター用と説明されいますが、180mm径のローターでも問題無く使えました、実際に試してはいませんが流石に200mm径はちょっと微妙かも知れません。
ローター径に依存せずに使うなら、前述したBirzman/バーズマン製のように、持ち手の無いシンプルなタイプがオススメです。
センタリングツールをローターに挟み込んだ後は、上画像のようにローターに沿わせてディスクパッドとローターの隙間に差し入れます。
先に説明するのを忘れましたが、この時点でキャリパーの固定ボルトをカタカタと軽く動かせる程度に緩めておきましょう。
センタリングツールをしっかりと奥まで差し込んだ状態で、二箇所の固定ボルトを交互かつ小刻みに締め付けていきます。
レバーを握りながら固定する方法もあるそうですが、私は特に握らずにそのままの状態で固定し、それでもダメだった時にだけレバーを握っていますね。
本当にこれだけでいいの?と感じるシンプルな作業手順ですが、これでローターとパッドの間にはツールの金属板の厚みと同じ0.3mmのクリアランス幅が生まれ、キャリパーがボルトの締め付けでズレても挟み込まれたツールのお陰でローターに干渉しづらくなります。
因みに、隙間が狭すぎてローターとパッドの間にセンタリングツールをスムーズに差し込めないこともあります。
その場合は一旦ブレーキパッドを取外して、キャリパー内のピストンをクリーニング&潤滑してから、あらためて作業に臨みましょう。
汚れなどでピストンの動作が鈍るとブレーキレバーを放してもパッドがスタート位置に戻ってくれず、クリアランス幅を狭めたり、慢性的な引きずりの原因になります。
まとめ
仕組みや使い方がわかればこの上なく便利なツールですね、実際に私も何度も失敗した29erプラスのブレーキ調整がこのツールで一発解消されました、レバーを握ってキャリパーを固定する方法で何度も失敗してしまう場合は、素直に今回紹介したセンタリングツールを頼ることをおすすめします。
余談ですが、ローターそのものが歪んだり反ったりしていると、センタリングツールを使っても引きずりは解消されません。たとえ新品のローターだったとしても、精度が出ていない場合もあるそうなので、どうしても引きずりが解消されない…といった方は、目視でローターの歪みを確認した後に、ローター修正器やモンキーレンチでローターを挟み込んで、物理的に歪みを修正してあげましょう。
私自身、この記事を書いていて『油圧式のディスクブレーキって、初期設定が本当に面倒臭いな…』と図らずも思ってしまいますが、一度安定すると油圧式の方がメンテフリーなのは確かです。どこかのメーカーが機械式のようにクリアランス幅を微調整できる製品を開発してくれないものでしょうか。