ファットバイクといえば極太のタイヤ&ホイール……そんなイメージですが、軽量化のために容赦なく肉抜きされたリムもまた、ひときわ異彩を放ちます。
イタズラされたくないのであまり大きな声ではいえませんが、この俗にいう「リム穴」はファットバイクの急所でもあり、PVC(ポリ塩化ビニル)製かナイロン製の薄布で覆われているだけの部分。
鋭利な物で一突きしようものなら、あっけなく要部まで貫通してしまい、チューブドでもチューブレスでもパンクという結末を迎えます。
この頼り無い薄布は一般的にリムストラップやリムテープと呼ばれ、ファットバイクの場合はリムストリップ/STRIPと呼ばれることが多いですね。
殆どの自転車に使われているリムテープと同様に、こちらのリムストリップも消耗品となり、劣化しやすいPVC製なら一年ほど、耐久性の高いナイロン製でも数年で交換する必要が出てきます。
そのゴツい外観から、ファットバイクはパンクしづらい自転車という先入観を持たれますが、劣化により破損・変形したリムストリップはパンク原因のワースト3に入るくらいには厄介な存在。
何せ他の自転車と違い、リムテープに相当するリムストリップがリム穴から剥き出しですし、チューブなどのタイヤ内部からの圧力だけでなく太陽光による熱や紫外線によるダメージも劣化に拍車を掛けます。
当の私も、ファットバイクに乗り始めた最初の一年でリムストリップの劣化によるパンクを経験し、それ以降は耐久性が低く変形しやすいPVC製を避け、ナイロン製のリムストリップを愛用しています。
とはいえ、ナイロン製も使い方によっては劣化が著しいようで、増車した二代目ファットバイクのリムストリップが何ともあやしい雰囲気。
流石に真冬のライド中にかじかむ手でパンク修理するのは勘弁なので、取り急ぎリムストリップの交換を決意しますが、実は過去にこの交換作業で大苦戦した経験があります。
リムとリムストリップの相性次第では取り付け作業が困難を極め、伸縮性の乏しいナイロン製だけに「これはホイール径に対してリムストリップが短すぎるのでは……」と途中で匙を投げたくなるくらいの絶望感がありました。
六年前の苦い経験から、自分なりの攻略法は既に確立・実証済みですが、果して再挑戦の結果は如何に?
しばらくファットバイク絡みのニッチな話題が続きますが、今回はファットバイク用リムストリップの交換方法について簡単に解説してみたいと思います。
ナイロン製は伸びづらい?ファットバイクのリムストリップ交換方法
今回、交換のため準備したのはSUNringle純正のリムストリップ、27.5インチホイール用なだけに残念ながら既製品では他に選択肢がありません。
こちらもSUNringleハブ用のXDドライバーと同様に入手困難で、今までに聞いたことも無いような海外通販ショップでようやく購入できました。
因みに送料込みで¥5500、予備も含めて4セットの注文です。
素材はもちろん耐久性に優れるナイロン製で幅は60mm。ナイロン製は長寿命の代償としてPVCよりも伸縮性に乏しく、リムハイトの高いホイールには取付けづらい欠点も。
また、使用する「SUNRINGLE MULEFUT 80 V2」ホイールは26インチ版も27.5インチ版もリムの外寸が80mm、内寸が74mmですが、こちらのリムストリップは上から重ねるチューブレスリムテープの貼り代を確保するために60mm幅とやや狭めな仕様。
こちらが交換前のリムストリップ、割とピッチリで取外しに苦戦しそうな予感。
今にも破れそう……という訳ではありませんが、チューブの圧力でリム穴のエッジ部分を長期間に渡って押し付けられ続けられた影響が見て取れます。
因みに、最近はリム穴の無いホイールを採用したファットバイクも増えていますが、リム穴の有無が乗り心地にも影響するそうで、内圧の逃げ場がない穴無しリムは同じ空気圧でも乗り心地が硬い傾向とのこと。
穴無しリムは大抵カーボンホイールですが、ここ数年のスペシャライズド製ファットバイク「FATBOY」には、珍しい穴無しアルミリムが採用されています。
他にも、ホームセンターで見掛ける街乗り用ファットバイクにもよく採用されていますが、こちらは単にリムストリップを交換する手間を省き、ママチャリのようにメンテフリー化するのが目的でしょうか?
劣化した旧リムストリップと交換予定の新リムストリップの対比はご覧の通り。旧リムストリップの幅は75mmで刻印の見られないノンブランド品です。
ここまで劣化したナイロン製リムストリップを見た経験はありませんが、もう少し状態が良ければ、両サイドをカッターでトリミングして、チューブレス対応として再利用できたかも知れません。
取り付けの前段階として旧リムストリップを取外しますが、タイヤレバーがあると何かと便利です。
また、リム穴はエッジ部分が鋭利になっているので、出来るだけ作業グローブを着用した方が良いですね。
リムストリップの取外しは、タイヤレバーを利用してリムの縁に少しずつ乗せるような感覚で。
リムとリムストリップの隙間にタイヤレバーを挿し込んで煽り、リムストリップが浮き上がってリムの縁に乗ったら、反対側の緑矢印部分に手を入れて、ずらすように一気に外します。
慣れればタイヤレバーを使わなくても余裕ですが、手を挟みやすい作業なので怪我には注意。
無事に劣化したリムストリップが外れてくれましたが、再利用予定が無い場合は躊躇なくハサミでカットするのがオススメですね、数秒で作業が完了します。
一応、計量してみると重量には殆ど差がありませんでした。チューブレス対応だけに新リムストリップは少しだけ肉厚なのかな?
余談ですが、この「SUNRINGLE MULEFUT 80 V2」に限らずSUNringle製のファットバイク用ホイールはバルブ穴の反対側にあるリム接合部の気密が甘いらしいです。
チューブレスリムテープを貼る場合、普通はバルブ側から10cm程度オーバラップしてテープを重ねるように貼り付けますが、SUNringle公式のTIPSによると件の接合部分で重ね貼りし、バルブ部分は短く切り取ったテープをペタッと後付けする方法が推奨されていました。
恐らく接合部の気密が弱いので「こちら側を二重にしてくれ!」という意図なのでしょう。
まあ、この方法でもリムの側面からシーラントが漏れることがあるらしく、YouTube上では接合部を横に渡すようにチューブレスリムテープで塞いでから、従来通り方法でチューブレスリムテープを貼り付ける方法が紹介されていました。
話が脇道に逸れましたが、ここからが本番。
リムストリップ取付けの第一段階として、ホイールとリムストリップのバルブ穴をしっかりと位置合わせして、作業中に穴がズレないように固定します。
仏式のバルブ穴は6mmなので、ホームセンターでM6のボルト&ナットを購入しても良いですが、チューブレスバルブや古チューブから切り取ったバルブを流用するのが手っ取り早いですね。
太目のドライバーを挿し込む方法もありますが、作業中に抜けやすいのであまりオススメしません。
リムストリップは取付け後のフィット感が強く、作業後の位置調整がほぼ不可能なので、意外に重要な工程だったりします。
いよいよ勝負どころです。
リムストリップはリムの直径にフィットする寸法になっていますが、リム側には直角に立ち上がった側面部分があり、普通に取り付けようとしてもなかなか上手く行きません。
大まかなテクニックについては、冒頭で触れたように過去の記事で説明していますが、最大のコツはリムストリップの幅を利用することです。
まず、画像のように赤矢印のリムストリップの両サイドを限界まではめ込みます。
続いて、両手で引っ張ることになる、リムストラップ上端部分を外側に半回転させておきます。
画像だとホイールは寝かせた状態ですが、実際の取付け時はバルブ穴を真下にして、足でホイールを固定すると力を加えやすくなります。
あとはウエイトトレーニングのデッドリフトと同じ要領で、半回転させた部分を両手で上方向に引っ張りつつ、リムストリップをリムの縁に乗せるようにくるりと半回転させる(元に戻す)だけです。
要はリムストリップの幅の分だけ寸法が長くなるため、リムの縁に乗せやすくなるというカラクリ。
文章ではイマイチ伝わりづらいですが、実際にやってみるとすんなり理解できると思います。
そここそパワーを必要とする工程なので、直後は「リムの縁に乗せるのが精一杯でした……」的な見た目になりますが、ここまで出来さえすれば後は手で簡単に微調整が可能。
チューブドで使用する場合は、摩擦でリムストリップがズレやすくなるので、あとあと変な癖やシワがが付かないようにしっかりと中央に配置しましょう。
この上からチューブレスリムテープを重ね貼りする場合も同様で、貼り代が左右で均等になるように位置を微調整します。
六年ぶりの交換作業でしたが、思いのほかスムーズに運びました。
前回はリムストリップを予め半回転させておくテクニックを使わず、裏返ってたリムストリップをタイヤレバーでチマチマ修正する手間がありましたが、今回の手法はほぼ完成形ですね。
リムストリップを熱湯やヒートガンで温めて伸びやすくするテクニックもあるそうですが、こちらは効果が薄かった記憶があります。
うろ覚えですが、ナイロンはプラスチック類の中では融点が高い部類に入り、耐熱性に優れる特徴があったはず。
まとめ
タイトルで「コツを伝授するよ!」なんて大層なことをいっていますが、正直なところ私以外のファットバイク乗りがリムストリップの交換で大苦戦……なんて話は全く聞きませんね。
DT Swiss製のように最初からユルユルな場合もありますし、スペシャライズドのようにリムストリップをベルクロ固定で輪にするタイプもあったような気が。
最近のファットバイク用ホイールはリムハイトが低いので、苦戦することはほぼ無いと思いますが、誰でもできる方法なのでお困りの方は是非お試し下さい。