自転車にパンクは付き物。
スポーツサイクルなら尚更で、自前のパンク修理は自転車乗りの嗜みともいえるでしょう。
とはいえ例外も幾つか存在し、その最たるものがママチャリです。
「○○さんは自転車が趣味だから、パンク修理なんて余裕でしょ?」
「自転車屋に持っていくと高いから、ちょっと見てくれない?」
そんなセリフに気を良くして安請け合いすると、ママチャリが目の前に現れて困惑するなんてことも。
ご存知の通り、スポーツサイクル以外の自転車はホイールを簡単に着脱することができず、パンク修理に必要とされる手間や労力が段違い。
ホイールの着脱がすこぶる面倒臭いリア側はもちろんのこと、フロント側もハブダイナモが標準装備されていたりと、なかなか油断できません。
ママチャリのパンク修理を話題にすると必ず思い出しますが、私が学生時代にお世話になった自転車店のご主人はリアホイールを外さないまま器用にパンク修理をしていました。
今思うと、遅刻しないように配慮してくれていたのだと思いますが、プロの目から見てもホイールを外さない方が時短になり労力も少ないという判断なのでしょうね。
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
ママチャリはパンク修理が面倒臭い、特にリアタイヤが……
実は、この問題を真正面から解決してくれるアイディア商品が存在します。
今のところ世間に広く認知された呼び名ではありませんが「棒型チューブ」がそれで、チューブなのにドーナツ状ではなく、ランドルト環のような「C」の字型になっている変わり者。
お察しの通り、この切れ目の入った形状のおかげでいちいちホイールを着脱する必要がなく、ママチャリのパンク修理やチューブ交換が誰でも簡単にできてしまいます。
また、この棒型チューブはリアホイールにユニットがあるタイプの電動アシスト自転車とも相性が良く、緊急用の予備チューブとしても打って付け。
ママチャリ向けのチューブということでスポーツサイクルには無縁のシロモノですが、今回はママチャリや電動アシスト自転車で役立つ「棒型チューブ」の利点や欠点について話題にしてみます。
弱点はやっぱり乗り心地?「棒型チューブ」二種類の詳細

私がこの棒型チューブの存在を知ったのが数年前。
うろ覚えですが、ストレートチューブかスマートチューブという呼ばれ方をされていたような気がします。
あれから月日が経ち、バリエーションも増えたのでは?そう思って調べてみると、意外にも2メーカーからしかリリースされていませんでした。
まずは上画像の「らく早チューブ」
キャッチーな名称とパッケージデザインが目を引く製品で、ゴム製品や合成樹脂製品の製造をしている共和からリリースされています。
作業用グローブとタイヤレバーがセットになったBOXタイプとチューブ単体のふたつがラインナップされ、単体の方が300円ほど安価。
因みに、BOX付属のグローブは強度不足な上にタイヤレバーもオマケみたいな物なので、チューブとタイヤレバーを別々に購入して軍手で作業するのがマストです。
らく早チューブはチューブの両端がお互いにフィットするような凹凸形状になっていて、タイヤ内で良く馴染む仕様。
また、ママチャリや電動アシスト自転車での利用を想定しているため、バルブは「英式」オンリーです。
らく早チューブのサイズ展開は20インチ用と26インチ用の二種類で、詳細は以下の通り。
【20インチ用】HE 20×2.125 (ETRTO:57-406)英式バルブ
【26インチ用】WO 26×1 3/8 (ETRTO:37-590)英式バルブ
何気に406ホイールの20インチ用が準備されていていて、サイズさえ合えば小径の電動アシスト自転車でも利用できるのが嬉しいところ。

お次はパイオニアともいえる、SAGISAKA/サギサカの「I-TUBE/アイチューブ」
棒型チューブをいう呼び名はこちらから取られていて、サギサカとShinko/シンコーからリリースされていています。
サギサカ公式HPによると、一輪当りの負荷荷重は60kgまでとのことで、前後にチャイルドシート備え付けの電動アシスト自転車で使用する際は注意したほうが良さそう。
「らく早チューブ」との一番の違いはチューブ両端の形状で、断面が切り取ったような平面になっています。
レビューによると、走行中に両端の平面部分が擦れてチューブが破損しやすいそうで、この部分から空気漏れするとの報告がチラホラ。
修理可能なピンホールパンク程度のダメージで済むものの、やはり後発の「らく早チューブ」の方がこの部分の完成度が高いですね。
アイチューブのサイズ展開は三種類で、詳細は以下の通り。
【24インチ用】WO 24×1 3/8 (ETRTO:37-540)英式バルブ
【26インチ用】WO 26×1 3/8 (ETRTO:37-590)英式バルブ
【27インチ用】WO 27×1 3/8 (ETRTO:37-630)英式バルブ
さて、棒型チューブには「らく早チューブ」と「アイチューブ」の二種類があることがわかりましたが、アイチューブのパッケージ裏には気になる一文が見られます。
「チューブの接合部分で、乗車走行時に多少の違和感を感じる場合があります。」
チューブがドーナツ状じゃないので予想された欠点ですが、通常のチューブと比べると乗り心地の面で不利なのは間違いなさそう。
因みに、レビューを見る限りこの症状は「アイチューブ」でも「らく早チューブ」でも共通していて、現行の棒型チューブでは避けられない問題といえるでしょうか。
こんなふうに書くと、走行中に一定周期でガタガタする最悪な乗り心地を想像しがちですが、実際は凹凸の少ない滑らかな路面で違和感を覚えやすくなる程度とのこと。
当たり前ですが、タイヤの空気圧やトレッド面の厚さでも感じ方が変わり、ママチャリで使うなら十分に許容範囲だと評する方も少なくありません。
電動アシスト自転車で棒型チューブを使う利点とバルブ穴の互換性について

冒頭でも触れましたが、棒型チューブはママチャリだけでなく一部の電動アシスト自転車とも相性が良いです。
特にリアホイールにユニットがある電動アシスト自転車がそうで、このタイプはリアホイールの着脱がママチャリを凌駕する面倒臭さ。
走行中にパンクしようものなら出先での修理がほぼ不可能で、【1】自家用車で回収して帰宅する【2】最寄りの自転車店まで押し歩きする【3】市販のパンク修理剤を注入する
実質、この三つくらいしか取れる手段がありません。
お察しの通り、この問題を簡単に解決してくれるのが棒型チューブで、ネックとなるホイールの着脱が一切不要です。
棒型チューブさえあれば、突然のパンクも怖くない!
そう諸手を上げて喜びたいところですが、厄介な問題もあります。
先ほど紹介した棒型チューブはバルブが全て英式……
自転車に詳しい方ならもうおわかりですね。
自転車は車種によってホイールに備わったバルブ穴の直径が異なるため、全ての車種で棒型チューブが使える訳ではないのです。

現在、自転車に使われているバルブは全部で四種類。
左から順に最新の「SCV」、仏式の「SV」、英式の「DV」、米式の「AV」となり、対応するバルブ穴は大きくふたつに分類されます。
バルブ穴の直径はSCV・仏式が6.2mmに対して米式・英式は8.2mm
要するに、棒型チューブ採用の英式バルブでは太すぎて、スポーツサイクルで主流の仏式バルブ対応のホイールには使えないのです。
辛うじて米式バルブ対応のホイールには使えますが、ロードバイク・クロスバイク・MTBといった本格的なイーバイクには総じて仏式バルブが採用されいるため、穴を加工する以外に使う術がありません。

わかりやすい例がBESV/ベスビーの電動アシスト自転車でしょうか。
上画像は全てリアユニット式の電動アシスト自転車ですが、下段のクロスバイクとロードバイクには仏式バルブ。
上段のミニベロが米式バルブ、フェンダー付きのコミューターバイクには英式バルブと、車種や用途によって採用されているバルブに差別化が見られます。
前述の通りバルブ穴の直径が異なるため、上段のミニベロやコミューターバイクには棒型チューブが使えても、残念ながら下段のクロスバイクやロードバイクには使えません。
乗り心地に若干難のある棒型チューブをスポーツ車で常用したい方はまずいないと思いますが、緊急用の予備チューブとしてなら需要がありそうな気も。
まとめ
知る人ぞ知る「棒型チューブ」を話題にしてみましたが、利点は何と言ってもホイールを着脱せずに使えることですね。
その反面、通常のチューブと比べて乗り心地が若干劣り、対応するバルブ穴にも制限があるという欠点がありました。
因みに、パンク修理の相場は1000~3000円程で、リアタイヤのチューブ交換は4000円程とのこと。
棒型チューブの実売価格は一本1000~2000円くらいですから、自前でパンク修理ができることよりも、チューブ交換や携帯用の予備チューブとしての利用価値の方が勝る気がします。
あと、これは身も蓋もない意見ですが……
ママチャリや安価な電動アシスト車に乗っているような層は、そもそも自前でパンク修理なんてしないのでは?
そんな疑問が頭から離れず、2製品しかバリエーションが無かったことにも何となく合点がいきました。
最後になりますが、ホイールを外さずに普通のチューブから棒型チューブに交換する際は、古いチューブをハサミで切断する必要があるとのこと。
これは緊急用の予備チューブとして使う際にも同様で、携帯工具に刃物が無いと結局ホイールを外す羽目になります。
職質が怖いので刃物は極力持ち歩きたくありませんが、予備チューブとして使いたい場合は小型のハサミをセットで携帯するのをお忘れなく。