カーボン製……
自転車乗りがこの言葉を聞くと、特に理由もなく良い物のように思えてしまう不思議。
フレームやホイールあたりが鉄板なものの、ディスクローターなんて一見不向きなパーツにカーボンが採用されているなんてことも。
とはいえ、ブレーキ用として使われるのは私たちがイメージするような普通のカーボンではなく、カーボンカーボン(C/C)やカーボンセラミック(C/SiC)と呼ばれる特別品。
カーボンカーボン製のディスクローターはF1やMotoGPなどのレーシング用や戦闘機や大型旅客機の着陸用として利用され、カーボンセラミック製は市販の高級車なんかに採用されています。
この二種類の内、自転車用としても使われるのはカーボンセラミック(C/SiC)の方で、こちらの方が安価なのもそうですが、カーボンカーボンは高温下でしか本来の制動力を発揮できないのが一番の理由。
カーボンセラミックも温度に制動力が左右される弱点は共通するものの、低温下でもブレーキの効きがスチール製ローターにやや劣る程度で、普段使いの街乗りレベルなら十分に実用範囲とのこと。
私も詳しくは知りませんが、カーボンセラミックは炭素繊維強化炭素複合材にシリコンカーバイドを含浸させた複合材だそうで、 表面が硬くセラミック化してるため普通のカーボンとは異なる素材感です。
市販のスポーツカーに使用されているだけあって、スチール製ローターよりもフェードが起こりづらく、重量も30~60%ほど軽量。
おまけに高い耐摩耗性も備えるそうで、スチール製にありがちな錆といった腐食に強いのも魅力でしょうか。
もちろん弱点もあり、前述した通り低温下での初期制動力は弱め。
また、ローター自体が高価な上に専用パッドも必要という金喰い虫っぷり。
最も気になるのが耐久性で、カーボンセラミックは硬いと同時に脆い性質があり、強い衝撃や急激な温度変化によりディスクの表面が欠けたり割れてしまうことがあるとのこと。
お察しの通り、摩耗や損傷があると修理はほぼ不可能。
スチール製のように歪んだらチューナーで調整するといったテクニックも通用しないため、トレイルライドと言った転倒を伴うハードな使い方には向かないかも知れません。
さてさて、退屈で眠りを誘うような前置きはこれくらいにして、ここからが本題。

YouTubeの動画でたまたま知ったのですが、今ではカーボンセラミックのディスクローターが普通に入手できることを知ります。
LVZHUNという聞き慣れないブランドの製品で、まさかの中華製でした。
価格は一枚13000円とかなり高額なものの、シマノの最上位ローター「RT-CL900」が10000円弱。
制動力の高さで知られるイタリアンブランド「BRAKING/ブレーキング」のライトウェーブやSTAGE 0が20000円前後なことを考えると、質によってはギリギリ許容範囲な印象も。
中華ブランドからリリースされているくらいですから、ここから一気に普及するのでは?
なんて思いましたが、案の定落とし穴が……
この製品、カーボンセラミックを謳っていますが、実はアルミにセラミックコーティングを施した製品だったりします。
品質や評価は悪くないものの、胡散臭い星5の提灯レビューに混じって「コーティングだから買っちゃアカン!」的な低評価があり、あっさり正体がバレています。
当然のことながら、使い続けると被膜は徐々に剥がれ、最終的にブレーキには不向きなアルミ部分が露出。
おまけにこの手のセラミックコーティングは耐摩耗性や耐熱性は向上するものの、ブレーキの効き自体は普通のスチール製ローターに劣るのが実情。
一応、高温時でも安定した制動力を得られ腐食にも強いという利点はありますが、通常時にブレーキの効きがイマイチという部分がどうしても引っ掛かりますね。
正直に商売をすれば、ドレスアップパーツとしてそれなりの需要があったのでは……そう思わずにはいられませんが、外観や質感が良いだけに惜しい顛末でしょうか。

残念ながら、実用レベルのカーボンセラミック製ローターの登場は空振りに終わりましたが、製品自体は2010年代から存在しています。
うろ覚えですが、パイオニアだったのがKETTLE CYCLESで2012年にキックスターターから業界初のリリースが行われました。
市販のブレーキパッドでも使用可能とのことで、国内からも飛びついた方が多かったのですが、現在はKETTLE CYCLESのHPは存在せず、安定した供給には結びつかなかった模様。
それ以降、カーボンセラミック製ローターは現れたり消えたりを繰り返し、2016年にはスペインのAlpha社からもリリースされましたが、こちらも商業的には成功せず定番にはなり得ませんでした。

因みに、カーボン製のディスクローターを探すと、見つかるのは上画像のようなアウターローターがスチール製でインナーローターがカーボン製のフローティングローターばかり。
結局、現時点でまともなカーボンセラミック製ローターは手に入らない訳ですが、希望が持てない訳ではありません。

台湾のBRAKCO社が2018年から粘り強く開発を続けていて、画像は2024年に出品された時のもの。
160mm径のローターで65gという驚異的な軽さで、外観は素人にもわかりやすいカーボン風味。
実際のリリースが何時になるのかわかりませんが、開発が難しいのはローターではなく専用のブレーキパッドの方だそうで、低温では十分な制動力を発揮できないカーボンセラミックの特性に合わせて発熱しやすい物が求められるとのこと。
特にMTB用として注目を集め、実用に耐える可能性があるとしてリリース前から高く評価されています。

あとBRAKCOのライバルになりそうなのが、こちらのROCKBROS/ロックブロス。
実際の重量は不明ですが、こちらもかなり軽量だそうで中国で開催されたサイクルショーでは金賞を獲得。
ロックブロスはフットワークが軽い印象があるので、先手を打つのはこちらかも知れませんね。
ローターよりも肝心なブレーキパッドが出品されていない点が気になりますが、カーボンセラミック製のディスクローターはアジア圏の会社が特に積極的な印象でしょうか。
低温や常温ではスチール製ローターと比べて制動力に劣る。
そういった欠点はあるものの、長時間ブレーキングしてもフェードが起こりづらく発熱により制動力が向上するといった性質は、ヒルクライムやダウンヒルといった場面で重宝されるかも知れません。