カーボンフレームの自転車が増えてきたせいか、プレスフィットBBと呼ばれる圧入式のボトムブラケットの話題がチラホラと目に付くようになりました。
個人的にメンテのしやすいBSAの方が好みなのですが、増車したフルサス29erこと『Trek Full Stache 8』は、アルミフレームにも関わらずこのプレスフィットBBが採用されています。
さて、ここからが本題なのですが、幸か不幸か安価でカーボン製のクランクが手に入ってしまい、この不慣れなプレスフィットBBに向き合うことになりました。
現在使用しているクランクはSRAMの一世代前にあたるGXP、新しいクランクが現行のdub、スピンドル径はGXPが22mm-24mmの非対称でdubが28.99mmと全く互換性が無いため、プレスフィットBBごと交換する必要があるのです。
工具が一通り揃っているBSAなら手慣れたものですが、初体験のプレスフィットBBは正直わからないことだらけです。事前にしっかりと下調べをしたり、動画で作業手順を確認してみたりもしましたが、実際の作業はスムーズとは程遠く、行き当たりばったりな結果になってしまいました。
少し長い内容になってしまったので前後編に分けますが、今回はプレスフィットBBの取付け・取外しの下準備として、プレスフィットBBに必要となる工具の解説やGXPクランクの取り外し方法について紹介してみます。
プレスフィットBBの取付け・取外しにオススメの工具は?
何はともあれ専用工具が必要ということで調べてみると、これが中々ムズカシイ…BSAの場合は種類さえ間違えなければ専用のレンチひとつくらいで済むのですが、プレスフィットBBは規格が無駄に多い上に取付け・取外しにそれぞれ別の工具が必要になる場合が殆どです。
手っ取り早く済ませたいなら、上画像のようなセットになった工具を買い求めるのが一番ですが、【1】BBシェル幅【2】BBシェル径(内径)【3】スピンドル径、この三つの要素が対応していないと、100%の機能を発揮してくれないことがあり、しかもこの手の工具セットは気軽に手を出せないくらい割高です。
実のところ、BBの取付け(圧入)はそれほど【1】~【3】の要素に依存しておらず、仮に規格が対応していなくても、ちょっと工夫すれば何とかなります。ですが、取外しとなると途端に危うくなり、使えるか使えないかは現物合わせの博打のような状態でしょうか。
シェル幅、シェル径に関わらずスピンドル径が24mmや30mmの場合なら特に心配はありませんが、22mm-24mmのGXPでは24mm用が使える可能性アリ、28.99mmのdubは規格が新しいのでまだ未対応といった感じですね。
一番安いプレスフィットBB用の工具セットが6000~8000円くらい、例え完全対応していなくても、ちょっとした加工で何とかなりそうな気がしましたが、今回はあえてセットを購入せずに取付け・取外し用の工具を別々に購入してみることにしました。
プレスフィットBBの取付け/圧入に使える工具
プレスフィットBBの取付け/圧入用の工具は、上画像のようなヘッドパーツの圧入用工具を流用することが多いですね。
プレスフィットBB専用の場合は、BBを圧入する左右の円盤状の部分にスピンドル径に合わせた凸状の加工が設けられ、圧入時に中心軸がズレない仕組みになっています。
この仕組みは規格が適合していれば便利ですが、前述した工具セットに見られるようにスピンドル径の違いに合わせて対応する円盤を付け替える必要があり、画像の工具のように円盤部分がフラットになっている物の方が汎用性に優れます。
私の場合、交換するBBが28.99mmのdubなので、こういったシンプルでスピンドル径に依存しない工具の方が向いていると感じますね。
定番は画像左のPARKTOOL HHP-3だそうですが、お察しの通り高価なので画像左の中華製で十分かも知れません。持ち手のハンドルが無い分だけ使い勝手に劣るものの、円盤部分が比較的フラットなので申し分ないです。
プレスフィットBBの取外しに使える工具
ぶっちゃけプレスフィットBBは取付けよりも取外しの方が遥かに厄介です。カーボンフレーム向きに開発されたBBなのに、取外しの代表的な手段が物理的な打突というお粗末さ。
画像上のPARKTOOL BBT-30.4や画像左下のラッパ状のリムーバーなどが定番で、少し変わったところではロングタイプのタイヤレバーを使う方もいらっしゃいます。
使い方は至ってシンプル、プレスフィットBBの内部の溝に宛がって、ハンマーでガンガン叩き出すだけですが。この工具もBBのスピンドル径や内部形状に依存し、PARKTOOL BBT-30.4よりもロングタイプのタイヤレバーやラッパ状のリムーバーの方が汎用性が高いですね。
工具をガンガン叩く必要がありますし、使い方を誤るとフレームに傷が付きかねないといった理由から、カーボンフレーム車のユーザーには不評な工具ですが、取外し予定のBBを再利用する気が無いなら悪くない選択肢でしょうか、叩きすぎてBBがダメになっても平気なら…という意味ですけどね。
因みにロングタイプのタイヤレバーは長くても15cmほど、持ち手の幅が24mmより太いことが多いので、使用するBBによっては相性問題があるので注意しましょう。
正式名称は不明ですが打突系の工具から選ぶなら、汎用性の高いラッパ状のリムーバーくらいしか選択肢がありません。各社からリリースされていますが、GXP用を取外すなら最小スピンドル径である22mmに対応した物がオススメですね。
さて、ガンガン叩く荒っぽい方法でしか外せないのか…とお嘆きの方には、マイルドな方法があります。
画像右の工具は前述の工具セットにも含まれていますが、単体でも販売されていて打突を加えることなくプレスフィットBBの取外しが可能です。
工具本体の下にある二つのスモールパーツのどちらかを、対応するBB内部の溝に引っ掛けてナットの締め付けで引き上げる仕組みですね。
現状ではこの工具がベストなのですが、残念ながらBB内部に引っ掛けるスモールパーツの大きさが対応していないと使えず、GXPやdubはもとより規格の氾濫しているプレスフィットBBでは不確定要素が多過ぎるのが難点です。
DIY精神の旺盛な方ならスモールパーツを加工したり自作することで解決できますが、汎用性を求めるなら画像左の『ベアリングプーラー』を使う方法もあります。
本来はベアリングの取外しに使う工具ですが、三つの爪をBB内部の溝に引っ掛けてレバーを回すと、BBカップを引っぱり上げるように取外すことができます。
スピンドル径やBBカップ径に依存せずに使えるので大変便利ですが、BBカップを引き上げるためにベアリングプーラー左右にある足をフレームに突っ張る必要があり、フレーム形状に依存してしまうのが唯一の欠点でしょうか。
ロードバイクやハードテイルのMTBとなら相性問題は少なく、キズ防止のために厚めのゴム板を敷く程度で済みますが、フルサスMTBのようのBBまわりのフレーム形状が不規則な場合は注意が必要ですね。
異音防止のグリスは必須!コスパ重視でプレスフィットBB用の工具を購入
今回はコスパと汎用性を重視して、プレスフィットBBの取付け・取外しに必要な工具を揃えてみました。取付け用には中華製の安価な圧入工具、取外し用にはバイクハンド製のリムーバーをチョイスです。
取外し用として、使い勝手の良さそうなベアリングプーラーを購入するか否かを最後まで悩みましたが、Full Stache 8とはフレーム形状の相性が悪かったので泣く泣く見送りですね。
さて、工具に加えて購入したのがこちらのグリスです。プレスフィットBBは本体が非金属の樹脂製またはアルミ製のため、経年劣化や温度変化で変形が起こることがあり、その際に生じた隙間などが異音の原因になります。
圧入時には左右ワンとBB内部にグリスを必ず塗布しますが、異音の防止には普通のグリスではなくワコーズの『ブレーキプロテクター』を塗るのが定番らしく、粘度の高いこのグリスが隙間を上手い具合に埋めてくれます。
じゃあ私もそれに倣って…と行きたいところですが、残念ながらこのブレーキプロテクターはやたらと高価な上に容量も使いきれないほどで、圧入のためだけに購入するのは流石に躊躇しました。
他に代替となるグリスはないものかと探してみると、画像の『ブレーキシムグリース』が手頃な価格で、容量も60gと丁度良かったです。
本来の用途はワコーズのブレーキプロテクターと同様に自動車や自動二輪のディスクブレーキやドラムブレーキの鳴き防止らしいですが、別段ワコーズのブレーキプロテクターに拘る必要は無いでしょう。
続いて、安価な中華製を選らんだプレスフィットBB圧入用の工具はこんな感じです。供回り防止用にベアリングが設けられていて、価格の割によく考えられていました。
スレッドレングスは20cmで十分な長さですが、円盤部分はΦ5cmなので仮にカップの外径がこれよりも大きなBBを圧入する場合は、別途でΦ6cm座金などを準備する必要がありそうです。
注意点として、左右にあるナットの対面幅が16mmと少し特殊です。手持ちの工具で使いたい場合は対面幅17mmの10Mのナットと交換するか、調節可能なモンキーレンチを二つ準備して対応しましょう。
上画像が交換予定のカーボン製クランクで、30Tのチェーンリグ込みでも450g以下というMTB用のクランクでは一二を争う軽量さです、訳あり品ですが安く入手できてラッキーでした。
使用するBBは『SRAM DUB PRESSFIT PF92』でBBシェル幅92mm、BBシェル径41mmのBOOST用、このサイズなら前述した圧入用工具で問題なく対応できます。
せっかくBBがあるので序でにテストしてみますが、バイクハンド製のリムーバーは画像のように使用します。細い方からBB内部に差し込み、ラッパ状の部分を手で窄めつつ奥まで挿入し、BB内部にある溝にカチッと引っ掛けます、あとは逆方向からリムーバーの頭をハンマーで叩くだけですね。
寸法はラッパ状になっている部分がΦ30mmくらい、細い部分がΦ22mmでGXPのスピンドル径やΦ30mmのスピンドル径にも対応できます。
GXPやスピンドル径がΦ24mmのBBに使用すると、ラッパ状になった部分が大きすぎてスムーズに挿入できませんが、本体は曲げやすいスチール製になっているので、穴の大きさやBB内部の溝に合わせてラッパ部分を広げたり窄めたりしてサイズ調整する使い方で差支えありません。
最後に、ここでは紹介しませんでしたがハンマー類は必須なので、しっかりと準備しておきましょう。個人的にプラハンよりも大き目のゴムハンの方がオススメでしょうか、思いのほかパワーが必要になる作業でしたので…詳細は後編にて。
説明するまでもない?GXPクランクの取外し方法
プレスフィットBB交換の下準備として、現在使用しているアルミ製クランクを取外します。
何気にGXP規格に手を付けるのは初めての経験ですが、取外し方法は至って簡単で反ドライブ側のクランク軸に8mmの六角レンチを差し込み、反時計回りに緩めるだけです。
ファットバイクのクランクも8mmの六角レンチで、少し前まではロングタイプの物を使用していましたが、強い力を加えづらい上に差し込み部分の短さから工具でクランクを傷付けてしまうことがあったので、現在はラチェットハンドルにロングタイプの六角ソケットを装着して使っています。
クランクを取外すと、こんな感じになっていました。BBカップにはPRESSFIT【GXP】MTBの文字が見られますね、dub規格の登場でGXPは今後消えゆく存在となりますが、その影響でクランク・BBなどが投げ売りされています。
見慣れない赤色のパーツは何だろう?と思っていましたが、どうやらこれはダストキャップのようですね、左ワンは画像のように星型の穴が開いていますが、右ワンのダストキャップには丸い穴が開いていました。
因みに、旧規格だけに右ワン側にはクリアランス調整用のウェーブワッシャーが入っていました、現在のクランクはプリロード機構が主流なので、このパーツも今後は見掛けることが少なくなりそうです。
左右のダストキャップとウェーブワッシャーを取外し、いよいよプレスフィットBBの取外しに挑みますが、記事が予想以上に長くなってしまったので、実際の作業は【後編】で紹介したいと思います。
まとめ
予告…という訳ではありませんが、私はプレスフィットBBの取外しに予想の10倍増しで苦戦します。
YouTube動画なんかを見ると割とすんなり外れているケースが多いのですが、それを鵜呑みにすると痛い目を見るかも知れません…打突系のプレスフィットBBリムーバーのレビューで『カーボンフレームに使うのは怖い…』といった意見が多かったことに、今更ながら納得ですね。
それでは、悪戦苦闘する【後編】に乞うご期待下さい。