ファットバイクを含むMTB界隈では、随分前らか1×11/ワンバイイレブンや1×12/ワンバイトゥエルブといったフロントシングル&ワイドコグの組合せが当たり前になっています。
私のファットバイクは既にフロントシングル化が済んでいますが、通常は同時に行うワイドコグ化が手付かずのまま。
少し前にDTSwiss製ホイールのフリーハブボディをSRAM XDドライバーに交換し、ようやく下準備が整いました。
今回は予定していた通りに、ファットバイクのコンポーネントをSRAM/スラム化してみる事にします。
SRAM公式が提供しているPDFマニュアルが大変わかりやすいので、実際の作業で戸惑った部分やシマノ製コンポとの違いに注目した内容となりますが
1×11速や1×12速コンポで発生する不具合『クランク・ペダル逆回転問題』についても簡単に触れています。
あえて11速!初スラムで『SRAM GX』をチョイス
私が今回選んだのは『SRAM GX 11S』で、見ての通り世間的には旧世代といえるMTB用11速コンポです。
あえて11速を選んだのは、単純にファットバイクを少しでも軽量化したかったから。
12速のGX EAGLEは10-50Tのスプロケットが450gと重量級で、350g程度の上位グレードはスプロケットだけで6万円前後と、とてもじゃありませんが手が出せません。
ですが、これが11速だと型落ちなせいか最上位グレードのXX1 XG-1199に何とか手が届きます。
本来使用するXG-1150は394gと重いですが、このXG-1199は同じ10-42Tにもかかわらず269gと驚くほど軽量で、中古品で状態の良い物が運よく手にに入りました。
クランクはシマノ・スラム両方のリアメカに対応するカーボン製に交換済みなので、今回はスプロケット、シフター、リアディレイラー、チェーンの交換がメインとなります。
シフターは悩んだ末にトリガーシフターを選びました。
真冬に厚手の防寒手袋を使うファットバイクの場合、ガチャガチャ回せるグリップシフトの方が都合が良いのですが、このグリップシフトは現在入手が困難になっています。
ブレーキレバーもSRAM製ならブレーキ側にひとまとめにしてクランプできますが、今回はバークランプ版をチョイス。
バークランプ版はオープンクランプになっていない点に不満を感じますね、ロックオンブリップじゃないと付け外しが面倒ですから。
一応、BIKEYOKEなどの他社からは樹脂製のオープンクランプがリリースされていたはず。
気になる操作性ですが、レバーふたつで動作する点はシマノのラピッドファイヤーと同じものの、SRAMのトリガーシフターはシフトアップもダウンもふたつのレバーを親指で押して操作します。
リア用のラピッドファイヤーはシフトアップレバーを押しても引いても動作する仕組みになっていますが、トリガーシフターは押す事でしか変速できない構造。
最初は戸惑いそうですが、カチカチと押し心地が良いのですぐ慣れそうな予感がします。
続いてリアディレイラーを見てみますが、こちらはシマノ製と結構違いますね。
左側にはインナーワイヤー用のガイドローラーが設けられ、右側にはケージロックシステム用のボタンが備わっています。
以前からケージロックシステムの存在は知っていましたが、これがとにかく便利。
テンションプーリーのアームを車体前方にグイっと伸ばしてボタンを押すと、その状態のままアーム位置をキープ可能。
これによりチェーンテンションを一時的にユルユルなままにでき、リアホイールを着脱する際は特に重宝します。
ディスクブレーキ車はホイールの着脱時にローターで車体に傷をつけてしまいがちなので、両手が塞がらずに余裕を持って作業ができるのは本当に助かりますね。
ケージロックが使いたいという理由だけでSRAMを選ぶ方も多く、その話にも納得できる良機能でしょうか。
個人的にスプロケット以外の軽量化には期待していませんが、SRAM GX 11Sの方が僅かに軽量でした。
シフターとリアディレイラーを合わせた重量を確認してみると、DEORE M610シフターとXT RD-M786リアディレイラーの組み合わせが410g、SRAM GX 11Sが396gという結果に。
PDFマニュアルが超親切!SRAM GX コンポの取付けに挑戦
さて、いよいよSRAM GXコンポーネントの取付けに移りますが、冒頭でも触れた様にSRAM公式のPDFマニュアルの方がわかりやすいです。
パッケージ同梱のペラ紙に記載してあるいつくかのサイトから忘れずにダウンロードしておきましょう。
まずはトリガーシフターをハンドル右側に取付けますが、オープンクランプじゃないのでグリップやブレーキレバーの取外しが少し面倒。
締め付けトルクは2Nmと弱く、カーボンハンドルに優しい仕様です。
試走時に微調整する予定ですが、クランプのボルトが真上を向くくらいの取付け角度がしっくりきました。
シフターケーブルを接続しインナーを通した後は、リアディレイラーを締め付けトルク11Nmで取付け。
後述しますが、不慣れだとリアディレイラーにインナーケーブルを通すのに苦戦するので、リアディレイラー固定前に済ませてしまうのも手です。
リアディレイラーを固定したら、トップアジャストボルトでトップギア側のストローク調整を行い動作範囲のリミットを設定します。
シマノ製でもお馴染みの作業なので詳細に解説しませんが、後述するBテンションボルトの調整でこの部分を再調整する羽目になるので、そこまで厳密にしなくても大丈夫です。
続いて、上図左の様にインナーケーブルを通してから固定しますが、ぶっちゃけこの部分はシマノ製よりも面倒臭いですね。
ガイドローラーにケーブルがスムーズに通りませんし、ガイドローラー通過後はL字になったトンネルルートに通すのを忘れがち。
そのままだとルーティングに手間取るので、車体を逆さまにするかリアディレイラーを再度取外した方が作業が捗ります。
先端がぼさぼさに乱れたインナーだと間違いなく苦戦するので、中古品の場合は先端をしっかりと整えておきましょう。
イライラしつつもルーティングを完了し、仕上げにインナーケーブル固定。
上図右の拡大画像では少し複雑なルートを選んでいる様に見えます。
マニュアル画像を真似るなら画像左のルートの方が正しいように思えますが、実際に試してみると現実的じゃないと直ぐに気が付きます。
気になって調べてみると、マニュアルの図解は結構いいかげんだそうで、SRAM公式の動画では画像右の楽ちんルートで当たり前のように固定していました。
この画像では確認できませんが、固定用ボルトの裏にはケーブルがフィットする溝があるので、公式動画に倣った楽ちんルートでも固定力に問題はありません。
下手に拘らず、画像右の方法でサクッと済ませましょう。
固定の際はケーブルを手で引っ張るだけで十分なので、ペンチで無理に引っ張る必要はありません。
続いて、ローアジャストボルトでローギア側のストローク調節を行い、動作範囲のリミットを設定します。
ここもBテンションボルトの調整で再調整する事になるので、最低限ホイール側にチェーン落ちしない程度で構いません。
マニュアル通りだとチェーン無しでも作業できるはずですが、縮こまったままの縦アームがスプロケットに干渉してしまい作業がストップ。
見落とした手順やコツの様なものがありそうですが、私は結局チェーンを通してから調整を行いました。
順序が前後しても問題のない部分なものの、この時点で済ませたい場合は縦アームを手で動かしながら作業するか、一足先にケージロックボタンを使った方が良いでしょう。
いよいよチェーンを通しますが、チェーンの長さはワイドコグで主流の上画像の方法で決めます。
フロントシングルの場合なら、チェーンをリアディレイラーに通さず、リアの最大ギアに掛けた時の長さプラス2リンク分が適正な長さとなり、28T以上のスプロケットでは昔ながら方法が使えません。
因みに、チェーンカッターはちゃんと11速・12速対応の物を使いましょう。
チェーンを適切な長さにカットした後はリアディレイラーにチェーンを通します。
ここで、お待ちかねのケージロック登場。
テンションプーリーのアームを車体前方にグイっと動かすと、特定の位置でケージロックボタンをカチッと押せるようになり、アームが固定されるとボタンが常に凹んだ状態になります。
この状態で上画像のようにチェーンを通しますが、SRAM製のチェーンには裏表がないので特に注意する点はありません。
チェーンまわりの作業を終えた後にケージロック機能を解除しますが、ボタンを再度押すのではなくアームを車体前方にもう一度軽く押すことで解除できます。
この時にリアがトップギアになっているとアームが勢いよく戻るので、手にぶつけないように気を付けましょう。
当たると地味に痛いです。
私もミスったのでチェーンを通す際の注意点をひとつ。
SRAMのチェーンコネクターことPowerLock/パワーロックには取付け方向が存在します。
画像は失敗例ですが、PowerLockに刻印されている矢印が右向きになるのが正しい方向。
チェーンの進行方向と矢印の向きが同じになるといえばわかりやすいでしょうか?
PowerLockがチェーンステーの上側に位置する時に矢印が車体前方を向くのが正解です。
重ねていいますが、上画像は失敗例なので間違えないように注意しましょう。
あと、PowerLockはペンチ状のミッシングリンク用ツールを使うか、PowerLockをチェーンステーの上位置にして、リアブレーキを掛けつつペダルを踏めばカチリとハマります。
PowerLockもミッシングリンクと同じく再利用は非推奨なので、繰り返し使用は自己責任で。
チェーンの取付けが済んだら、リアディレイラーのBテンション調整に移ります。
わかりやすく言えばガイドプーリーとスプロケット間の距離を設定する作業ですが、この部分が適正値になっていると変速が小気味よく決まります。
SRAM11速・12速用コンポはBテンションの調整が割とシビアだそうで、簡単に調整が出来るように上画像のプレートがリアディレイラーに付属しています。
SRAM Eagle Chaingap Adjustment Gageと呼ばれ、単体での購入も可能。
このチェーンギャップアジャストゲージはSRAM 12速のバージョンアップと共に調整が加えられ、現在は全く異なる形状の物が主流になっていますね。
残念ながら11速用には同梱されていないツールなので、マニュアルを参考に目視で設定します。
マニュアルによると、1×7速、1×11速、1×12速の場合は最大ギアとガイドプーリー間の距離を14mmにするのが適正値とのこと。
正直、定規では使い勝手や精度が今一つだったので、チェーンギャップアジャストゲージが欲しくなりました。
私の場合、ポン付けした時点で最大ギアとガイドプーリー間の距離が30mm。
リアディレーラーを後方に押してテンションを緩めつつ、小矢印のBテンションボルトを反時計回りにして、両者の間隔を14mmまで近付けます。
適正値になったら、ここでようやくトップアジャストボルトとローアジャストボルトを再調整し、トップ側ロー側のリミットを本決め。
この時点で、今までのぎこちなさが嘘だったようにリアディレイラーがガチガチと動作し始め、見慣れたリアディレイラー本来の動きが拝めるように。
インデックス調整を煮詰めることで変速もスパスパ決まるようになりますが、今後はワイヤーの初期伸びが待ち構えているので、あまり神経質に調整しない方が良いでしょう。
悩む場面もありましたが、これで取付け作業は完了です。
クランク・ペダルの逆回転で1×11速化の不具合に気付く
さて、SRAM GXコンポの取付けが一段落し、Bテンションの調整具合を確認するためにクランクを逆回転させて、チェーン詰まりが無いか確認していた時のことです。
トップギアから順に確認していくと、11速のローギアでクランクを逆回転させると、ほぼ確実にトップギア側にチェーン落ちする現象が発生しました。
逆回転時はガイドプーリーによる誘導が無いので当然と言えば当然なのですが、あまりにもあっけなく落ちすぎる気が……
最初はBテンションボルトの調整不足かと思ったのですが、どうも様子が異なります。
ゆっくりとクランクを逆回転させながら観察してみると、上画像の様にチェーンがローギアに乗り上げた後に1~2枚外側のギアにチェーン落ちていました。
フロントシングル化するとローギアでチェーンラインに無理が出やすくなるので、頭では納得できる症状なのですが、10速スプロケット時には見られなかった現象だけに少し引っ掛かります。
試しにBBのスペーサーを抜きチェーンラインをロー側に3mm近付けても症状は全く改善しませんでした。
チェーン落ちする寸前を真上から見るとこんな感じ。
ガイドプーリーによる誘導無しの逆回転でこれだけチェーンが斜めになっていればチェーン落ちも納得です。
気になって同様の症状が無いかと調べてみると、海外では普通に知られる不具合らしく『Sram Backpedaling Issue』と呼ばれていました。
直訳すると『スラムのペダル・クランク逆回転問題』となりますが、どうやらスラムだけでなく1×11や1×12のフロントシングルならシマノ系コンポでも発生しやすい問題のようです。
私の拙い英語力では理解しきれず誤った情報も含まているかも知れませんが、チェーンラインはもちろん、チェーンの内幅やチェーンリング同様にナローワイド化されたスプロケット。
シフトゲートやチェーンを繋ぐミッシングリンクの形状など、様々な要因が絡み合っている事だけは理解できました。
症状を緩和する方法として、チェーンラインの見直しが最も効果的ですが、ダイレクトマウント式のチェーンリングではオフセット値の異なるチェーンリングを使うくらいしか手段がなさそうです。
ファットバイクは極太タイヤとチェーンとの干渉を避ける目的で元からチェーンラインが極端になっている場合も多いですが、6mmオフセットのBOOST用チェーンリングなら少しは改善できるかも知れません。
リア最大の42Tを使う機会はそうそうありませんしクランク逆回転なんて尚更なので、取り合えずここまま使ってみる予定。
海外の同胞によると『実害が無いなら、気にしないのが一番の解決策』だそうですから。
変速は意外に滑らか?SRAM GX 11速を試走した感想
微調整とシフトフィーリングの確認を兼ねて、梅雨の合間を縫って30kmほど試走。
予想通りスプロケット軽量化の効果は皆無でしたが、変速がスパスパ決まり小気味よさを感じます。
よく言われるように、シマノと比べるとガコンガコンと変速するデジタルっぽさが確かにありますが、これは好み次第な印象。
親指プッシュの操作感に出だしこそ混乱しましたが、レバータッチがカチカチと気持ち良かったせいか、あっという間に指に馴染んでくれました。
クランク逆回転時の不具合があったのでチェーンラインのシビアさが気掛かりでしたが、不思議なことにシマノ製コンポの頃よりもチェーンが鳴かず、1~11速の全てでノイジーさを感じません。
新品のチェーンで注油も十分だったせいもありますが、内幅がシマノ11速用より0.2mm広く、特殊表面加工されたメッキ仕様になっているのも少なからず影響しているのでしょうか。
結局、30kmの行程で一度もチェーン落ちすることはなく、私の用途では42Tで逆回転なんて状況にはなりませんでした。
メッキ加工されたバイカラーのチェーンが艶めかしく輝き、見た目もシフトチェンジのメカメカしさも私好みのコンポです。
GX 11速の型落ちコンポですが、軽量化で車重が11kg台になり、走行感も以前よりもずっと良くなりました。
フロントサス付き、ドロッパーポスト装備、アルミフレーム。
この組合せで11kg台のファットバイクはそうそう無いぞと自画自賛したくなります。
まとめ
初スラムと言うことで何かとシマノと比較してしまいましたが、変速の滑らかさは甲乙つけ難く完全に好みの違いと言った感じでしょうか。
決定的に違うのはケージロックの存在で、これに慣れるとシマノには戻れなくなってしまいそうです。
巷では既に12速が主流ですしスプロケ51Tや52Tも普通になってきましたが、軽量化をコスパ良く達成したいなら11速も悪くありません。
余談ですが、12速からはシマノとスラムで完全に互換性が無くなったので、ミックスコンポには要注意。