予報では厳しい冬になるとのことでしたが、不思議とご当地は平穏そのもの。
まとまった積雪があったのは初冬だけで、路面を覆う雪もまばらです。
二月を過ぎてもこの有様ですから、スノータイヤの出番はもう来ないのかも知れませんね。

気温は低いものの天気は上々、珍しく風も穏やかです。
グラベルロードで出走と思いきや、やっぱり冬の主役はファットバイクが適任でしょう。
久々のライドなので晴天の中を無為に走るだけでも楽しめますが、今回はちょっとした目的があります。
見知った里山に二日連続でイノシシが出没しているとのことで、その姿をカメラに収めたくなりました。
奇妙に思うかも知れませんが、私の住む地域にはイノシシが生息しておらず、今まで野生下の個体を拝んだことが無いのです。
聞くところによると、2000年頃から徐々に生息域が北進しているそうで、ここ数年でようやく出没のニュースが聞かれるようになりました。
イノシシは牙が鋭利で死亡例もありますから、遠間から撮影できれば御の字ですね。

最寄りのサイクリングロードを経由して目的の里山に向かいますが、出発前にタイヤの空気圧を0.35BARから0.75BARに加圧しました。
ルート上にはもう雪が残っていないだろうという判断からですが、この思い込みが裏目に出ます。

サイクリングロードを奥へ奥へと進むと、日当たりの悪い場所では雪が解け残っていました。
ここは車両進入禁止のはずですが、何故か軽トラの轍が先まで続いていますね、付近の農地占有者の方でしょうか。
この程度の積雪なら余裕で走れそうに思えますが、ファットバイクにも苦手とする雪質があります。
俗に言う「ザラメ雪」がそれで、酷い場合は僅か5cmの積雪で走行不能になることも。
春先の雪解けシーズンによく見られる緩く湿った雪質で、低圧にしていない無雪期用タイヤでは全く歯が立ちません。

その場でタイヤの空気を抜いても良かったのですが、再充填が面倒なのでそのまま突入。
幸い日陰だったせいか思ったほど雪質は緩んでおらず、表面だけが硬い「もなか雪」に近い状態でした。
このまま進むか否かで逡巡しつつ視線を前方に向けると、途切れることなく雪道が続いていて、根雪の嵩もこれからが本番といった感じ。
この光景に日寄った私は素直に引き返すことを選び、迂回路を使って目的地に向うことにします。
一昔前なら、当たり前のように突き進んでいたでしょうけど、走破性を楽しむのはもう卒業しましたからね。

迂回路となる幹線道路に引き返すと、アスファルト上にはバラ撒かれた融雪剤が目立ちます。
融雪剤は降雪前や除雪直後に散布するのが正しい使い方だそうで、こんなふうに散乱していても何ら不思議はないとのこと。

迂回路を抜け、先ほどのルートの延長線上にあるサイクリングロードに再合流。
今のところ路面に根雪の姿はありませんが、車両進入禁止なだけに恐らく奥地は解け残っているでしょう。

予想通り雪が残っていましたが、またもや自動車の轍が刻まれています。
こちらは狩猟目的の車両か河川巡視のパトロールカーが残したものでしょうか。
アスファルトが覗く深々とした轍なので、有難くトレースさせていただくことに。

車両の轍でラッセル泥棒してみたものの、たった100mでタイヤはご覧の有様。
湿ったザラメ雪がタイヤにへばり付き、タイヤノブが完全に無力化されています。
こうなるとトラクションなんて少しも掛からず、ファットバイクはあえなく撃沈。

全く進めなくなったので、降車して押し歩きに切り替え。
雪道最強タイヤのSURLY「BUD&LOU」で来ていればギリギリ走れたかも知れませんが、このタイヤでは無理筋でした。
キッチリ低圧にしていたとしても、結果は変わらなかったでしょう。

車体を押し歩きしていても絶えずタイヤに雪がまとわりつき、一周ごとにフェンダーがそれを削ぎ落している状態。
ファットバイクに乗り始めた頃は、絶対に押し歩きはしたくないという謎のプライドを発揮していましたが、長年乗っていると「こういうのも相棒感があって悪くない……」そう思えるようになりました。

結局、先行していた車両の轍が消える地点までファットバイクを押し歩き。
自動車もここから先は無理だと判断したようで、雪面を激しく乱してUターンした痕跡がありました。
何となく意地になって来てみたものの、私も普通にUターンです。

無駄を楽しみつつ、ようやく目的地の里山に到着。
目を凝らしながらイノシシの姿を探しますが、残念ながら空振りに終わります。
実際に現地に来てみると農地改良の工事が行われていて、イノシシが好みそうなヌタ場がそこかしこに。
二日連続で出没した理由にも、これで合点がいきました。

帰路の途中、水鳥を撮影するために馴染みの野池に寄り道。
低温が続いたせいか湖面が全面凍結していました。
水鳥なんて当然見当たらず、本日二度目の空振りです。

帰り際に定番コースの山道を通ってみると、意外にもアスファルトが剥き出し。
ここを定番コースにしてから数年が経ちますが、除雪車が通ったのを見たのは初めてかも知れません。

全く収穫の無かった押し歩きライドでしたが、最後の最後にキツネがお出迎え。
レンズの圧縮効果からお察しいただけるように、数百メートル前方からこちらの様子をうかがっています。
アイヌ語でチロンヌップ、「どこにでもいるもの」という意味で呼ばれているだけに、期待を裏切らないアピール振り。
現在はちょうど繁殖期にあたりますが、冬毛のこの時期に貧相に見えるのが少し気になりますね。
ボリューム感の無い尻尾からすると、疥癬を患っているのかも知れません。
疥癬は自然治癒が難しい上に移りやすいので、私の思い違いであって欲しいです。