このブログでも過去に何度か触れた話題ですが、今回は良くも悪くも巷を賑わす『油圧式ディスクブレーキ』についてです。
私の油圧デビューは数年前に購入したファットバイクで、当時はそのレバータッチの軽さと凄まじいストッピングパワーにとにかく驚かされました。
今になって思うと、前後とも直径180mmのローター。
パッドはローターへの喰いつきが良いメタルタイプ。
リムブレーキどころかママチャリのブレーしか知らない素人には、いささか持て余し気味のスペックだったでしょうか。
さて、油圧ブレーキの性能自体には満足していたものの、立て続けのトラブルで疲弊し、その後は同じディスクブレーキでも調整方法に自由度のある機械式にあっさりと交換しています。
このことで、ローターがパッドに擦れる『引きずり』やオイルラインに空気が混入しレバーがスカスカになる『エア噛み』など。
こういった油圧ブレーキあるある問題から距離を置くことができていたのですが……
三年の月日を経て、再び奴が私の前に現れました。
言わずもがな、少し前に増車した29erプラスのトレック フルスタッシュ8がその『奴』で、当然の如く油圧式ディスクブレーキが採用されています。
個人的にあまり良い思い出はありませんが、三年前とは油圧ディスクブレーキに関する知識量に雲泥の差があますし、今回ばかりは心に余裕をもって付き合えるだろう。
そういった淡い期待を抱いていたのですが、そんな都合の良い話はありませんでした。
悲しいかな、ブレーキキャリパーとブレーキパッドをクリーニングした後に、あの大嫌いな引きずり音がまたしても聞こえ始めたのです。
悪夢再び…油圧ディスクブレーキで『引きずり』発生
さて、上画像は油圧式ディスクブレーキのキャリパー部分を大雑把に説明した物。
何らかの原因でブレーキパッドとローター間のクリアランスがゼロになり、走行中にシャリシャリとローターがパッドに擦れ続ける現象を俗に『引きずり』と呼びます。
ディスクローターの厚みはおよそ1.5~2mmくらいですが、ローターとパッド間のクリアランス幅は左右合わせても1mm程度な上に、油圧式は自分で調整できる余地が残されていないというオマケ付き。
引きずりは個人的に最も嫌いな不具合の一つですが、私が思いつく範囲で原因をまとめると、以下の通りになるでしょうか。
【1】キャリパーの取付け位置がロータに対してセンタリングされていない
【2】ローターに歪み、または固定が緩んでいる
【3】キャリパーのピストン動作に異常がある
【4】ブレーキフルードの劣化または入れ過ぎ
【5】ハブが緩みローターごとガタが出ている
【6】ホイール着脱の前後でスルーアクスルの固定トルクがまちまち
あくまでも、フレームやフォークの剛性、ブレーキマウント部のフェイシング精度が十分であることが前提ですが、こういったことが原因になりがち。
今回のケースの場合はキャリパー清掃前に問題がなかった事から【3】のピストン絡みが怪しい感じですね。
前後のキャリパーを掃除した際にブレーキパッドも脱脂・洗浄しているので、再取付け時にパッドの組み合わせがバラバラになったのも遠因でしょうか。
こういった場合は新しいパッドに交換した際と同様に、ピストンプレスなどの工具か傷を付けないヘラ状の物でピストンを根元まで押し戻し、キャリパーの動作を一旦リセットする必要があります。
因みに【4】のブレーキフルードの劣化または入れ過ぎですが、ブリーディングやエア抜き時に適切なブリードブロックが使われておらず、フルードが入れ過ぎになっていると起こりやすいです。
ブリードブロックを使わずに左右のピストンが押し出されたまま作業を完了すると、後々フルードがオーバーフローを起し、下手をすれば内圧でレバー側に不具合が出てしまうなんてことも。
私の場合は中古車につき、過去にどのようなカスタマイズやメンテナンスがされたのを知る術がありませんから、ブレーキフルードの入れ過ぎでクリアランス幅が十分でない可能性も否定できません。
少しわかりづらいのが【3】の『キャリパーのピストンに異常がある』でしょうか。
上図で解説していますが、油圧式ディスクブレーキには機械式ディスクブレーキのようにレバー解放後にパッドを元に戻すリターンスプリングが備わっていません。
では、油圧で押し出されたキャリパー側のピストンがどうやって元の位置に戻っているのかというと……
加圧により変形したピストンリングが減圧で復元することによりピストンも元の位置に戻るという、かなりシンプルな仕組みだったり。
また、このピストンリングは復元力以上の圧が加わるとピストンの相対位置をローター側にずらしてから元に戻る動作をします。
これが油圧式ディスクブレーキはパッドが擦り減ってもクリアランスが自動調整されるといわれる所以ですね。
密閉式になっている自転車の油圧ブレーキにおいて、自動調節のせり出しで増えた容積分をどうやってカバーしているの?
そう疑問に思いますが、リザーバータンク内にあるダイアフラムが変形することによりフルード不足が解消され、レバーストロークにも変化が出づらい仕組み。
少し話が脇道に逸れてしまいましたが、油圧式ディスクブレーキを長い間ノーメンテで使用していると当然ピストンやピストンリングに汚れが蓄積します。
それが動作の妨げになると上図右のようにレバーを解放してもピストンが元位置に戻らなくなり、厄介な『引きずり』を招きます。
私はワコーズのフォーミングマルチクリーナーでキャリパー本体もピストン側面もクリーニングしましたが、YouTube上にアップされたPARKTOOLの動画ではブレーキフルードを綿棒に付けてピストンをクリーニングしていました。
理に適った方法なのでピストン側面にはこのやり方が正解かも知れませんね。
シマノやマグラならミネラルオイル、スラムやホープならDOTといった感じに、使用されているフルードと同じ物で洗浄します。
4ポッドは大仕事!油圧式ディスクブレーキのピストン清掃&潤滑
さて、ピストン動作に問題がありそうなキャリパーを再調整。
ブレーキパッドを取外した状態で上画像のようにピストンの出代がちぐはぐな場合は、ピストンが汚れて動きが悪くなっている可能性大です。
画像では隣り合うピストンで比較していますが、4ポッドのキャリパーは隣り合うピストンの直径に違いがあるため、元から出代が異なる場合が殆どです。
流石に画像程の差は出ない筈ですが、隣ではなく向かい合うピストンで出代の違いを確認するのが正解ですね。
このキャリパーも16mmと14mmと隣り合うピストンの直径が異なるため出代に違いがあり、レバーの握り加減でブレーキの効き具合が段階的に変化するタイプの製品です。
4ポッドの油圧ディスクブレーキは効きは良いものの、こういった作業の際は労力が2倍以上になり兎に角面倒でした。
側面を綿棒で拭き取るために、一箇所や片側だけのピストンを押し出すのが難しく、終始作業効率が悪かったです。
後で調べたところ、この作業を簡易化するためにキャリパー純正のブリードブロックをカッターで加工して、ピストンが個別に押し出されるように改造している知恵者がいらっしゃいました。
私は10mmの六角レンチでピストンを押さえつけながら作業しましたが、その発想力……私も見習いたいところです。
因みに、ピストンの出代を確保するためにブレーキレバーを握る必要がありますが、強く握り過ぎるとピストンが一気に飛び出してしまうので要注意!
そこからフルードがドバドバと漏れるとエア抜きや再ブリーディングが確定するので、パッドを外した状態でブレーキレバーを引く場合はくれぐれも慎重に且つ小刻みに行いましょう。
後述しますが、私は油断して大失敗しました。
メーカーによる違いはあるでしょうが、ピストンの出代は精々4mmくらいにしておきましょう。
ピストンが飛び出してフルードが漏れると高確率でレバータッチがスカスカになりますし、フルードが攻撃性のあるDOTな場合は人体はもとよりフレームの塗装にもダメージが及びます。
小技として、クリーニングしてもピストンの動きがイマイチなときは、シリコンオイルでの潤滑を試しましょう。
ピストンの側面に綿棒などで少量塗布すれば十分なので、付け過ぎには注意。
誤ってパッドやローターに付着してしまうとブレーキの効きが著しく低下するので、遠ざけて作業するのが無難です。
ピストンの側面を綿棒でクリーングしシリコンオイルを塗布した後は、レバーを握ってピストンを慎重に押し出す⇒ピストンプレスで押し戻す。
この作業を3回以上繰り返して、ピストンの動作を正常化します。
正常化しても、上画像のように向かい合うピストンの出代が不均一なままである場合も多いので、この作業はほどほどで切り上げるのが吉。
完璧ではありませんが、キャリパーのセンタリングで補える程度の差異なので、これで終了しても大きな影響はでないでしょう。
上画像のように、レバーを握った際に全てのピストンがバランス良く押し出されるのは稀なので、あまり神経質になる必要はありません。
前述したように4ポッドなので、小さいピストンが僅かに先行しているのが確認できますね。
シンプルな2ポッドなら突き詰めても構いませんが、4ポッドは面倒臭すぎて正直この作業には向ていません。
次回があるなら、ピストンクリーニング用のブリードブロックを自作して臨みたいところでしょうか。
因みに、先ほどから何度も触れているピストンプレスという専用工具ですが、PARKTOOL製『PP-1.2』の使い勝手がなかなか良いですね。
他社製のピストンプレスは閉じたパッドにこじ入れたり、ピストンを押し戻すのが主目的ですが、PARKTOOL製はそれに加えてピストンの飛び出しを抑えたり、何度も押し込んて潤滑させる用途にも向いています。
持ち手がしっかりしていて先端部分が他社製よりも力を加えやすい構造になっていますが、先端の幅が25mmと一部のロードバイク用キャリパーには大きすぎる場合もあるので、その辺だけは注意でしょうか。
聞くところによると、ピストンやパッドを傷を付けづらいタイヤレバーを流用している方も多いそうです。
まとめ
最後なりますが、今回の手法でフロントブレーキは無事回復できたものの、悲しいかなリアブレーキで大失敗しました。
フロントが上手く行って油断していたせいもありますが、調子にのってレバーを握りすぎて、見事にピストンの一つが飛び出します。
当然、その穴からはDOT5.1がドボドボと滴り落ち……慌ててピストンを押し込むことに。
塗装にダメージが及ばないようにフレームをウエスで拭き取りつつ、霧吹きで水をジャバジャバ浴びせて無毒化させましたが、幸いフレームに別状はなくホッと胸を撫で下ろします。
もちろんフルード不足でレバーはスカスカになりましたけどね。
さて、この大失敗は専用のキットで再ブリーディングしなければ回復できないことが確定しています。
本当なら面倒臭いなぁ~と気が重くなるところですが、実はブレーキシステムを丸ごと交換する予定でいたので、そ思ったほどダメージはありません。
現在使用しているブレーキ『SRAM GUIDE R』には気温30度以上でレバー内のピストンが膨張しレバーが戻りづらくなる既知の不具合があり、使い続けるべきか悩んでいた代物です。
現行品は既に対策されているそうですが、個人的に人体に毒性&フレームに攻撃性のあるDOT5.1フルードも苦手だったので、もともと気温が高くなる前に交換する予定でした。
今回の失敗で少しだけ時期が前倒しになりましたが、近いうちにシマノかマグラの新ブレーキがお目見えする予定。
察しの良い方ならこの記事のトップ画像でどちらを選んだかはもろバレですけどね。