私はファットバイク・グラベルロード・ミニベロと複数台持ちの自転車乗りですが、ウインターシーズンにファットバイクで悩まされた事の一つに、路面から伝わる振動があります。
ホイールの小さいミニベロならともかく、サスがわりにもなる極太タイヤを備えたファットバイクで振動に悩まされるなんてありえるの?
そんなふうに訝しく思うかも知れませんが、これが状況によっては結構キツいのですよ。
人通りや交通量の少ないルートなら特に問題はありませんが、日中の気温で緩んだ上にぐちゃぐちゃに踏み荒らされた路面が再凍結すると、さながら小石が無数に転がる河川敷のような状況になります。
こうなるとフロントサス&空気圧0.5barのファットバイクを以てしても、お尻や腕に伝わる振動や突き上げをいなしきれず、3kmも走ると体の各所に疲労や痛みを感じ始めます。
実は、ファットバイクを購入したとほぼ同時に『SR SUNTOUR/エスアールサンツアー NCX』というサスペンションシートポストを購入していて、その気なればある程度の対策は可能でした。
ですが、このNCXは800gオーバーという鈍器に使えるほどの重量のため、車体の取りまわしや押し歩きが増えるこの時期は、できるだけ使いたくないというのが本音です。
結局、NCXよりも軽量なサスペンションシートポストを買い直すことになり、値は張るものの以前から気になっていた『Cane Creek THUDBUSTER/サッドバスター』に狙いを定めることに。
どうせなら振動対策が欠かせないミニベロにも使えた方が良いのでは?
いざ購入を決めるとそんな欲も出てしまい、シートポストシムで共用可能なポスト径27.2mmタイプを購入。
テストを兼ねて早速ミニベロにインストールしたところ、まさに目論見通り……
ミニベロとサスペンションシートポストの相性が抜群に良く、今まで使っていなかったことを軽く後悔する程でした。
おすすめの”サスペンションシートポスト3選”それぞれの特徴は?
サスペンションシートポストを選ぶなら、パンタグラフ式を採用したCane Creek製かSR SUNTOUR製がおすすめです。
衝撃が後方にスライドするように吸収されるので、上下に動作するタイプよりも座面が安定し、ペダリングの力が逃げにくい仕組み。
私が今回購入したのが上画像左の『THUDBUSTER LT』で、トラベルは76mm、重量はポスト長450mmタイプで540~570g程。
上画像中央がトラベルが33mmと短い『THUDBUSTER ST』で、重量はポスト長400mmタイプで454~474g程です。
両者とも、衝撃吸収にはエラストマー樹脂と呼ばれるゴムに似た素材を採用。
シートポスト部分は普通のポストと同様に中空になっているため、少しでも軽量化したいなら任意の長さにカットしてもOKです。
私はファットバイクとミニベロで使いまわしする予定だったので、トラベルに余裕のあるLTを選びましたが、実際にミニベロで使用してみるとオーバースペック気味な印象を受けました。
ミニベロ・ロードバイク・グラベルロードに使用するならSTで十分な気がします。
上画像右が私がファットバイクに使用していた『SR SUNTOUR NCX』で、トラベルは50mm、重量はポスト長350mmタイプで820g。
ポスト内にはコイルスプリングが仕込まれているため高重量ですし、シートポストがカット出来ないなどの欠点が目立ちます。
ですが、コイルスプリングなのでエラストマー樹脂よりも劣化に強く、パンタグラフ式の中では価格が手頃なのも魅力でしょうか。
因みに、三種類の中では唯一NCXだけに標準で可動部分を保護するネオプレン製のダストカバーが付属します。
安価な製品は使用していると、サスペンション部分の軸がガタつきやすく、サドルごと左右に回転してしまう事もあるので、出来るだけ上記のパンタグラフ式の中から選びましょう。
【追記】Cane Creekからは、2018年にロードバイクやグラベルロード向きの軽量サスペンションシートポスト『eeSilk』が登場し、2024年に『eeSilk+』バージョンアップしました。
『eeSilk+』は、アルミモデルとより軽量なカーボンモデルに細分化し、対応するシートポスト径も充実。
クッション性を司るエラストマーが正円から楕円形へと変化したことでトラベル量も35mmにアップしています。
残念ながら、初期モデルの300g以下から若干の重量増となり50gほど重くなりましたが、そのかわりとして価格が以前よりも控え目になりました。
また、2020年には『THUDBUSTER LT』と『THUDBUSTER ST』 もリニューアルされ、耐久性の向上やトラベル量の増加、工具不要でエラストマーの交換が可能などのブラッシュアップが図られています。
トラベル量はLTが76mm⇒90mmへ、STが33mm⇒50mmへと増加し、エラストマーを含むポストの外観にも変化がみられますが、耐久性の向上に伴ってLTが最大750g、STが最大540gとかなり重くなってしまったのが残念ですね。
ロードバイク・クロスバイク・ミニベロには『eeSilk+』。
グラベルロード・ファットバイク・ハードテイルMTBには『THUDBUSTER ST』かそれ以上のモデル、そういった選び方になるかも知れませんね。
ミニベロに”THUDBUSTER/サッドバスター LT”を導入
冒頭でもお伝えしましたが、『SR SUNTOUR NCX』に続く、通算2つ目のサスペンションシートポスト『THUDBUSTER LT』をミニベロに導入してみました。
早速、開封してみると以前は黒い化粧箱入りだった製品が簡易包装になっています。
まず目に留まったのが、要ともいえるサスペンション部分で、予想していたよりも随分と大柄な作りに少し驚かされました。
箱らか取り出して、手持ちのNCXと比べてみても倍近い大きさですね。
面積だけなら、5インチスマホくらいはあるかも知れません。
手に持ってみると、ポストが中空になっているせいかカタログスペックよりも軽量な感覚で、NCXの半分くらいの手応えです。
パッケージの裏側にはパンタグラフ式の動作が図解されていますが、見て分かる様に後ろにスライドして衝撃を吸収する仕組み。
上下の動きを最小限に抑えることでサドルが安定し、ペダリングでの力の伝達ロスが上下タイプよりも軽減されます。
付属品は調整用のエラストマー樹脂二種類と紙製のマニュアルのみで、可動部分を覆うネオプレン製のダストカバーは別売り。
装着済みも含めて四つあるエラストマー樹脂にはナンバーが刻まれ、利用者の体重で使用する組み合わせが変化します。
デフォルトでは、ナンバー【#5】のエラストマーが本体に二つセットされ、調整用の二つにはナンバー【#3】とナンバー【#7】が含まれていました。
マニュアルは英語で不親切な内容ですが、取り付けやエラストマー樹脂の交換はそれほど難しくありません。
体重別のエラストマー樹脂の組み合わせが一覧で記載されていて、最も軟らかい『XSoft』のナンバー【#1】と最も硬い『XFirm』のナンバー【#9】は残念ながらダストカバー同様に別売りになっています。
私の体重ならば【#3】と【#3】または【#1】と【#9】の組み合わせが妥当ですが、どちらも付属のエラストマーだけでは再現できないので、【#3】と【#5】の組み合わせに交換することにしました。
ミニベロのF-20Rに組付けるにあたって、シートポストクランプをレバークランプ式からボルトクランプ式に交換します。
気休めレベルの盗難対策ですが、サスペンションシートポストはそこそこ高価ですしフリマサイトなんかへの出品も容易なので、レバー式のままよりも遥かにマシでしょう。
F-20Rの折り畳みが多少面倒になりますが、私は滅多に折り畳まないので特に問題はありません。
ミニベロでサスペンションシートポストを使用した感想
ミニベロへの組付けが無事完了し、いよいよ試走してみることにしますが、組付ける際に幾つか面倒に感じる部分があったので少しだけ触れておきます。
エラストマー樹脂を交換する際は上画像の赤丸部分にあるスキュワーを引き抜かなければなりません。
その際にナットをメガネレンチかソケットレンチで固定しつつ、裏側から二つのエラストマーを貫いているボルトを六角レンチで緩める必要があり、作業中に両手が塞がってしまいがち。
私はサスペンションシートポストを車体に固定する前に交換したので、余計に苦戦する羽目になりましたが、エラストマーの交換はポストを固定した状態で作業したほうが楽に出来ます。
また、これは『Thudbuster LT』だけの特徴ですが、スキュワー部分にはエラストマー樹脂の予圧機能があり、ボルトを締め上げた後、先端がナットから何ミリ露出しているかで判断する仕組み。
エラストマー樹脂の組み合わせだけでも問題なく使用できますが、マニュアルによるとこの部分で微調整が可能とのこと。
サドルレールへの固定は二点留め。
前後の赤丸部分を六角レンチで調整することで、サドルの固定と角度調整が出来ますが、サスペンション機構が邪魔になって六角レンチが奥まで入りづらいですね。
調整のしづらさを見越してか、前後に手や工具で回せる大小のツマミが設けられていますが、大きいツマミに真下から六角レンチを差し込むと穴を舐めやすい印象がありました。
【追記】2020年にリニューアルされた『THUDBUSTER LT』は外観が大きく変化し、STをそのまま大きくしたような見た目になりました。
エラストマースプリングもSTとほぼ同じ作りになり、前述した複数のエラストマーを組合せる方法やスキューワーによる予圧機能は過去の物になっています。
効果を実感しやすい様に、愛用の神サドルこと『SERFAS/サーファス RXアドバンス』ではなく、若干硬めの『RX-RR RACE READY/レースレディ』をチョイス。
サッドバスターのサスペンション機構の大きさから、もっとアンバランスな感じになると思いきや、愛車のミニベロ『F-20R』にそこそこ馴染んでいますね。
簡易的なリアサスペンションともいえるソフトテールやブルホーンハンドルが相まって、コンセプト自転車チックのな佇まいです。
さて、導入する前から覚悟はしていましたが、愛用のサドルバッグが使えなくなりました。
サドルレールとシートポストの二点で固定するタイプのサドルバッグは全滅で、常用する場合はフロントバッグかサドルレールに一点で固定するタイプのサドルバッグが必要になりそうです。
今回はツールケースに携帯品を入れてボトルケージにマウントし、嵩張るチェーンロックはベルトに括りつけて、何とか急場を凌ぎました。
期待しつつサドルに跨ってみると、やはりサドルごと柔らかく沈み込むような感覚があります。
調整が甘すぎたかな?と思いましたが、サドルがグッと深く沈み込むのはサドルに体重が集中するこの瞬間だけ。
ハンドル・ペダル・サドルとバランスよく体重を分散させると、サドルが0.5~1cmほど下がったと感じるくらいの位置に落ち着き、サスペンション付きMTBのサグと同じような印象でした。
通常のシートポストと比べて、走行中は上記三点への加重を強く意識させられるので、普段お尻に痛みを抱えがちなら、矯正効果を期待できるかも知れません。
私はシート高を再調整しませんでしたが、沈み込み分を考慮して普段よりも1cm程度は高くしても差し支えないでしょう。
NCXをファットバイクに使用していた時から薄々感じていましたが、ミニベロとサスペンションシートポストは本当に相性が良く、走り出した瞬間から効果の高さを実感します。
3cm程度の段差なら、お尻に突き上げはありませんし、状態の悪いアスファルトから感じる細かな振動も、ほぼゼロになります。
お尻だけ滑らかに平行移動している様な不思議な感覚があり、ハンドルとペダルからのみ、いつもと変わらない振動が伝わって来る感じでしょうか。
サドルへの振動が劇的に改善するので、今まで抜重していた段差で気が緩み、かえってリム打ちパンクのリスクが上がってしまいそうですが、このままファットバイクの固定装備にするには惜しいくらいの心地良さです。
気になる沈み込みによるペダルロスは個人的に気になるレベルではありませんでしたが、柔らかく肉厚なサドルを使った時の感覚に少し似ている気がしました。
総評として、サッドバスターはエラストマー樹脂を使用している為かコイルスプリングのNCXよりも丁寧に路面の凹凸を拾ってくれる印象ですね。
サスペンションが機能する閾値がNCXよりも低く、アスファルトの僅かな凹凸でも機能をハッキリと体感できます。
オフロードの荒れた路面はもちろん、オンロードでもしっかり仕事をしてくれるサスペンションシートポストですね。
後日、手持ちの一点止めサドルバッグを取り付けてみると、ギリギリでサスペンション部分やサドル後部に干渉しませんでした。
これで携行品の収納場所は確保できましたが、サドルの後ろ側に手を差し込むスペースが全く無いので、駐輪などで車体を取り回しする際に少し不便に感じます。
このまま使い続けても構いませんが、携帯品をボトルケージのツールケースに入れて分散し、サドルバッグは一点留めのSサイズかマイクロサイズの製品を選んだ方が使い勝手が良さそう。
まとめ
予想していたとは言え、サスペンションシートポストを使うだけでミニベロの乗り心地がここまで改善されるなら、使わない手はありません。
F-20Rはクロモリフレームですし、リアにはサッドバスターと同じエラストマー樹脂のソフトテールが元々備わっているので乗り心地は良い方ですが、乗り心地が硬いアルミフレームのミニベロや折り畳み自転車では、もっとハッキリとした効果が得られるのではないでしょうか。
人によってはサッドバスターの価格や重量で使用を躊躇いますが、結構前にキックスターターで話題になった『RINSTEN SPRING/リンステンスプリング』なんかも面白そうですね。
一般販売が開始されてからは類似品もチラホラ見掛けますが、上画像のように大変シンプルな構造のため価格が控えめなのが嬉しいところ。
約350gと若干重い気もしますが、お試しで購入するなら悪くない選択肢でしょうか。
サスペンションシートポストは割と需要の多いパーツらしく、年を追うごとに次々と新たな製品が登場しますが、重量が弱点だったコイルスプリング式にも良品が増えているのが嬉しいですね。
重量685gのBBB『BSP-41』やアルミ製500g台/カーボン製400g台のCirrus Cycles『KINEKT』なども気になりますが、現在の一番人気は重量547gで外観もコンパクトなRedshift『SHOCKSTOP Seatpost』辺りでしょうか?
トラベルは35mmと控えめで価格も割高ですが、個人的にスマートでスッキリとした見た目がなかなか魅力的に映ります。