前回の記事で軽く触れましたが、少し前に自転車を増車しました。
車種はフルサス29erのプラスタイヤ規格、俗にセミファットバイクというヤツでトレック社の『Full Stache 8/フルスタッシュ8』です。
5インチファットバイク、ミニベロに続く3台目の自転車となり、既にファットバイクを持っているのにどうしてセミファット?と不思議に思うかも知れませんが、実のところ規格が古くなり部品調達が難しくなった現行ファットバイクの後継になれば…との目論見で増車しました。
今回のウインターシーズンに限り、ファットバイクとセミファットの二段構えという贅沢な楽しみ方ができますが、個人的に一番気になるのは『雪道においてプラスタイヤの29erはファットバイクにどこまで迫れるのか?』という点でしょうか。
私の地域では根雪になるのにもう少しだけ時間が掛かりそうですが、今回は手始めとしてトレック フルスタッシュ8を初乗りした感想と、私が感じたファットバイクとの違いについて簡単にまとめてみます。
はじめてのフルサス&29er『Trek Full Stache 8』について
タイヤ幅2.8~3.0インチのセミファットバイクをファットバイクの後釜にと考え始めてからは、現状でどういった選択肢があるのかと色々と調べました。
セミファットバイクには『27.5+』と『29er+』という二系統のプラスサイズバイクが存在し、27.5+は29erをプラスタイヤにカスタマイズ、29er+は完成車と言う傾向が強いですね。
さて、どうせなら兎に角デカいヤツが欲しいぜ…という実に頭の悪い理由から29er+を選ぶ事にします、有名処ではSURLY/サーリーやSALSA/サルサの29er+が鉄板でニッチ車種ながら最近は大手メーカーもチラホラリリースしています。
タイミング良くフロントサスモデルが登場した事もあり、SURLYのKRAMPUS/クランパスあたりで決まりかな…と考えていたのですが、たまたま目に留まったトレックの29er+シリーズ『Stache/スタッシュ』が気になり始めます。
その中でも特に私の興味を引いたのが29er+且つフルサス仕様のFull Stache/フルスタッシュ 8です、どうやら日本国内での取扱いはワンシーズン前の2019年モデルのみで、しかも事前受注分のみの販売でした。
まさに時すでに遅し…な訳ですが、仮に店舗在庫があっても対面販売が基本なトレックでは遠隔地からの購入はハードルが高く、しかも私の求めるフレームサイズはMではなく絶対数の少ないLです。
これで気が削がれた事もあり、何となく今期の増車を諦めるムードになっていたのですが、何の巡り合わせか中古で状態の良いフルスタッシュ8が手に入りました、しかもフレームサイズは19.5のLサイズですよ!奥さん。
因みに、車重は約15.4kgと結構な重さです…オールマウンテン・トレイル系のフルサスバイクで29er&極太タイヤとなれば1~1.5kgの増量もやむなしでしょうか、ヤマハのクロスバイク型E-Bike『YPJ-C』が16.1kgという話を聞くと結構ショックですけどね。
まあ、現在所有のファットバイクは購入時に17kg以上ありましたから、重い自転車と何かと縁があるのかも知れませんね、今後はタイヤ交換&チューブレス化で実重量が13kg台、各部の軽量化で12kg台といった感じに仕上がるでしょうか。
ギミック満載な『Trek Full Stache 8』の細部をチェック!
フルスタッシュでまず目を引くのが左右非対称になったチェーンステーの形状でしょうか、このお陰でチェーンステー長は430mmと限界まで短くなり、大型ホイールの29er+らしからぬ機敏さを発揮します。
ファットバイクのチェーンステー長は460mmとフルスタッシュよりも30mm程長いですが、ヘッドアングルが寝ているため、ホイールベースはフルスタッシュの方が10cm程度長く、実際に乗ってみるとフロントホイールが随分と前にあるように感じますね。
コンポはフロントシングル定番のSRAM GX Eagle 12S 10-50Tでフロントのチェーンリングは30Tが使われていました、29erはスピードが出るので32Tに交換するのもアリでしょうか。
ヘッドアングルに関連して、スイングアームのリンクナット部分にはMino Link/ミノリンクと呼ばれるギミックがあり、六角レンチでこの部分を外して上下を入れ替えると車体のジオメトリを変更できます。
ヘッドアングルを更に寝かせてBBハイトを下げたり、またその逆にしてみたりとフィールドに応じた楽しみ方にその場で変更きますが、パーツが小さいので組み換え時は無くさないように注意が必要です。
実際にやると少し面倒に感じますし、山中のトレイルでパーツを無くしたら自走で帰れない可能性があるでの、ジオメトリの変更は自宅で済ませた方が良いかも知れません。
CANYONのエンデューロバイク『Strive/ストライブ』にも同様の機能があり、こちらはハンドル備え付けのスイッチで即座に可変できます、実用を考えるならあと一歩踏み込んだ進化に期待したいですね。
ヘッドパーツにはKnock Block/ノックブロックと呼ばれる機能があります、ハンドルを切れすぎないようにすることで、転倒してもフォークの肩の部分がボトムチューブにダメージを与えない仕組みになっています。
実際に乗っている時は何ら不自由を感じませんし、その気になれば無効化もできますが、狭いガレージ内などで車体を取り回したりする際は、動きが制限されてしまい少しだけストレスを感じますね。
もはやマウンテンバイクでは当たり前になったドロッパーシートポストも標準装備されています、ファットバイクでもコスパ最強のドロッパーシートポスト『Brand-X Ascend II』を使っていますが、剛性はこちらのボントレガー製の方が上で左右へのガタが微塵も見られません。
その反面、シートチューブアングルが寝ている影響からかドロッパーシートポストの動作が鈍い事がたまにあり、特に最も伸びた状態でレバーを押しても自重で沈み込んでくれない事が多いですね、レバー側に問題はありませんし、動作はBrand-X Ascend IIの方がスムーズなので、改善しない場合は交換も視野に入ります。
ドロッパーポストの他に、標準装備のボントレガー製サドルが中々優秀で、250g以下と軽量な上にカジュアルウェアで20km以上走っても尻痛が出ませんでした、40km未満の距離なら問題なく使い続けられるかも知れませんね。
ブレーキはSRAM Guide Rで久々の油圧式しかも4ピストンです、ローター径は前後とも160mmとやや控えめでしょうか、ガツンと効くあの強烈な制動力を期待したのですが、どうやらブレーキパッドがレジン製らしく、辛うじてロックはするもののブレーキタッチはファットバイクに使用中の機械式と比べるとダイレクト感に欠け、気の抜けた様な感覚がありました。
因みにこのGuide Rには既知の不具合があり、気温が30度を超えたあたりでレバー内にあるピストンが膨張しレバーが戻りづらくなります、この問題が話題になったのが2018年の上半期くらいでしたから、実質同時期に登場した2019モデルのフルスタッシュでピストン径を小さくした対策品が使われている可能性はかなり低いですね…微妙にレバーの戻りが悪いのが少し気懸りです。
ひょっとしてエア噛みしてる?と思うくらい効きやタッチがイマイチですし、SRAM系はフルードに有害なDOT5.1が使われているので、早いうちにミネラルオイル使用のシマノ製かマグラ製に交換するかもしれません、個人的に前後セットでコスパの良い『Magura MT Trail Sport』あたりを使ってみたいですね。
フロントサスペンションはRockShox Pike RLでトラベル量は130mmです、フルスタッシュはフロント15x110mm、リア12x148mmハブのBOOST規格で、このPikeは通常の29er用ではなく、まだ国内では市販されていない29er+用の珍しい製品が装備されています。
余談ですが、前のオーナーさんがフロントサスをプチ改造していて、トラベル量が150mmに強化されています、トレック公式HPにあるサグ値計算アプリが使えないのが少し残念ですが、トラベル量にかかわらず15%程度が目安になっていました、私の場合150mmなら20%くらいが一番しっくり来るでしょうか。
少し意外だったのがRockShox Pike RLにロックアウト機能がない点で、ファットバイクのRockShox Blutoにすら備わっていただけに、かなり戸惑いました。
調節機能はLSC(ロースピードコンプレッション)のみで、プラス方向いっぱいにレバーを回す事で疑似的なロックアウト機能として働くことになるのでしょうか?
LSCという概念自体が初めて目にする物なので、わからない事だらけですがペダリングやブレーキングなど、主に乗り手が加える力に対しての縮み方を調節する部分な事だけは理解できました…たぶんですけど。
リアサスはFox Performance Float EVOL RE:aktiv 3-positionでこちらのトラベル量も130mmです、今流行りのトラニオンマウントでフルサス初体験の私としてはここからが本当の未体験ゾーンですね、おまけにFOX社製のサスペンションも初めてです。
フロントとリアでサスペンションのメーカーが異なるのはイケてないらしいですが、29er+に正式対応するフロントサスがFOXに存在していない為、この構成になった模様です…あれ?リアも普通にRockShox系で良かったのでは…トレックには謎の拘りでもあるのでしょうか。
リアサスは3-positionの名の通り、下り用のオープン、中間のPROPEDAL、路上&登坂用のロックの三段階に設定できるツマミがあり、こちらはお馴染みのロックアウト機能が使えます。
サグ調整中に気付いたのですが、前のオーナーがサグ調節用のOリングを付け忘れていました、結束バンドで代用できますがいちいち使い捨てするのも嫌なので、ホームセンターで内径27mmくらいの代替品をさがしたのですが中々見つかりませんね…アマゾンで取扱いのある用途不明のOリングが使えそうですが、取扱いの多い水回り用では適当なサイズが見当たりませんでした。
因みに上画像の奥にチラッと映り込んでいますが、フルスタッシュにはシマノの新SAINTペダル『PD-M828』を取付けました、ダウンヒル用の重量ペダルですが広い踏面に安定感があり回転もスムーズです、無骨なデザインが秀逸でミリタリーカラーのフルスタッシュに大変マッチしていますね。
さて、やはり29er+の主役といえばこのタイヤ&ホイールですね、使われているリムはSUNringle Duroc 40でリムの内幅は36mmです。
同じスタッシュでもハードテイルや旧モデルでは50mm幅のリムが使われていますが、雪道や悪路で有利な反面、タイヤの選択肢が狭まってしまう欠点があるので、フルスタッシュの40mm幅の方が個人的に好みです。
タイヤはBontrager XR4 Team Issue 29×3.0 120TPIで空気圧は2.1barが上限です、重量は1100g強と大変重いので同サイズで850gと軽量なBontrager XR2 Team Issue(旧Chupacabra)に直ぐにでも交換したいところですが、降雪シーズンを前にノブの低い軽量タイヤに交換するのは悪手な気もします…悩みどころですね。
因みに、タイヤ・ホイール共にチューブレスバルブとシーラントさえあれば、直ぐにでもチューブレス化できる仕様になっていますが、不思議な事に前のオーナーさんは一切チューブレス化をしておらず、付属の35mmチューブレスバルブも未開封のままでした。
今のところ、チューブドのままで走行していますが、チューブ重量は前後合わせて800gくらいはある筈ですから、チューブレス化で注入するシーラント分を差し引いても、600gは軽量化できる計算になります。
下りにも対応したオールマウンテン用タイヤだけにノブにも高さがありますね、目立った摩耗が見られない事から、舗装路はあまり走らなかった様です。
マウンテンバイク基準だと十分に太いタイヤですが、ファットバイクを見慣れた私には『思っていたよりも細いな…』と言うのが正直な感想でしょうか、ファットバイクは最も細いタイヤでも10cm前後はありますから無理もない話ですね、感覚が完全に麻痺しています。
ノギスで測定するとノブを含む最大タイヤ幅は77.4mmとなり、気になるタイヤクリアランスは空気圧2.0barの状態でリア・フロント共に左右上の三方向に約10mmのスペースが確認できました。
サスメーカーが推奨する最低クリアランス値が5~6mmだそうですから、単純計算でセミファットタイヤで現行最大サイズとなる29×3.25インチタイヤが普通に使えそうな印象ですね、流石は29er+規格の完成車です。
29er+セミファットバイク『フルスタッシュ8』の走行感は?
季節は既に初冬、不安定な空模様の合間を縫って20kmほど走ってみました。
比較対象はもちろんファットバイクで、車重15.4kgのフルスタッシュを取り回した後にファットバイクを持ち上げると妙に軽く感じます、実際に計量したことはありませんが13kg台くらいの感覚があり、長年に渡る軽量化の賜物でしょうか。
フルスタッシュはチューブレス化どころかパーツ一つ交換していないドノーマル状態でしたが、細部までメンテナンスした後にペダルとグリップを私好みの物に交換しています。
チューブドだけに走行感はやはり重く、スピードが乗ってくるとファットバイクよりも控えめなタイヤノイズが聞こえます、ファットバイクをカスタマイズする前もこんな乗り心地だったなぁ~と懐かしい記憶が甦りますが、体に感じる負荷はスリックタイヤ&TPUチューブで軽量化した現在のファットバイクよりも若干重く感じる…といった範疇に収まる程度でしょうか。
ファットバイク同様に車体や足まわりが重いので、坂道はやっぱり苦手だろうなぁ~しかもフルサスだし…と覚悟を決めていましたが、予想に反してファットバイクよりも登坂が楽に感じます、ホイールサイズの違いが影響しているのかも知れませんが、リア36~42Tあたりの軽いギアでファットバイクよりも失速しづらく、低速でも重力に負けずに登って行ける感覚でした。
20kmの道のりでファットバイクとの違いを最も顕著に感じたのはスピードと走破性の二点です、下り坂では怖いくらいに加速しますし、タイヤが路面にしっかりと吸い付くフルサスのお陰で走りに安定感があります、ちょっとしたギャップは無いも同然で、いつもならガクっと衝撃を受ける段差でも何事も無かった様にスルっと滑らかに乗り越えてしまいます。
26インチや27.5インチのMTB乗りが29erに乗り換えると、自分が上手くなったように錯覚するという話を聞きますが、まさにその通りだと思いました。
予定しているチューブレス化はもちろん、軽量タイヤやグラベルタイヤへの交換、軽量ホイールの導入など、足まわりの伸びしろがファットバイクよりも遥かに大きい分だけ、今後が楽しみなバイクです。
余談ですが、信号待ちやすれ違いざまにスタッシュ8を舐めるように観察するご老人が幾人かいらっしゃいました、注目を集めやすいファットバイクじゃないので完全に油断していましたが、世間一般では29×3.0インチタイヤでも十分に目を惹くらしく、前述した様に私の感覚が麻痺していることを実感できる出来事でした。
まとめ
ダラダラと長い他人の自転車紹介ほど退屈なものはありませんが、新車・中古車に限らず新しい自転車には嫌でもテンションが上がってしまいますね、せめてタイヤ幅やフォークのクリアランス幅など、数値的な部分だけでも参考にしていだたければと思います。
今のところ、フルスタッシュ8に大きな不満はありませんが、フレームはマット塗装じゃない方が手入も補修も簡単でしたね…最初からキズモノの中古車ですから少しの傷で右往左往する事はなさそうですが、マット塗装用のクリーニング方法やコーティング方法についても調べ直す必要がありそうです。
因みに2020年モデルのフルスタッシュ8はエメラルドグリーンの光沢塗装仕様です、日本国内での販売予定はないそうですが、そろそろスタッシュシリーズも日本でのレギュラーラインナップに加えて欲しいところでしょうか。