愛車の29erプラスこと『トレック フルスタッシュ8』には、初期装備の油圧ブレーキとして『SRAM GUIDE R』が採用されていました。
さてこのブレーキ、前後とも4ピストンで効きも悪くありませんが、初期モデルにはリコールされていない不具合が存在します。
安全にかかわる致命的な欠陥で、30度以上の温度になるとレバー内部の樹脂製ピストンが膨張して、最悪の場合はレバーが戻らなくなるというもの。
後期モデルはピストン形状を変更した対策品になっているそうですが、フルスタッシュ8は時期的に微妙な2018年春のリリース。
対象となるモデルなのか確証が持てない状態で、白黒つけるにはブレーキレバーを分解して内部を確認する必要があります。
この件がずっと引っ掛かっていたのもありますが、私は塗装にも人体にも攻撃性のあるDOT5.1フルードが好みではありません。
現時点でレバーに不具合は無いものの、遅かれ早かれブレーキを丸ごと交換するつもりでいました。
後釜となる油圧ブレーキは扱いやすい『ミネラルオイル』仕様というのが絶対条件ですが、そうなるとターゲットはシマノ製かマグラ製のどちらかに絞られます。
懐事情を加味すると、シマノ製なら新SLXこと『SLX M7100』シリーズから選ぶことになり、理想は4ピストンのBR-M7120キャリパーにBL-M7100レバーの組み合わせでしょうか。
何気にブレーキパッドの冷却フィンが自転車らしからぬカッコ良さです。
対してマグラ製ならレバー&キャリパーが前後セットになった『MAGURA MT Trail Sport』一択ですね。
コスパが抜群な上に評判も良いですから。
一時は情報収集が楽そうな新SLXに気持ちが傾きましたが、作業動画を見る限りブリーディング・エア抜き・ホースカットなどの作業が簡単に見えたのはマグラ製の方でした。
結局、私が選んだのはマグラ製で、シリンジ一本で出来る『簡易ブリーディング』と総重量の軽さが決め手に。
今回はいつもより画像多めな記事となりますが、『MAGURA MT Trail Sport』のホースカットや取付け方法について簡単に説明してみます。
『MAGURA MT Trail Sport』の詳細と必要な工具
新SLXよりも多少割高ですが、ホースとスモールパーツ込みの前後セットで購入できるのは、面倒事が少なくて良いです。
出番があるかどうかは私の腕次第といった感じですが、失敗に備えてブリーディングや前述した簡易ブリーディングに必要な『Magura Service Kit』も購入。
お次はこちら、ホースカッターです。
油圧ブレーキ専用の物やカッター付きのマルチツールもチラホラ見掛けますが、値段の高すぎる製品かチープ過ぎる製品かの両極端で、どちらにすべきか悩みました。
自転車専用ではありませんが、切れ味が良く1000円程度とお手頃な新潟精機PISCOのチューブカッター『TC-21』を購入。
結果としてこれを選んで正解でした。
初めての作業だと何かと用心深くなりがちですが、シマノ製などの高価なカッターは特に必要ありません。
まずは使わない可能性大なMagura Service Kitから開封。
多数のスモールパーツと青色のミネラルオイルが100ml、ホースと二本のシリンジが同梱されています。
片方のシリンジは小さな穴が開いた独特な作りになっていて、シマノ製のキットに例えるとレバー側に取付けるファンネルのように使う感じでしょうか。
簡易ブリーディングはこの穴あきシリンジとミネラルオイルの二つだけでお手軽に実施できます。
因みに、マグラのミネラルオイルはシマノ製の赤色ミネラルオイルで代用可能。
混ぜても問題ありませんし、シマノ製の赤色の方が気泡が確認しやすいという方も多いですね。
スモールパーツは上画像の通りで、オリーブの形状はマグラ製なら全モデルで共通しています。
コンプレッションインサートをホース先端に圧入する時に使う樹脂製ブロックの他に、T25のトルクスも付属していました。
レバーストロークの調整以外は全てこのトルクスだけで作業できます。
お待ちかねの本体パッケージを開封すると、結構アバウトに入っていました。
マグラの油圧ブレーキすべてが対応しているかは不明ですが、今回購入したMAGURA MT Trail Sportはブリーディング済みでの販売。
内装式だとあまり恩恵はありませんが、外装式でホース長が合えばポン付けでブレーキ一式を交換できます。
フロントキャリパーはストッピングパワー重視の4ピストン仕様。
リアキャリパーはスピードコントロール重視の2ピストン仕様。
ブレーキパッドはレジン製です。
マグラ製のブレーキパッドは用途別にパフォーマンス・コンフォート・レースの3グレードにわかれていますが、すべて非金属のレジンパッド。
ひょっとしたら社外製にメタルパッドがあるかも知れませんが、私の用途ではレジン製のパフォーマンスグレードで十分でしょうか。
何気に付属のパッドスペーサーが便利です。
普通にブレーキパッドに挟む用途だけでなくブリードブロックとしても使え、凹んだ溝部分にホースを挟んで固定すれば、コンプレッションインサート圧入時の固定用ブロックとしても使えます。
付属のスモールパーツも含めてこれだけ至れり尽くせりだと、取付作業はミネラルオイル・ホースカッター・T25トルクスの三つさえあれば十分かも知れません。
保険として購入した、Magura Service Kitは不要だったかも。
試しに計量してみると、フルード入りのブレーキシステム全体がフロント用で253g、リア用で242gと期待した通りの軽量さです。
新SLXで同じような構成にするとトータルで550g以上となり、重量差は60gほどになるでしょうか。
キャリパー本体が継ぎ目のないモノブロック構造ですし、レバーの大半がCarbotectureと呼ばれる非金属素材なのが軽さの理由ですね。
その代償としてレバー本体の樹脂製部分にクラックが入りやすい欠点があり、ガチなMTB乗りはレバーだけ丈夫なシマノ製をミックスする場合も。
海外ではSHIGURA/シグラ、国内ではシマグラなんて呼ばれています。
割と知られていることですが、マグラ製のブレーキレバーは取付けにルールが存在します。
レバーのクランプ部分には上下があり、上画像左のように取付の際はMAGURAの『M』が正位置になるのが正解となり、矢印で指定された上ボルトから締め付けるのが鉄則です。
上画像右を見るとわかりますが、まず上ボルトを完全に閉じてから下ボルトを締め付けます。
これが逆だとクランプ部分がズレてクラックが入ってしまうことがあり、補修パーツのお世話になる羽目に。
因みに、ちょっとややこしい話ですがレバーのクランプ部分に上下の指定はあってもレバー本体に上下の指定はありません。
T25のトルクスさえあれば、出先でも簡単に左右レバーの入れ替えることが可能。
パッケージ内には前後のブレーキシステムの他に、マニュアルやマグラのステッカーなどが同梱されています。
スモールパーツの入った小袋も二つありますが、どちらも中身は全く同じです。
マニュアルを頼りすれば一応のセットアップは可能ですが、多言語対応を諦めた図解と数値主体の内容になっていて逆にわかりづらい印象。
使用工具や締め付けトルクの目安にする程度でしょうか。
スモールパーツの入った小袋を確認してみると、キャリパー固定ボルトとホースカット後に使用するオリーブとコンプレッションインサートの予備が二組ありました。
右下に謎のプラ製パーツが見えますが、実はこれが結構便利なヤツだったりします。
用途は単純明快でカットしたホースの先端に差し込んで作業中にブレーキフルードが漏れたり、オイルラインに空気が混入するのを防止する目的で使用します。
呼び名は『フルード漏れ防止プラグ』と言った感じでしょうか?
これがあると、作業中の煩わしさが軽減されホースカット後でも空気が混入しづらくなりますが、利用価値はそれだけではありません。
フルスタッシュ8はリアブレーキが内装式いわゆるインターナル仕様。
古いブレーキを取外したり新しいブレーキを取付けたりする際は、フルードが満たされたままのホースをフレーム内で取り回す状況も起こります。
ホース片側が切りっぱなしでも気圧によりフルードが駄々洩れになることは稀ですが、蓋があることでホースを多少乱暴に扱っても安全に作業ができます。
冒頭で軽く触れた通り、SRAMやHOPEで採用されているDOT5.1フルードは塗装にも人体にも有害。
目に飛沫が入ろうものなら失明する危険もあります。
因みに、このプラグや類似するパーツは単品では市販されていません。
自転車用の内部ケーブル配線ツールキットなんかに『ネジ蓋』といった名称で同梱されていて、ホースの切り口を塞ぐだけでなく、ホースを引っ張り出すアンカーとしても便利に使えます。
内装式フレームはホースやケーブルの取り回しが面倒なので、強力磁石で引っ張れるこのキット自体が役立ってくれることも。
失敗する方が難しい?『MAGURA MT Trail Sport』のカンタン取付け方法
ここからは本番のホースカット&取付け作業です。
まずは下準備としてレバーとホースをつなぐ部分を覆っているカバーを外しますが、このパーツは見た目よりも柔軟性が無く、マイナスドライバーなどをこじ入れないと中々外れてくれません。
ハンドルに取付ける前に済ませた方が簡単ですが、マイナスドライバーで該当部分を煽り過ぎると、レバー本体の樹脂製部分を傷めがちです。
ハンドルへの取付けは、ホースを引き抜いた際にレバー内部のフルードが零れないように、レバーが上を向くようにします。
前述の通りクランプは上ボルト⇒下ボルトの順で閉じます。
作業中はホースとレバー本体を繋ぐコンプレッションナットを緩めたり締めたりするので、レバー本体がぐらつかない程度の力で固定しましょう。
続いて緊張のホースカットに挑戦です。
旧ブレーキのホース長を参考に数cmだけ余裕を持たせた位置にアタリを付けました。
実車に合わせてホース長を決めたい場合はレバー側に10~15cmくらいホースが残る感じでカットしましょう。
不慣れだと断面が真っ直ぐにならないと聞いていましたが、切れ味鋭いホースカッターのお陰か何も考えなくても真っ直ぐに切断できました。
カット直後は自重と弾性でホースが暴れてしまうことがあるので、余っている手でホースを優しく支えながらカットしましょう。
無理に曲げた状態でカットすると弾けたホースからフルードが撒き散らされ、オイルラインに空気が混入してしまいます。
パチン!とホースをカット後も両断されたホースが静かに手の中に収まっているのが理想でしょうか。
ホースカット後は『フルード漏れ防止プラグ』を使ってキャリパー側のホースに蓋をします。
これでフルード漏れもホース内への空気の混入も一応は防げますが、作業の邪魔にならない場所にホース末端を上向きで固定しておくのがベスト。
上画像を見るとわかりますが、プラグの直径はホースよりも僅かに大きいです。
内装フレームにホースを通す際に邪魔になってしまう場合は、前述の『ネジ蓋』を頼りましょう。
こちらはホース径とツライチになっているのでルーティングの妨げになりません。
お次はレバー側に残ったホースの取り外し作業に移ります。
こちら側はカット後でもホースが勝手に上向きになってくれるので特にプラグは必要ありません。
ホースをレバー本体に繋げているコンプレッションナットを8mmのオープンスパナを使って反時計回りに緩めていくと、ホースは簡単に外れます。
一見すると簡単そうに思える作業ですが、見落としてはならない点が一つだけあります。
コンプレッションナットを緩める際はどのくらいのトルクで締め付けられていたかを体で覚えておく必要があるのです。
マグラ公式の解説動画でもそうでしたが、カット後の再取付け時にこの部分を規定トルクの最大4Nmで締め付けるには、特殊なトルクレンチが必要。
工具を持たない大半の方は、俗に言う『手ルクレンチ』で感覚を頼りに作業することになります。
ブレーキレバー本体の一部が樹脂製であることの弊害ですが、オーバートルクでこの部分にクラックを入れてしまう方も多いです。
くれぐれも締め付け過ぎには注意しましょう、後でオイル漏れした方がマシですからね。
因みに、オープンスパナ型のトルクレンチも販売されていますが、高価な上に小さめトルク対応はごく少数。
おまけにサイズも大きく、今回の用途に使えるかどうかは微妙な感じでした。
上画像は取外した使用済みホース。
左から順に、ホース先端に圧入されたコンプレッションインサート、金色のオリーブ、ネジ山のあるコンプレッションナット。
これらの中で再利用するのはコンプレッションナットだけです。
オリーブはコンプレッションナットの締め込みで変形してホースをシールする仕組みになっていて、変形後はガッチリと先端のインサートごとホースに食い込んでいます。
ブレーキ取付け後に簡易ブリーディングをするなら不要ですが、ホースカットのみで済ませたい場合はここで小技を使います。
上画像左の接続部分がフルードで満たされていると、ホースを再接続してもレバー内に空気が混入しづらくなります。
本来はホースを抜き取る際にホース内部に残ったフルードを利用して満たすらしいですが、今回は量が不十分でした。
手持ちのフルードで嵩増ししてあげますが、ここで取り外したホースがスポイトとして活用できます。
ストローの末端を指で塞いてトントンする方法と同じ要領ですね、フルードを数滴垂らしてひたひたに満たしておきましょう。
ホースを再接続する前にホース長を確定させます。
キャリパーを車体に固定して、バンジョーボルトをルーティングに無理のない方向に調整します。
バンジョーボルトは緩めすぎると空気が混入するので、手でギリギリ向きを変えられる程度にちょっとだけボルトを緩めるのがポイント。
車体によってベストな方向はまちまちですが、上画像左が調整前で右が調整後になります。
車体に見合った長さにホースをカット。
断面が斜めになっていないのを確認したら、ホース先端にコンプレッションインサートを圧入します。
今回は折角なのでMagura Service Kitに付属のホース固定ブロックを使用しました。
ブロックの固定は卓上バイス(万力)やプライヤーが適切ですが、たまたま持っていたCクランプでも十分でした。
ホームセンターなら300円くらいで買えます。
この状態でプラハンかゴムハンでインサートをホース内に叩き込みますが、指でも半分くらいまでなら押し込み可能。
事前のイメージよりも簡単に圧入できるので、ホースカットと同じく高価な専用工具は不要な印象ですね。
インサートの圧入が終わったら、ホースを再接続する前に必要なパーツを取付けます。
下からホースカバー、コンプレッションナット、未使用のオリーブの順となり、マグラのオリーブには特に方向の指定はありません。
ホースカバーが特に忘れやすく、ホース接続後にミスに気付いた場合は新しいインサートとオリーブで作業をやり直す必要があります。
フルード漏れを招く恐れがあるので、変形したオリーブを再利用するのは避けましょう。
いよいよ作業はクライマックス。
ホースをググっと奥まで押し込みながらコンプレッションナットを時計回りに締め付けていきます。
ホースを押し込まずに固定すると後々フルード漏れするので注意しましょう。
さて、前述した締め付けトルクですが、目安としてコンプレッションナットのネジ山が外から見えなくなったあたりからが勝負です。
この時点まで来ると内部でオリーブが押しつぶされて既にそこそこの手応えがありますが、取外した際の感覚を頼りに上限4Nmで締め付けます。
正直、最大4Nmなら『気持ち弱いかな?』と感じる程度の匙加減で十分かも知れません。
使用したオープンスパナが約10cmですから、大雑把に換算するとスパナの反対側に4kgのオモリがぶら下っているくらいの締め付けトルクです。
お茶の2Lペットボトル二本分と丁度同じですね。
最後は溢れたフルードをウエスで拭き取って、レバーを軽く洗浄してからホースカバーを元に戻します。
ミネラルオイルは塗装に触れても安全ですが、作業中はブレーキパッドやローターに付着させないように注意しましょう。
せっかくの制動力が台無しになってしまいます。
後はレバーを任意の位置に戻すだけですが、ホースをオープンスパナで固定する際にホースが捻じれてしまい、ホースラインの見た目がイマイチになりがちですね。
一度レバーを外してクルクル回し元に戻してあげましょう。
これでフロント側のホースカット&取付け作業は完了です。
因みに、MAGURA MT Trail Sportはレバー根元正面にある調節部分でレバーストロークを変更できます。
メモリやクリック感がないので少し面倒ですけどね。
行程が同じなので詳細は割愛しますが、この後にリアブレーキの作業をしました。
二度目ともなると手際は慣れた物ですが、フレーム内を通すケーブルの取り回しにかなり苦戦しました。
内装式は見た目は良いですがメンテナンス性は最悪ですね、次は選ばないと思います。
まとめ
前後ブレーキの交換作業が無事終了。
本当なら『簡易ブリーディング』の方法まで紹介する予定でしたが、ホースカットが上手く行き過ぎてレバー操作にまったく問題がありませんでした。
中途半端な内容で心苦しいですが、マグラ公式の解説動画と共にYouTube上の動画もオススメですね。
ホースカットなら『MAGURA CUT』。
穴あきシリンジ一本で出来る簡易ブリーディングなら『MAGURA FAST BLEEDING』。
通常のフルード交換やエア抜きなら『MAGURA BLEEDING』。
これらのワードで調べると、参考になる動画が沢山アップされています。
今回の記事では注意すべき点を強調しているので、人によっては『やっぱり難しそう……』と感じるかも知れませんが、実際に作業してみると拍子抜けするくらい簡単でした。
仮にこの作業で失敗しても簡易ブリーディングで直ぐにリカバリーできるので、マグラ製の油圧ブレーキは初心者にやさしい親切設計といえるでしょうか。
交換後に動作の確認と微調整のためテスト走行。
はじめてのマグラ製油圧ブレーキですが、ブレーキタッチがマイルドで効き方がリニアな印象ですね。
カックンブレーキ的なタッチは微塵もなく、ワンフィンガータイプのレバーも使い心地が良好でした。
因みに、グリップはERGON、ブレーキもMAGURAなので、愛車がいつの間にかドイツまみれになっています。