ファットバイクやMTBといったオフロード車は舗装路がとにかく苦手。
ノブ付きのタイヤが轟音のようなロードノイズを奏で、悪魔のような路面抵抗が容赦なく体力を奪っていきます。
もちろんスピードなんて出ませんし、タイヤノブもみるみる削れる始末。
ファットバイクのタイヤは一本でも10000円超えが普通ですから、無雪期に舗装路上を走るのはあまり気持ちの良い物ではありません。
スピードは出ないしタイヤも惜しい、ファットバイクに乗るのは冬だけにしておこう……
大抵の方はそんな思考に陥ってしまい、気が付けばガレージの肥やしからリセールへという流れに。
実のところ、ファットバイクは熱しやすく冷めやすい自転車で、長く乗り続けるには無雪期をどう乗り切るかがカギになります。
そこで提案したいのがスリックタイヤの導入。
ファットバイクの足まわりを手っ取り早く高速化&軽量化できる上に、低圧にすることでちょっとした段差を無視できる浮遊感のある乗り心地にもできます。
代表的な製品に『SURLY BLACK FLOYD』や『VEE speedster/ヴィー スピードスター』などがあり、ファットバイクの街乗り化には欠くことのできない存在といえるでしょうか。
ファット用スリックタイヤの元祖『SURLY BLACK FLOYD』について
ファットバイク用スリックタイヤの元祖とも言えるのが、SURLYの『BLACK FLOYD/ブラック フロイド』です。
残念ながらこのタイヤは既に生産が終了していて、2020年頃に一瞬だけ復活したものの現在はオークションで見掛けるのみとなりました。
レンガ状のパターンが特徴的で1050gと大変軽量、サイズは26×3.8でケーシングは60tpi
適合リム幅は50-65mmと説明されていますが、100mm幅のSURLY製Clown Shoe/クラウンシューによく使われていたりと、意外に無茶の利く一面も。
サイドスキンがBLACK WALL(黒)とTAN WALL(茶)の二色展開で、ケブラービードの他に希少ながらワイヤービード版も存在していました。
競合するVEEスピードスターと同様に舗装路で強さを発揮し、軽量なTPUチューブを組み合わせることでエントリーモデルのクロスバイクに迫る軽快な走行感が得られます。
私も中古品を手に入れて使っていたことがあり、スリックながらファットバイクらしさもしっかり兼ね備えた、お気に入りの無雪期用タイヤでした。
根強い人気があるタイヤだけに、SURLYがいつの日か復活させてくれることを祈るばかりです。
ファットバイク街乗り派にオススメの軽量タイヤ『VEE speedster』
続いてはブラックフロイドの後釜として人気を集める『VEE speedster/ヴィー スピードスター』です。
発売元のVEE TIREは安価なファットバイク用タイヤをリリースしていることで知られ、他では見掛けない個性的な製品もチラホラ。
VEEスピードスターには格子状のトレッドパターンが採用され、中央をハニカム構造にすることでタイヤを高圧した際に転がり抵抗が大幅に軽減される仕組み。
重量は26×3.5で72tpiのワイヤビード版が1230g、120tpiのケブラービード版が1010gとブラックフロイドに負けず劣らず軽量さ。
現在は120tpiのチューブレスレディ版が主流になっていて、こちらは1155gと若干重めな仕様になっています。
タイヤ幅は3.5インチと狭めですが60-80mm幅のリムに対応、海外レビューによると実寸サイズは3.65インチ(約93mm)とのことで、重量には結構な個体差が見られるとのこと。
見た目からある程度予想は出来ますが、ダートで使用すると格子状のパターンやハニカム構造のセンタートレッドが頻繁に小石を拾います。
舗装路をしばらく走行すると大半が自然に落ちるそうですが、神経質な方は気になる部分かも知れませんね。
余談ですが、特徴的なセンタートレッドの効果からか競合するフロイドタイヤ以上に良く転がるそうで、過去に行われた某ヒルクライムレースでは、ロードやMTBを抑えてVEEスピードスター付けたファットバイクが3位入賞を果たしたことがあるそうです。
真なるスリックタイヤ『VEE Apache Fatty Slick』
ブラックフロイドと同様にこちらも生産が終了していますが、VEE TIREには『VEE Apache Fatty Slick/ヴィー アパッチ ファッティ スリック』というスリックタイヤも存在していました。
日本国内では殆ど流通しませんでしたが、タイヤ表面に一切のパータンが無いガチのスリックタイヤです。
黒い浮輪を思わせるフォルムで、サイズは26×4.5と今まで販売されたファットバイク用スリックタイヤでは最大級。
ケブラービードでケーシングは120tpiなものの、耐久性や安全性を増すために通常よりも厚く設計する必要があるらしく、重量は1360gとノブ無しのスリックタイヤとしては重めの仕様です。
転がり抵抗は最低限に抑えてあり、まさに舗装路&アスファルト専用タイヤと言えますが、海外のレビューによると例外的に砂浜との相性が良いとのこと。
もはや海外在庫かオークションでしかお目にかかれませんが、タイヤ自体が重い上にパンクしやすいそうなので、見た目以外で選ぶ理由は無さそうです。
期待のファット用スリックタイヤ『Chicane』と『Zigzag』
VEEタイヤに面白いタイヤが多過ぎな気もしますが、VEE speedsterの代替になりそうなスリックタイヤがあと二つ存在しています。
画像左が『Chicane/シケイン』で画像右が『Zigzag/ジグザグ』、Zigzagは街乗り用ファットバイクの完成車によく採用されているので、そこそこ有名かも知れませんね。
国内ではZigzagの方が入手しやすい傾向にあり、サイズは26×4.0でサイドカラーはブラックとホワイトの二種類。
ワイヤービード版もフォールディングビード版も72tpiでチューブレスレディに対応していますが、重量は1900~2015gと結構な重さ。
このタイヤは電動ファットバイクでの使用を想定しているため、耐久性やパンク耐性にリソースが割かれている印象ですね。
街乗り用として、寿命が来るまで履き続けるような使い方が向いているのかも知れません。
もう一方のChicaneも電動ファットバイクでの使用を想定したタイヤで、サイズが26×3.5とこちらはVEE speedsterに近い仕様。
重量は72tpiのワイヤービード版が1355g、同じく72tpiのフォールディングビード版が1255gとそこそこ軽量ですが、チューブレスレディには未対応とのこと。
一応、ブラックの他にスキンウォールが存在し、オールドスクール風に愛車をカスタマイズできるのが魅力ですね。
これといった特徴の見られないChicaneですが、トレッドパターンを見る限りVEE speedsterよりも小石が挟まりづらい可能性も。
まとめ
ファットバイクを購入したものの、思っていたほど楽しめるシュチュエーションがなく、ファットバイクを持て余し気味の方は、試しにスリックタイヤに交換してみましょう。
トレイルを走らないなら冬季以外の3シーズンは快適に過ごせますし、鈍重なファットバイクのイメージが覆ること請け合いです。
タイヤを高圧にして舗装路を飛ばすのもいいですし、低圧にしてゆったり街乗りを楽しむのもオススメ。
ファットバイクは街乗りから雪道までこなせる懐の深い自転車なので、ガレージの隅で埃をかぶる前に是非とも日の目を見せてあげて下さい。