ファットバイクの本領発揮といえば『雪道』です。
初雪から雪解けまでのウインターシーズンを余すことなく堪能でき、雪国でも一年中自転車に乗っていたい方には願ったり叶ったりな存在。
ですが、そんなファットバイクも万能ではありません。
確かに普通の自転車と比べると圧倒的な走破性を誇りますが、雪道で車体を押し歩きする状況も当たり前にあります。
同じファットバイクでもタイヤの種類やサイズによって得手不得手があり、それを知らないまま乗ると雪道や凍結路でスリップしまくりなんて危うい状況も。
恥ずかしながら私もその一人で『ファットバイクだから大丈夫!』なんて薄い根拠だけで、あらゆる雪道に無謀な挑戦をしていた時期があります。
あくまでも私個人の経験を元にした話になりますが、今回はファットバイクが苦手とする雪質や雪道について簡単にまとめてみました。
ファットバイクでも無理?苦手とする雪道とは
ファットバイクオーナーが北海道などの北国に集中しているのは良く知られていますが、私もそれに含まれます。
ウインターシーズンをファットバイクで堪能して感じたことを端的に言うなら。
ファットバイクでも過信はアカン!
これに尽きます。
普通に考えたら無理そうな雪道を平気で走行できたり。
その逆に問題なく走れそうな雪道で全く走行できなかったり。
こういった予想を裏切るシュチュエーションが多々ありました。
あくまでも私の経験の範疇でしか語れませんが、雪道や雪質別の得手不得手をまとめるなら以下の様になるでしょうか。
アイスバーン
子供の頃から雪道で自転車を走らせることに慣れているせいもありますが、横殴りの強風など他に障害が無い場合は普通に走れました。
ですが、スパイクタイヤではないので急な動作でタイヤが左右に流れやすく、フロントは急なハンドリング、リアは急な制動が転倒を招きがち。
タイヤを0.3bar程度の低圧にしているので一気にツルっと転倒することは稀ですが、交通量の多い幹線道路沿いだと気の抜けない緊張感のあるライドに化けたりも。
ノーマルタイヤのファットバイクで走行する場合、アイスバーンは低温の状態よりも気温上昇で表面がウエットになっている時の方が危険を感じます。
路面にこびり付いた氷の凹凸が暖気でウェット状態になると、さしものファットバイクでも全く歯が立たず、神経をすり減らしながら恐る恐る走行することに。
冷凍庫から出したての氷は簡単につかめても、融け始めた氷はなかなかつかめないのと同じ理屈ですね。
因みに、TYRE GRIP (タイヤグリップ)というシュッと吹き付けるだけでグリップ力が三倍にアップするスプレー式のチェーンが販売されています。
これさえあればスパイクタイヤ要らずだ!なんて夢のような効果は望めませんが、タイヤを傷めずに靴底から自動車のタイヤにまで使えるとのこと。
実際に使用した方のレビューによると、自転車ならファットバイクとの相性が特に良いそうです。
低温で凹凸の少ないアイスバーンやブラックアイスバーンではそこそこの効果を発揮してくれそうですが、靴底にスプレーしてスリップ時に安心して足つきできるようにするなんて使い方も。
積雪(圧雪済み)
事前に踏み固められた雪道はファットバイクが最も楽に走れる路面の一つで、実際に走ってみても確かにその通りでした。
走行感はトレイル等の未舗装路とほぼ同じで、水分で少し緩んだ圧雪であってもタイヤがずぶずぶと路面に埋まり込まずに走行できます。
同じ圧雪路でも自動車で踏み固められた路面には少しだけ注意が必要。
スタッドレスタイヤでツルツルに磨き上げられている場合があり、思わぬところでスリップしがち。
積雪(未圧雪)
圧雪されていない新雪の場合ですが、走行前は積雪10~15cmくらいが限界かな?という予想をしていました。
ですが、SURLYのBUD&LOUといった5インチサイズのスノータイヤだと、20cm近い積雪でも十分に走破できてしまいます。
最強のスノータイヤと呼ばれるだけのことはあり、極太タイヤによる接地面の広さ以外にタイヤボリュームによる浮遊感も感じました。
ただし、タイヤの慣性がもの凄い勢いで失われるため平地なのに常時ヒルクライムしているような気分に。
ペダリングを止めると結構な下り坂でも途中停止する程で、いつもなら無意識にしている惰性で流すといったテクニックが一切通用しません。
因みに、これが湿気の多い雪だったりするとタイヤの外周に雪が付着したままになったり、リムの上に乗り上げたままになったりと、ただでさえ激重なホイールが輪を掛けて鉄下駄になったりします。
根雪
雪が長期間に渡って居座る根雪(ねゆき)の場合ですが、水分が多く雪質が重いせいか走行時にハンドルを取られやすくなります。
しっかりと圧雪されている場合なら特に問題はありませんが、グズグズだと一気にハンドリングが重くなりますね。
タイヤハイトを越える積雪10~15cmくらいから一気に走行難易度が高くなる印象で、アイスバーンとは別の要素でハンドリングやスピードコントロールに慎重さが求められます。
場合によっては体勢を崩した後のリスタートすらままならず、足場の悪いルートから押し歩きで脱出するのもお約束。
ここまで書くと未圧雪の根雪は避けた方が良いと思うかも知れませんが、個人的に走って一番面白いのは走破感をひしひしと感じるこの未圧雪の根雪だったり。
雪質的にも一番長く付き合うことになりますしね。
シャーベット状
シャーベット状にも種類がありますが、かき氷の後半みたいなユルユルな雪質なら何の問題もなく走れます。
何せ、主婦やお年寄りの方がママチャリで走っているのを頻繁に見掛けるくらいですから。
ただし、フェンダーを装着していない場合は豪快に汚れる事を覚悟しましょう。
ファットバイクのブロックタイヤがイイ感じに雪を拾って跳ね上げてしまいます。
寒さや積雪が安定しない地域ではシャーベット状の路面が日常になっていることも多く、ファットバイクの泥はね・水はね対策は割と切実な問題かも知れませんね。
私も冬の入り鼻や雪解け水だらけの初春は苦手です。
融雪剤まじり
交通量の多い幹線道路沿いなどで頻繁に遭遇し、人によってはこちらをシャーベット状と称する場合も。
融雪剤が混じり砂状になったザフザフの路面は、文字通り砂浜を走っている様な走行感になります。
リアタイヤにはトラクションが掛かりづらく、ハンドリングでフロントタイヤが頻繁に横滑り。
咄嗟に足を踏ん張って車体を立て直すなんてことも頻繁に起こり、不安定な走行感に陥りがちですね。
交通量の多いルートがこの状態になっている場合は、素直に押し歩きして難を逃れることをオススメします。
余談ですが、融雪剤の撒かれている路面を頻繁に走行すると車体やパーツが短期間で錆びてしまうことも。
私は錆止めとして水置換性のあるKURE 6-66を愛用していますが、KURE 5-56と同様にゴムやプラスチックに攻撃性があるので、使用はボルト等の錆びやすいスモールパーツに留めています。
自転車用のケミカルで知られるマックオフからは『BIKE PROTECT』というフレーム用の錆止めスプレーがリリースされているので、SURLYなどのクロモリファットバイクにはこちらの方が良さそうですね。
残雪
トリを飾るのは、多の人が『消えかけの雪なんて余裕でしょ?』と思ってしまう残雪について。
残雪は細かい粒状の氷が密集して構成され、やや水分を含んだ『ざらめ』の様な質感をしています。
これが思いのほか厄介で、新雪なら20cmでも平気だった5インチファットバイクが僅か5cmの残雪にあっけなくノックアウトされました。
雪解けシーズンでタイヤの空気圧を高くしていた事も一因ですが、とにかく雪質に締まりがなくトラクションが掛らないのです。
私はアイスバーンでも滅多に転倒しませんが、この一見なんでも無さそうな残雪にタイヤをとられて、コロリと真横に転倒しました。
幸いファットバイクに損傷はなく怪我もありませんでしたが、思わぬ伏兵の登場にあっけに取られたのを覚えています。
人によってはこのざらめ状の雪質が一番走りやすいと感じるそうですが、それは冷え込みで雪質が締まる早朝や深夜に限った話なのかも知れません。
ファットバイク用スパイクタイヤについて
たとえファットバイクでもガチの凍結路ではスパイクタイヤに頼らざるを得ません。
有名処では45NRTHのDillinger(デリンジャー) シリーズがあり、4.0インチ幅のDillinger4と4.6インチ幅のDillinger5がリリースされています。
また、Dillingerシリーズとは別にWRATH CHILD(ラスチャイルド)が新たに加わり、こちらもDillinger5と同じく4.6インチ幅のスパイクタイヤとなっています。
他にもTerreneのCake EaterやVEE のSnowshoe XLがありますが、これらの中で価格が一番手頃なのはVEEのSnowshoe XLになるでしょうか。
Snowshoe XLは自前でスタッズを埋め込む通常モデルと、あらかじめスタッズが埋め込まれたStuddedモデルの二種類があり、通常モデルの方が安価です。
このタイヤは4.8インチ幅として販売されていますが、80~90mm幅のリムに0.5barの低圧で使用してもタイヤ幅の実寸は115mm(約4.5インチ)とのこと。
4インチファットバイクでもフレームクリアランスに余裕がある車種なら使用可能なので、気になる方は愛車を採寸してみましょう。
ファットバイク用のスパイクタイヤについては別記事で詳しくまとめていているので、興味のある方は是非ご覧になって下さい。
まとめ
雪道を走るならファットバイク!
そういったイメージで語られますが、走破性は雪質とタイヤの質に大きく左右されます。
オンロード車に近い感覚で走行できるのは、バージンスノー限定で積雪15cmくらいまでが精々でしょうか。
安価なファットバイクほど舗装路向きなタイヤが標準装備だったりするので、ウインターシーズンを一種類のタイヤだけで過ごすのは少し難易度が高いです。
雪道を安全に走りたいならライド中の『押し歩き』は躊躇しないほうが良く、交通量の多いルートなら尚更でしょうか。
最後になりますが、私が雪道走行で一番必要だと感じたのは、スパイクタイヤではなく『ドロッパーシートポスト』でした。
走行中でもレバー操作でシート高を自在に可変できる優れモノで、不安定な雪道でも咄嗟の足つきが無理なくできます。
足場の悪い場所からの再スタートでも便利に使え、今となっては手放せない必須装備になりました。