私の所有しているフルサス29erこと『TREK Full Stache 8』は、標準で3.0インチ幅のセミファットタイヤに対応しています。
標準ホイールには『Sun Ringle Duroc 40』というアルミ製リムが採用され、リム幅の外寸はその名が示す通り40mmで内寸が36mm。
細いタイヤなんかには見向きもしない……そんな割り切った仕様になっていたため、現在は以前記事にした通り、中華製のカーボンホイールに乗り換えています。
さて、この中華カーボンホイールはフックレス&ホールレス仕様。
リム幅が外寸35mm、内寸28mmながら、3.0インチ幅のプラスサイズタイヤから700x40c幅のグラベルタイヤまで幅広く使えてしまうらしく、そういった事前情報が購入の決め手になりました。
とはいえ、リム幅から考えると推奨される値は2.8~2.0インチくらいまでが安全圏ですし、細いタイヤを使うと間違いなくリム幅とタイヤ幅がツライチになるので試すなら慎重さも必要。
少し前に、タイヤを『Continental RaceKing』にしたばかりなのに再びタイヤ交換なんて我ながら頭が悪すぎですが、本格的な冬の到来を前に試すなら今しかありません。
果たして、700x40cのグラベルタイヤはフルサスMTBにどのような恩恵と弊害をもたらしてくれるのでしょうか?
はじめてのWTB製、グラベルタイヤ『Byway TCS』の詳細
グラベルロードが人気を集める昨今だけに、29erにも使用できる700x40c前後のグラベルタイヤの選択肢は豊作ですね。
とはいえ意外に軽量な製品は少なく、マウンテンバイク用のXCタイヤとほぼ同じ600gくらいが一般的でしょうか。
私の知る限り、700x40cサイズ・チューブレスレディ対応・500g以下という条件で選ぶなら、以下のタイヤが狙い目ですね。
マキシスの『Rambler 40-622』375g
シュワルベの『G-ONE SPEED 40-622』465g
パナレーサー『GRAVELKING 38-622』340g ※第一世代の旧モデル
パナレーサー『GRAVELKING SK 40-622』430g ※第一世代の旧モデル
パナレーサー『GRAVELKING SS 38-622』410g ※第一世代の旧モデル
特にパナレーサー製は700x38c~43cサイズのグラベルタイヤに軽量な物が多く、パナレーサーのタイヤが今回の本命になりそうでしたが、興味本位のテストで購入するには少し割高な印象。
サイズは異なるもののシュワルベ『G-ONE SPEED』は以前に使用経験あり。
マキシス『Rambler』はパナレーサー製に輪を掛けて高価。
あれこれ頭を悩ませた結果、そういえばグラベルタイヤでは定番のWTB製を試したことが無かったかも……
そんな単純な理由と価格の安さから、WTBのグラベルタイヤ『Byway TCS』の700x40cサイズに目星を付けます。
このBywayには国内未発売のモデルも含めて、700x34c、700x40c、700x44cの3サイズそれぞれに、Road TCSブラック、Road TCSタン、TCS Light/Fast Rollingブラックの3モデルがラインナップ。
最上位モデルのTCS Light/Fast Rollingはパンク耐性を強化したやや重めのタイヤとなり、Road TCSのタンカラーが最も軽量という仕様になっています。
個人的にタンカラーのタイヤが好きなので、迷うことなくByway Road TCS 700x40c のタンカラーを選択。
価格は一本当たり4000円ほどで、一本10000円超えが当たり前なファットバイクやセミファット用のタイヤで麻痺した私の金銭感覚だと、激安に感じてしまうのが悲しいところ。
定番の計量をしてみると、実重量は449gとカタログ値の415gを大幅に上回る数値でした。
米国企業で中国製という組み合わせだけに、この辺りは結構アバウトな仕上がりですね。
トレッド面はセンタースリック仕様で、薄くて不安を感じたシュワルベ『G-ONE SPEED』と比べると確かな厚みを感じます。
とはいえ、トレッド面と比べるとサイドウォールはあからさまに薄く、強度面に劣るタンカラーだけにサイドカットには要注意かも知れません。
タイヤサイドを光にかざすと、向こうが透けて見えるくらい薄いです。
余談ですが、チューブレスレディでパンク修理する際はタイヤの内側からパッチを貼ることがあり、タイヤ内側の作りもそこそこ重要だったりします。
過去にシュワルベ『G-ONE SPEED』がパンクした際に、シーラントだけではタイヤの内圧に耐えられなかったことがあります。
タイヤ内側からのパッチ修理で対応したものの、タイヤ内側表面のゴム表皮が薄すぎて紙やすりで十分に荒せないという状況に陥りました。
これは『G-ONE SPEED』だけの仕様かと思っていましたが、上画像を見る限り軽量なグラベルタイヤではどれも作りに大差はないようですね。
この問題からチューブレス対応と謳われていても使い勝手がイマイチなパンク修理キットしか存在していませんでしたが、最近はようやくまともな製品が選べるようになりました。
LEZYNE/レザインのチューブレス用修理・補修キットこと『TUBELESS PRO PLUGS』がオススメで、トレッドやサイドが薄いグラベルタイヤでも、しっかりと補修効果の得られます。
ライド中に使用するタイプのリペアキットではありませんが、これでパンクして気密が甘くなったチューブレスタイヤを延命できるようになりました。
因みに、タイヤの外側からブスっと突き刺すプラグ式のチューブレスリペアキットは、どちらかと言えばトレッド面が厚くタイヤノブがしっかりと備わったMTB向きな代物。
薄々なグラベルタイヤではうまく機能してくれないことがあり、いざという時に役に立たないなんてことも。
推奨されるタイヤの空気圧は2.1~4.1barとMTB寄りな低めの値。
トレッドパターンは一見シンプルなものの、タイヤにはしっかりと取付け方向が指示されていました。
素人目ではわからない微妙な違いがあるのかも知れません。
一通り細部を確認し終えた後、早速ホイールに取付けてみました。
普段ファットやセミファット、MTBなどの緩いタイヤに慣れてしまっているせいか、キツめのビードに若干苦戦しましたが、取り付け後は普通のフロアポンプであっけなくビードが上りました。
キツめだとリムとビードが密着してくれるので、ポンピング時に空気が漏れづらくなります。
タイヤをホイールに嵌める際はクリンチャーだとタイヤレバーを当たり前に使ったりしますが、チューブレスレディで雑にタイヤレバーを使うと、ビードやリムにダメージを与えて気密性を損ねてしまうことも。
攻撃性の低いプラスチック製のタイヤレバーでパチンパチンとピンポイントで着脱するのがベストで、タイヤレバーをリムに沿わせて押し引きするような使い方はあまり推奨されません。
予想通り、タイヤ幅とリム幅がほぼ同じツライチ状態でした。
タイヤ幅の実寸は3.5barで39mm程、タイヤが細いので注入したシーラントは60mlといつもより控えめです。
シーラント・タイヤ込みのフル装備で、フロントホイールが1410g、リアホイールが1880g。
ロードバイクなんかと比べるとまだまだ鉄下駄ですが、ディスクローター込みでこの重量なら御の字ですね。
エントリークラスでリムブレーキ仕様のクロスバイクよりも若干軽量なくらいでしょうか。
太めのリムに装着しているせいもありますが、Bywayのトレッド面はかなり扁平しています。
オマケ程度のサイドノブにも関わらず、緩い路面でもトラクションがしっかりと効いてくれるという評価は、この辺りが影響しているのかも知れませんね。
さて、結構大切なことを書き忘れていましたが、今回使用しているカーボンホイールはビードがパチンと嵌るフックが備わっていないフックレス仕様です。
最近はロードバイク用でも見掛けるようになりましたが、フックレスリムには高圧にし過ぎるとタイヤが走行中に外れてしまうといった、ちょっと怖い特徴があったり……
MTB用のフックレスリムだと空気圧4.0barでも危険領域になる場合があり、MTB用よりもタイヤサイドが柔らかなグラベルタイヤだったりすると、それに拍車が掛かります。
今回のテストでは、幅広なMTB用フックレスリムに対してMTBタイヤよりも柔軟なグラベルタイヤを使っている訳ですから完全に推奨外ですね。
チューブを入れることで、フックレスリムでも6.0bar程度まで空気圧を上げられるらしいですが、そもそもフックレスリムはチューブドでの運用に対応していない製品が大半。
重ねてお伝えしますが、フックレスリムは空気の熱膨張や走行中の強い衝撃が引き金になって走行中にタイヤが弾け飛ぶことがあり、推奨値を超過したり推奨値ギリギリの空気圧は危険をはらみます。
フックレスリムの空気圧は10%の安全マージンを設けるのが良いそうなので、仮に推奨値が3.0barならば運用は2.7barに留めるのを心掛けたいところ。
そのうち記事にする予定ですが、実は私も数回に渡る今回のテスト走行中にやらかしています。
低速だったので大事には至りませんでしたが、原因は気温の急上昇と4.0bar超えの空気圧でした。
タイヤが特大の破裂音と共にホイールから弾け、周囲は飛び散ったシーラントまみれ……
カーボンリムが痛むので押し歩きもできず、フロントを持ち上げたままの一輪車状態で何とか帰宅できました。
フルサス29erで実走!グラベルタイヤ『Byway』の感想
いよいよフルサス29erに700x40cのWTB製グラベルタイヤ『Byway TCS』を装備して試走してみます。
取付け前からそれなりの覚悟はしていましたが、やはりオールマウンテン・トレイル系のフルサスMTBに40cのタイヤは違和感バリバリですね。
本来はセミファット仕様の29erなので、普通なら前後フェンダーの位置までタイヤ径がある筈なのですが、まさに『貧相』といった佇まい。
今まで丁度いいバランスに感じていたサーファスのコンフォートサドルまでも頭でっかちに見える有様です。
フェンダーを外せは少しは違和感が減りそうですが、ミリタリーカラーの車体にタンウォールのタイヤが映える点は目論んだ通りでしたね。
今後はタンウォール率が上がるかも知れません。
フロントもリアもご覧の通りクリアランスはガバガバですね。
うろ覚えですがタイヤ幅は78mmまで行ける筈なので、ぶっちゃけこのタイヤを横に二本並べても対応できるキャパシティがあります。
比較対象として、今まで使用したタイヤを大きい順に振り返ってみると。
途中でホイールがディープ気味のカーボン製に変わっていたりと多少の違いはあるものの、サイドシルエットで比較すると、やはり40cのBywayが飛びぬけて細いことがわかりますね。
マウンテンバイクとしての見栄えを求めるなら、タイヤサイドの高さがフレームのボトムチューブと同じかそれ以上のボリュームにすることが必要になりそう。
そう考えると私の『TREK Full Stache 8』の場合、最低ラインのタイヤ幅は約2.0インチ、グラベルタイヤなら700x50cくらいになるでしょうか。
もしかすると細身のクロモリフレームなら、このアノマリーを打ち破って細いタイヤでも見栄えのする外観になるのかも知れません。
さて、気になる走行感ですが……
『モノが違う』『劇的』という感想が一番しっくりきます。
シュワルベ G-ONE SPEEDを試した時も似たような感想を零し、『まんまエントリークラスのクロスバイクだ!』なんて浮かれていた覚えがありますが、その感想はこのタイヤにこそ相応しいです。
重量差はたった76gなのに、G-ONE SPEEDでは越えられなかった壁をあっさり越えてしまった感じで、特に走り出しやハンドリングの軽さが印象的でした。
目隠しをして乗せたら、誰もマウンテンバイクだとは思わないかも知れません。
はじめてのWTB製タイヤでしたが、これは当たりですね。
本当に40cか?と思うくらい乗り心地が柔らかく、流石はサスなしのグラベルロードで好まれているだけのことはあります。
交換前は29×2.2の『Continental RaceKing』を3.0barくらいで運用していましたが、40c(1.5インチ相当)で同じく3.0bar運用のこちらの方が明らかに乗り心地が良いですね。
細目のタイヤをチューブレス化した際に感じる恩恵を初めて実感できた気がしました。
見た目の残念さに目を瞑れるなら、お釣りが出るほど快適で良く転がるタイヤですが、やはりタイヤとリムがツライチなのは気を遣いますね。
走行中に縦溝や段差なんかで、ガリガリとカーボンリムを擦って破損させてしまうのでは?といった不安が少なからず頭を過ります。
路面状況を気にせず走れるマウンテンバイクの利点を残すなら、同じBywayでも700x44cの方が向いていたのかも知れませんね、40cに拘る必要はなかったかも。
まとめ
走りや外観にどれくらい変化があるのか?という興味本位でフルサスMTBに700x40cのグラベルタイヤを試してみましたが、結果は上々で思わず笑みがこぼれるほど。
残念ながらロングライドや街乗りのシーズンが終わってしまうため、さほど間を置かずMTB用タイヤに再交換することなりますが、今後のタイヤ選びに新たな視点を加えられそうです。
あまりに走りが軽快だったため後ろ髪引かれる思いがありますが、前述したように見た目とのバランスを考えるなら、やはり700x50c程度がマウンテンバイクに流用できる下限になる気がします。
悲しいかな、この50c前後というサイズは650Bには比較的多いものの、700cでは選択肢が少ないのがネックです。
入手が容易な国産タイヤなら『Panaracer GRAVELKING SK』が700x50cをラインナップしているので、MTBにグラベルタイヤを試すならこの辺りが妥当でしょうか。
因みに、グラベルキングは2024年にモデルチェンジが行われ、ビードの上がやすさ、乗り心地、パンク耐性などが底上げされました。
第2世代のグラベルキングは総じて重量増になったのが残念ですが、600g前後ならギリギリ許容範囲かな。