最近はタイヤやホイールの進化も手伝って、チューブレス化へのハードルが随分と低くなりました。
MTBはもちろんですが、オフ車寄りなグラベルロードやオン車のロードバイクでも、ホイールにチューブレスバルブを取付けて、後はシーラントを注入するだけ!といった、お手軽仕様の新車も増えています。
よく聞くチューブレス化のメリットとして、パンク耐性の強化や乗り心地の向上などがありますが、どちらもチューブが無くなったことが大きく関わっています。
チューブが無いのでリム打ちパンクとは無縁でいられますし、軽い刺突パンクなら注入されたシーラントが勝手に穴を塞いでくれます。
また、チューブの体積分だけ空気が増量されるため、ロードバイクやクロスバイクでも低圧気味のやわらかい乗り味を楽しむことができ、チューブ本体の変形や摩擦によるロスもありません。
さて、時代はチューブレス!ホイールとタイヤが対応してるなら、やらない方が損!という訳で、私も二年前に愛車のフルサス29erをチューブレス化しています。
ですが、今もチューブレスで乗り続けているのか?と聞かれると…残念ながら答えは『NO』です。
チューブレス化した当初こそ『今更チューブドなんかにゃ後戻りできないぜ!』といった謎の万能感に支配されて鼻息を荒くしていましたが、使い続けるうちにチューブレス化によるデメリットの方が大きいのでは?と疑問を感じるようになりました。
これは、車種やライドする場所によっても大きく事情が変わるので、一概に『メリット < デメリット』とは断言できず、利点だけを享受できる場面も多いのですが、少なくとも私の慎ましいサイクルライフには過ぎな代物だったようです。
今回は定番の内容から些細なことまで、私が経験したチューブレス化にまつわる面倒事について、幾つか書き綴ってみたいと思います。
因みに、記事中で語る『チューブレス』は、特に説明が無い限りシーラントが必須の『チューブレスレディ』の方です。
デメリット【1】タイヤ交換が気軽に出来ない
初っ端はこちら、やはりタイヤ交換に関する内容が真っ先に思い浮かびます。
ロードバイクやクロスバイクでなら、一度取付けたらタイヤの寿命までそのままという方も多いのですが、MTBやファットバイクなどのオフ車となると話は変わってきます。
タイヤの寿命とは関係なく、ライド環境に合わせたタイヤに交換するのが当たり前で、その度にシーラントがひたひたに注入されたタイヤと悪戦苦闘する羽目になります。
繰り返し作業をすることで当然慣れてきますし、面倒臭さも感じづらくなるのですが、やっぱりチューブドの手軽さが懐かしく感じますね。
シーラントを零さないように旧タイヤを取外す ⇒ シーラントを回収しタイヤ内部&ホイールを清掃 ⇒ 新タイヤの取付け ⇒ フロアポンプで全力のビード上げ ⇒ シーラントを再注入 ⇒ シーラントを馴染ませる ⇒ 放置して空気漏れの確認 ⇒ タイヤ交換完了!
人によっては作業の手順が前後しますが、タイヤ交換の流れはおおよそ上記の通りになります。
手慣れた方はタイヤの腹を開いてシーラントをドバっと流し込む方法を使いますが、私がこれをやると高確率で床がシーラント塗れになるので、未だにビード上げ後にバルブから注入していますね…
6mm程度の穴が塞げる高性能シーラントはバルブからの注入ができないので、いずれはタイヤの腹を開いて流し込む方法に慣れないといけません。
ともあれ、本気でチューブレス化したタイヤを使い分けたいなら、財力に物をいわせてホイールを複数準備するのが最も手間の掛かからない方法でしょうか。
デメリット【2】シーラントの管理が面倒臭い
先ほどのタイヤ交換の際にも触れましたが、チューブレスレディに必須なシーラントも悩みの種です。
このシーラントがあるからこそ、空気漏れや軽微なパンクを免れているのですが、思っていたよりも注入量が多く重量面でチューブドとの差が無かったり、一度でも使うとタイヤ内部が不可逆に汚れたり、消耗品であるシーラント自体もそこそこ高価だったりします。
また、使用するシーラントによってはCO2ボンベの使用で成分がダマダマに変質したり、アルミ製のリムを腐食させる弊害もあり、数ヶ月の使用で目減りしてしまうシーラント量の確認も含めて、定期的にタイヤ内部を確認する必要があります。
CO2ボンベや腐食の件は極端な例ですが、経験上タイヤ内部のシーラント量は3~6ヶ月で確実に目減りし、定期的な補充が欠かせません。
因みに、シーラントを継ぎ足し続けると乾燥したシーラントの塊がタイヤ内に残留し続け、ロードやグラベル系の細いタイヤでも、重量はタイヤ一本当たり10g程度にもなるとのこと。
それが蓄積し続ける訳ですから、ホイール重量やホイールバランスが気になる方は継ぎ足しではなく、クリーニング込みの入れ替えを意識した方が良さそうですね。
私自身、過去にタイヤ内のシーラント除去にはどんな方法が有効なのか調べたことがありますが、ホイール側には専用のケミカルが存在しても、タイヤ側にはケミカル的に除去する方法が存在していませんでした。
除去できても、タイヤそのものにダメージが行きそうですしね……
少し面倒ですが物理的な方法でなら可能で、残留したシーラントを乾燥させた後に、古タイヤをカットしてそのトレッド面でこすり落とす、ゴム手袋でこすり落とす、大き目の消しゴムでこすり落とす、これらの地道な作業が最も有効なようです。
さて、チューブド主体の方がこういった話を聞くと、大抵は『面倒臭そう…チューブのままで良いかな』という反応になりますが、いちいちタイヤの腹を開かないとシーラントの状態を把握できないということもあり、そりゃそう思うよなぁ…と思わず同意してしまいますね。
実のところ、シーラントの注入量が多いMTBやファットバイクなら、タイヤを空転させたり振った際の水音でおおよその残量を把握できますが、ロードやグラベルロードあたりは元々の注入量が60ml前後と少ないので把握がちょっと難しいですね。
一応、タイヤを外さずにシーラント量の管理ができる『MILKIT/ミルキット』という便利なチューブレスキットも存在していて、私もフルサスMTBに使用していました。
デメリット【3】チューブレスリムテープの貼り替えが苦行
シーラントと並んで、ホイールの気密を保つのに必要不可欠なのがチューブレス用のリムテープです。
このリムテープは消耗品につき、年に一度くらいの頻度で貼り替えをした方が良いといわれていますね。
経験上、バルブ付近を除いてテープそのものが物理的に劣化して気密を損ねるケースは殆ど無く、大抵はテープの裏側に浸透したシーラントや、ニップル穴から接着面に入り込んだ雨水により、テープの粘着力が弱まることで空気漏れが起こります。
タイヤの減圧が著しくなると、取り合えずリムテープでも貼り替えてみるか…と真っ先に手をつける部分なのですが、純正のチューブレスリムテープは高価なので無駄打ちができませんし、失敗を繰り返して貼り直しをすればするほど粘着力が弱わまっていきます。
几帳面すぎても雑過ぎても作業が捗らず、スマホの保護フィルムを延々と貼り続けるような忍耐力が必要になる…不器用な私にとって、まさに苦行とも呼べる作業ですね。
慣れてくると、多少雑でも大丈夫だということに気がつきますが、私と同じように不器用な方には、たとえ年一回でもやりたくない作業かも知れません。
最近はチューブレスリムテープが不要なホイールも増えているので、あと数年後には笑い話になっていそうですが、面倒なのはイヤ!テープの値段が高すぎる!と不満タラタラの方は、ニップル穴の無いホールレスリムのホイールを選びましょう。
ホールレスリムはカーボン製ホイールに多く見られますが、クランクブラザーズ製やマヴィック製にはホールレスリムを採用したアルミ製ホイールも存在しています。
デメリット【4】パンクはチューブドよりも厄介
パンク耐性に優れるチューブレスですが、パンクを防いでくれる閾値は高いものの、一旦それを超えてしまうと、チューブドよりも厄介な場合が多いです。
私の経験上、チューブドでいうところのピンホールパンク程度なら勝手に修復されるため、通常よりもタイヤの異変に気付きづらく、チューブレスでパンクをハッキリと自覚できる時点で、既にかなりの重傷です。
シーラントの性能が十分なら、タイヤを揺すりつつ時間を置くことで回復することもありますが、それが望めない場合はチューブレス専用のリペアプラグを患部にブスっと差し込んで、タイヤの外側から穴埋めをして対応します。
さて、パンクという不運を乗り越え、何とか家路に着きますが、本当に厄介なのはここからです。
実はこのリペアキット、帰宅するまでの最低限の応急措置に過ぎず、チューブレスにおける再利用可能なパンク修理には該当しません。
あまり知らていませんし、馬鹿正直に実践している方も少ないと思いますが…チューブレスレディ対応のタイヤがパンクした場合は、タイヤを丸ごと新しい物に交換してしまうのが正しい事後処理です。
安価なチューブならまだしも、そこそこ値の張るタイヤでマジでそれをやるんですか?と耳を疑いたくなりますが、チューブレスのパンクはダイレクトにタイヤの破損であることを忘れてはいけません。
仮にこれがチューブドだったなら、チューブもタイヤも相当なダメージを負っている筈ですから。
一応、タイヤの内側からチューブ用のパッチを貼り、外側から靴底補修剤を盛るという修理方法も存在していますが、トレッド面が薄いタイヤほど修理が困難な傾向にありますね。
私も何度か修理したことがありますが、グラベルタイヤでは気休め程度、MTBタイヤでは何とか許容範囲といった感じでしょうか。
とにかくタイヤの内側がヤワで、パッチ接着のために表面を荒らすことすらままなりません。頼みの綱はトレッド面の厚さだけで、差し込んだリペアプラグや浸透したシーラントがしっかりと患部に馴染んでくれることに期待するだけです。
上手く出来ればそのまま使い続けられますが、高圧であっさり再発することも珍しくないので、派手にパンクした後はチューブドで延命するのがオススメかも知れませんね。
デメリット【5】ビード落ちにビクビク、ビード上げでイライラ
先ほどのパンクの件ではあえて触れませんしたが、チューブレスはチューブドと比べて格段にビード落ちしやすく、リム幅に対してタイヤサイズが不釣り合いだったり、空気圧が高過ぎたりすると、大音響の破裂音と共にタイヤがリムから外れてしまうことがあります。
あまりスピードの出ないMTBなら大事には至りませんが、グラベルロードあたりだと結構怖い思いをするかも知れませんね。
また、不幸にも出先でビード落ちした場合、容量の少ないハンドポンプでは再びビード上げすることが困難で、虎の子のCO2ボンベでも失敗のリスクやシーラントとの相性問題を考慮する必要があります。
無知で恐れ知らずだった頃は、チューブレスなんだから予備チューブなんて不要でしょ?なんて思っていたのですが、ビード落ちから復帰するには、チューブを使うのが最も手っ取り早く、この方法ならハンドポンプでも余裕でビードが上ります。
また、シーラントが苦手とするサイドカット時にも有効で、予備チューブさえあればチューブドと同じようにタイヤブートを使って対処できます。
因みに、予備チューブはシーラントと反応しないTPUチューブが最適ですね。一般的なブチルやラテックスのチューブでも使えないことはありませんが、タイヤ内に残っているシーラントと反応して、後々面倒なことになるかも知れません。
ビード上げが話題に出たのでついでに触れておきますが、チューブレスタイヤのセットアップ、特にビード上げで毎回苦戦するような方は、早い段階からエアーコンプレッサーを導入しましょう。
最近はフロアポンプにタンクを備えた、タイヤブースター付きの製品もありますが、割と高価なので最初からエアーコンプレッサーを購入するのと大差がありません。
自転車用に使うなら小型静音タイプ・タンク容量8Lくらいのエアーコンプレッサーで十分ですし、これに加えてエアーホースと仏式バルブ対応のエアーゲージをセットで購入しても、二万円ちょっとで済みます。
4.0インチ以上の極太タイヤでも余裕なので、チューブレス運用したいと考えているファットバイク乗りも覚えておいて損はありません、洗車後の水滴飛ばしにも使えますしね。
まとめ
私の経験を元に、チューブレス化のデメリットについて語ってみましたが、他にもチューブドよりもコスト面で不利だったり、携行品が思ったほど減らせなかったり、パンクが派手なので人目を惹いてハズカシイ…なんてのもありますね。
何気に一番のデメリットは、トラブルで街の自転車屋さんに駆け込んでも、フロアポンプを借りるか、チューブを買うか、車体を預かってもらうかの三つしか身の振り方が無いことかも知れません。
余談ですが、私の住む地域でほぼ唯一のプロショップにて、スタンズのタイヤシーラントを購入しようとしたところ、『16オンス、32オンスなんて販売していないよ…』と素っ気なくいわれて愕然した覚えがあります。
ロード主体のショップだったせいもありますが、ご店主曰くあれは業務用とのこと…確かにセミファットのMTBとロードバイクじゃ注入するシーラント量が段違いだけど、流石にその説明には無理がないかい?