自転車にも油圧式のディスクブレーキが当たり前になった昨今ですが、今回は専用工具についてのお話。
本当にたまたまですが、SUMART/スマートという台湾系のブランドからブレーキキャリパーの油圧ピストンを押し戻す工具、いわゆる「ディスクブレーキピストンプレス」がリリースされているのを目にします。
私の気を引いたのはツマミを回すことで左右のピストンを同時に押し戻せる「UBB-20」という製品で、ピストンを抉って押し戻す従来のレバー式とは異なる代物。
こういった工具は他に「ピストンリセットツール」や「ピストンプッシャー」なんて呼ばれ方もされますが、どれも用途はキャリパー内のピストンを押し戻す、ただそれだけのシンプルな機能しか有しいない場合が殆ど。

正直、愛用しているパークツールの「PP-1.2」といったレバー式でも不都合を感じたことはありませんし、使用頻度が低いならよくあるプラ製のタイヤレバーでも代用が可能。
ピストンを抉ることによるダメージが気掛かりな場合は、ヘックスレンチといった棒状のものを水平に宛がってゆっくり押し戻せばいいだけですし、強度的には割り箸でも十分なくらいです。
ぶっちゃけ、凝った仕組みの専用工具なんて不要では?
そんな疑問が頭を過ってしまい、あえて製品化する理由に漠然とした興味を覚えます。

気になってSUMARTの公式ホームページを訪れてみると、製品名には「Universal Bleed Block」と記載があり、ここで私の疑問の大半が解消。
この一見ニッチなディスクブレーキ専用工具はピストンを押し戻すだけでなく、汎用のブリードブロックとしても機能する2WAY仕様。
これひとつあればメーカーやモデルによって異なるブリードブロックをいちいち揃える必要がありません。
また、SUMARTのユニバーサルブリードブロックのバリエーションは全部で三種類あり、2ピストン用の「UBB-20」以外にも4ピストン用の「UBB-40」とハンドル先端に収納できる携帯用の「UBB-60」が準備されていました。
本音を言うと、ピストンプレスとブリードブロックという二つの機能を有していても、まだ購入する動機には弱いと感じていて、左右のピストンを同時に押し戻せるパラレル機構の利点が気になるところ。

実際に使用する際は、上画像のようにブレーキパッドを外したキャリパーに差し込んでツマミを回すことになりますが、素人目にはレバーで片側ずつピストン押し戻しても大した違いは無いように感じます。
どうにも腑に落ちなかったので調べてみると、左右のピストンを同時に押し戻せるパラレル式のディスクブレーキピストンプレスには従来のレバー式と比べて以下のような利点があり、主にパーツの保護に対して優位性を発揮。
【1】左右ピストンの同時かつ確実な押し戻しができる
対向ピストンの場合、片方だけを押すともう片方が飛び出してくることがありますが、パラレル式は左右ピストンを同時かつしっかりと奥まで押し戻すことが可能。
これにより、キャリパーのセンター出しやローターのクリアランス調整が毎回安定して行える効果も。
【2】ピストンの斜め押しによる齧り・シール破損を防止できる
代用品やレバー式には支点がひとつ故にピストンに斜め方向の力が加わりやすく、そのまま押し込むと内部のシールを傷めたりピストン自体が齧って動作しなくなるリスクも。
パラレル式は左右ピストンを水平に押し戻せるため、それらのリスクを最低限に抑えられます。
【3】セラミック製のピストンに対してダメージを軽減できる
上位グレードに製品に採用されているセラミック製ピストンは不均一な力や衝撃に弱い傾向にあり、面で捉えて押し戻すパラレル式では「割れ」や「欠け」といった破損が起こりづらい。
【4】ゆっくりかつ強い力でピストンを押し戻すことができる
ネジの力によりレバー式よりも強いトルクを発生でき、長期運用で動作の渋くなったピストンでも無理なく押し戻すことが可能。
また、ゆっくりとピストンを押し戻すためレバー側のリザーバータンクからフルードが漏れるリスクも軽減できる。
割と納得できる利点の数々ですが、レバー式で押し戻すと他のピストンが飛び出しやすく、モグラ叩き状態になりやすいのは確か。
悪条件が重なった状態で強くピストンを押し戻すと、反対側のピストンがキャリパーから飛び出してフルードが駄々漏れなんてことも起こり得ますからね。

さて、SUMARTのパラレル式ピストンプレスを見て唐突に思い出したのが、この製品。
結構古くからある製品で、こちらも台湾系ブランド「BIRZMAN/バーズマン」からのリリース。
自転車のメンテナンス動画で著名な某氏が愛用しているのを見た覚えがありますが、その某氏も対向側のピストンが飛び出すのを防げる点とリザーバータンクからフルード漏れしづらい点を評価していましたね。
このカラス口タイプは自動車用や自動二輪用では珍しくありませんが、自転車用ではこの製品が唯一だったりします。

古参ながら後発のSUMART製よりも優れた点が多く、ユニバーサルブリードブロックよりもピストンプレスとしての機能の方が重視されている印象でしょうか。
並行に開閉するカラス口はローターに干渉しない構造になっていて、ブレーキパッドさえ外してしまえばホイールを付けたままでもピストンの押し戻しが可能な優れモノ。
製品名は「Disc Brake Piston Pusher/BM20-DBPP」で、上画像の2ピストン用は8000円前後とSUMARTとほぼ同じ価格帯なものの、自転車用としては他に類似品が無いだけにちょっぴり食指が動いてしまいそう……

一応、4ピストン対応の「Double-ended Piston Pusher/BM25-DPP」もリリースされていて、カラス口の広い側は4ピストン用に。
カラス口の狭い側は2ピストン又は4ピストンでも内室が仕切られているタイプのキャリパーに使用できます。

私自身、この記事を書くまで知りませんでしたがSRAMも同機能の製品をリリースしています。
こちらはユニバーサルブリードブロックとしての側面が強く、プラ製でブリードブロックとしてしか使えない「SRAM Bleed Block Universal」と、アルミ製でピストンプレスとしても使える「SRAM Ultimate Piston Spreader」の二種類をラインナップ。
アルミ製は楔形と珍しいカタチをしていますが、ネジを回すことにより二枚のプレートがずれて厚みを変化させる構造になっています。
驚いたことに、この工具は単品で15000~20000円と非常に高価で、ぼったくりと揶揄されるシマノ純正工具が可愛く見えるほど。
因みに、SRAMやSHIMANOのキャリパーと相性が良く使用感も悪くないため、中華製のコピー品を頼る人も少なくないとか。

最後になりますが、この手の工具をパクるのは得意分野なだけに、前述した通り中華製もしっかりと存在しています。
とはいえ、SUMART製とSRAM製の類似品は山ほどリリースされているのに、不思議とBIRZMANの類似品は見当たりません。
コピー元は不明なものの、二つの楔を互い違いに差し込んでピストンを押し戻すシンプルな工具も見られ、中華系通販は良くも悪くも自転車用ツールの見本市として役立ってくれるのが面白いところ。
ちょっと欲しいけど、必須という訳ではない……
今のところ、それがパラレル式ピストンプレスへの嘘偽らざる評価ですが、ブリードブロックとしても使いたいならSUMART製かSRAM製。
ピストンプレスとしての機能を重視するならBIRZMAN製。
私の場合、そんな選び方になりそうです。

