大型連休はとうに過ぎ去り、五月も半ば。
巷の混雑加減がひと段落したのを見計らって、平日ライドへ出走。
目的地はパチモノ城こと模擬天守がそびえる旧城下町で、ちょうど一年前にも訪れた場所です。
前回は時間に追われてゆっくりと散策できませんでしたが、今回はそのリベンジといった感じでしょうか。
本当は景観が良くクマの出没もまだ控えめな桜の季節に行きたかったのですが、今年の春は晴天には恵まれるものの強風もワンセットというチグハグなお天気が頻発。
結局、お花見シーズンには行けずじまいでした。

ライド当日も風速5m/s前後とやや強め。
おまけに風向きが気まぐれに変化するそうで、行きも帰りも向い風という苦行を示唆するような予報。
とはいえ、今春はご当地では珍しいくらいの晴天が続き、チェーンへの注油が例年の倍近い頻度になるくらいライドが捗っています。

珍しく早起きして幸先の良い走り出しの筈が、農繁期の真っ只中だけに行手は地雷原さながら。
春には泥を踏まないように、秋にはイナゴを轢かないように。
これが農道を自転車で走る際の嗜みかも知れません。

定番の山越ルートを経由しつつ海沿いの幹線道路へと向かいますが、言うまでもなくこの辺りはクマの頻出エリア。
悲しいことに、これから通過する殆どの地域も該当するため、もはや安心してライドできる環境は過去の話です。

桜のシーズンからバトンタッチするように、今は薄紫色に咲く藤花のシーズン。
山間をライドしていると頻繁に見掛けるので何の疑いも無くヤマフジだと思い込んでいましたが、これはノダフジだそうでヤマフジとは別種とのこと。
そもそもヤマフジは九州や四国といった西日本の温暖な地域にしか自生しておらず、この事実を知った後は気軽にヤマフジと呼べなくなってしまいました。
うろ覚えですが、フジは手入れが杜撰な山林で増えやすく、頻繁に見掛けるということは人手不足か何かで山の管理が行き届いてない「荒れた山」であることを意味すると聞いた気も。

無事に山を越え海沿いの幹線道路に到達しますが、ここでヒヤリとする憂き目に。
馬鹿正直に車道をキープレフトで走行していたら、大型トラックが一切減速せずに至近距離を通過。
この狭さでも一応は国道なので仕方のない面は理解しているものの、やっぱりこういった体験をすると嫌な気持ちになりますね……
たまらず歩道に退避しますが、歩道には逆走の概念が無いため右側通行してもお咎めはありません。
ですが、こういった歩道は唐突に途切れてしまうことが多々あり、無自覚なまま右側通行にシフトしているなんて罠も。

さて、前回と同じルートでは面白味が無いので旧街道沿いを走ってみると、どうやら軽く道に迷った模様。
どこだココ?
しっかりと舗装はされてはいますが、どんどん山深い景色に移り変わり彼方には高速道路の高架が見えます。

ひたすら緩い登り坂が続き、路肩にはあまり見たくない野立て看板も現れ始めました。
因みに私はライド中にナビや地図アプリを滅多に見ない性分。
もちろん自宅を出る前にPC版のグーグルマップで大雑把なルート確認はしていますが、理由は単純にその方が楽しいから、これに尽きます。
他にも「見知らぬ土地に行くと人間の脳はフル回転する」
過去にそんな蘊蓄を知ったことも切欠になっていて、迷走することに老化予防を期待している側面も。
頻繁に旅行をする高齢者の方が認知症になりづらいそうですし、初めての土地をライドした後は疲労感が強く出るため、脳が刺激されているのは確かなようです。

斜度も緩く路面も広いため苦痛とまでは言いませんが、ダラダラと長い登りが続くせいか徐々に体力が奪われ、そろそろ下り坂が見たくなる頃合い。
交通量が極端に少ないですし、先ほどの野立て看板が嫌でも頭にチラつくため、どうにも落ち着かない走り心地ですね。

さらに登り続けると、唐突にトンネルが出現。
出発前の下調べでは把握していなかったオブジェクトだけに、流石に焦りを隠せません。

幸いトンネルは入り口側から出口がうかがえるほど短く、抜けた先には延々と続く待望の下り坂がお出迎え。
どうやらあのトンネルが山越えのピークだったようで、ようやく人心地が付きました。
因みに、下っている最中に路肩の茂みがガサゴソと大きく揺れ、今まで聞いたことのない鳴き声も。
きっとカワイイ子鹿に違いない……そう思うことにしました。

坂を下っている最中、遥か遠方に暖気で揺らぐ天守を視認、この緊張感とも遂にお別れです。
近年に作られた摸擬天守であることに間違いありませんが、遠間から見る限り観光客が勘違いしてもおかしくないくらいのリアリティ。

前回辿った道をのんびり進み、目的地のパチモノ城に到着。
去年も思いましたが、この地域は町全体が藩政時代のテーマパークのような作りになっているのに、奇妙なほど人の気配がありません。
前回は町の入り口付近で一人だけ見掛けましたが、今回はまだ誰と出会っておらず相変わらずのサスペンス風味。
ここは立派な箱モノが数多くあるせいか人口とのミスマッチ感が際立ち、良い意味で閉園後の遊園地のような趣がありますね。

時間に余裕があるので予定通り付近をぶらりと散策。
流石に元城下町なだけに、文化財指定された古い家屋が目立ちます。

こちらは新しい建物ですが、なんと交番までもが藩政時代チックな面構え。
桜の代紋が無ければ交番だとは気付かなかったかも知れません。

そして、今回の本命となる城跡を探訪。
初見だと摸擬天守のあたりが藩政時代の城跡と勘違いしがちですが、本物の城跡は町の中心部からは少し外れたところにありました。
とはいえ、こちらも当時の石垣を再利用した城郭復元という訳ではなく、摸擬天守と同時期に作られた似たり寄ったりな施設。

建物には見栄えのする天守こそありませんが、一応当時の城門の姿は再現されているそうで、全景はカメラのフレームに収まり切らないくらいの規模です。
城門を抜けた先にある主郭部分は美術館になっていて、ここでようやく記念撮影をしている観光客に出会えました。
しかし……本当に地元の方とは遭遇しませんね、私が気付いていないだけで遠巻きに観察されていたらそれはそれで怖いですけど。

最後に無料で入れる摸擬天守から町を一望して帰ろうと思いましたが、ここまで一切補給をしていないため、そろそろ空腹も限界。
付近に飲食店も商店も見当たらないので、天守からの展望は紅葉シーズンの楽しみに取っておくことにして、今回はここでお開きとなりました。
結局、住民とは誰ひとり出会うことなく、二度目の攻城戦はセルフ兵糧攻めにて撤退という顛末に。

城からの帰り際、町の外れで妙に雰囲気のあるお地蔵様に目を奪われます。
何やら説明書きがあるので確認して見ると、天保・天明の大飢饉で行き倒れになった難民を供養するために建てられた地蔵尊とのこと。
文政六年とあり、西暦なら1823年ですから200年くらい前のお地蔵様ですね。
結構な空腹状態で目の前には餓死者を弔う地蔵尊が……
故水木しげる先生の作品が大好きな私としては、ここで「餓鬼憑き」に遭うのではと一瞬妄想を膨らませますが、餓鬼憑きの正体は現代でいうところのハンガーノック。
朝から無補給なだけに、本当に憑かれてしまうかも知れません。

前回は往路で立ち寄った道の駅でようやくの補給。
そう思っていたのですが、月に一度の全館休業日に当たってしまう運の無さ。
既にタイ焼きや大判焼きの口になっていたものの、残念ながらその大好物にはありつけそうにありません。
ご当地フードのポスターを横目にしぶしぶ退散しますが、私と同じく当てが外れたお仲間も多かったようで、自販機前には絶えず人だかりが出来ていました。

さて、お地蔵様のお導きなのか、実はしっかり補給食は確保済み。
もしもの保険として、途中のローカルスーパーで軽食と飲み物を購入しておいて正解でした。
ですが、特売に釣られてゼロカロのスポドリを選んでみたものの、人工甘味料ではエネルギーの足しにはなりませんね。
おまけに、こちらもBIGの文字に釣られて手に取ったブロック栄養食が、いつもと全く同じサイズ感でガッカリ。
しかも殆ど甘みを感じない物足りなさで、本当に餓鬼憑きになってしまいそうな予感。

バテバテの状態で何とか自宅近くまでたどり着くと、見知った田畑で謎の毛玉が蠢いています。
この後姿で直ぐにピンときた方は、きっと私と同じ田舎育ちでしょうね。

クマにビビり散らかした一日でしたが、最後に現れたのは無害なアナグマ。
アナグマは極端に視力が弱いため、自慢の嗅覚が利かない風下からなら割と容易に接近できます。
撮影後に私に気付き彼らなりの全速力で逃げ出しましたが、大昔はタヌキとよく混同されていました。
俗にタヌキ汁と呼ばれた物には大抵アナグマの肉が使われていたそうで、味は雲泥の差。
好んで食べようとは思いませんが、アナグマの肉はジビエとして最高級とのこと。

満足な補給はできなかったものの何とか無事に帰宅。
この日の走行距離は70km強とやや控えめにも関わらず、太腿には強めの疲労感。
それもそのはず獲得標高は1000mを超えていて、もちろんあの迷走が原因です。
次回は普通に平坦な道を選ぶと思いますが、山道は登坂そのものよりもやっぱりクマへの警戒が最大のストレス。

余談ですが、クマ撃退スプレーにもようやく安価な国産品が登場しました。
その名も「マタギの一撃」で、ホルスターは別売りなものの価格は3980円と手の届きやすいお値段。
国産のクマ撃退スプレーは他にも幾つかありますが、持ち手が穴開きタイプで価格が4000円を切るのは、この製品が唯一でしょうか。
これで価格という一番の障害が取り除かれ、クマ撃退スプレーを常用できる下地が整ってくれた感じですね。
開発・販売元である「熊ノ護化研」には、感謝の言葉を伝えたいです。

