前回記事の最後で軽く触れましたが、サルサのファットバイク「ベアグリース」に標準装備されていたテクトロ製の油圧ブレーキが絶不調。
秋口までは何の問題も無く使えていたのに、26インチホイールに切り替えたタイミグで挙動がおかしくなり、いわゆるローターの引きずりが常態化するように。
ホイール毎に微妙に寸法が異なっているので、ホイール交換後に引きずりが発生することは珍しくありませんが、キャリパーをセンタリングしても、ローターの歪みを修正しても全く改善される気配が無く、ブレーキキャリパーそのものに問題がありそうな雰囲気。
キャリパーの動作を確認してみると、レバー操作の度にピストンの出代がまちまちな上に、片側だけ突出してそのままピストンが戻らなくなるといった挙動も。
ブレーキパッドを外してピストンを押し出し、側面をクリーニング&潤滑してみたものの改善は一時的で、クリアランスを完璧に調整しても、翌日のレバー操作一発で簡単に再発してしまう有様。
ピストンを押し戻した時に僅かに異音が聞こえるので、キャリパー内部に空気が混入した可能性が高いですが、フロント側だけでなくリア側も同時に発生というのが、どうにも腑に落ちません。
ダメ元で再ブリーディングによるエア抜きも考えましたが、調べてみると同じテクトロ「HD-M275」で良く似た症状に悩まされている方が私以外にもいて、これ以上テクトロの安ブレーキにかまけていても実りは少ないのでは?という考えに至ります。
もともと、油圧とは思えないくらいレバータッチが重く疲れやすい、レバーのクランプがオープン式になっていない、といった不満もあり、遅かれ早かれブレーキを交換するつもりでいました。
今回のトラブルにより、その時期が少しだけ前倒しになったという感じですが、ファットバイクのオンシーズンである冬場に乗れなくなる事態だけは避けたいところ。
さて、予告通りファットバイクの油圧式ブレーキを新SLXこと、SLX 7100系に交換することになりますが、今までHAYES・SRAM・MAGURA・TEKTROと数々の油圧ブレーキを渡り歩いた割に、鉄板のシマノ製は初体験。
シマノはファンネルブリードでインストールが面倒臭い……そんな思い込みから敬遠してきたものの、実際に取付&ブリーディングをしてみると、そんな先入観が180度覆る結果になりました。
前置きが長くなりましたが、今回はシマノの油圧式ディスクブレーキ「SHIMANO SLX BL-M7100/BR-M7100」の詳細や感想、取付やブリーディングの方法について話題にしてみます。
オイル充填済みがオススメ!SLX BL-M7100/BR-M7100の詳細
年末年始にトラブル発生というタイミングの悪さから、珍しく年中無休のアマゾンで購入。
最初はレバー・キャリパー・ホースを別々に購入した方が安上がりなのでは?と思ったのですが、一からブリーディングするために必要な小物類を含めると逆に割高になったため、前述の三つがセットになった「オイル充填済み」を選びました。
フロント用がホース長1000mmで型番が「SHIMANO SLX BL-M7100R/BR-M7100」、リア用がホース長1700mmで型番が「SHIMANO SLX BL-M7100L/BR-M7100」、それぞれ型番にL/Rのアルファベットが加わっているだけでホース長にしか違いはありません。
フロントを制動力の高い4ピストンキャリパー「BR-M7120」にしたい気持ちもありましたが、トレイルをやることは無さそうなので前後とも2ピストンの「BR-M7100」に落ち着きました。
他にも、ブレーキパッドにメタルかレジンかを選べたり、放熱フィンの有無も選べたりしますが、後からのカスタマイズが容易な部分なので、とりあえずは価格重視のミニマム構成に。
ファットバイクは冬メインなので、パッドやローターの発熱を過度に気にする必要はありませんし、雪や水跳ねでローターが濡れると鳴きやすくもなります。
喰いつきの良いメタルパッドも魅力ですが、ローターが濡れても鳴きが控えめなレジンパッドの方がファットバイクには向いているかも知れませんね。
購入前の下調べによると、ブリーディングスペーサーが同梱されていないとのことで、予備のオリーブ&コネクティングインサート「Y8JA98020」と共に購入しておきました。
失敗せずに取付完了すれば、両者とも全く出番はありませんが、念のため……
ブリーディングスペーサーは形状の似た物が多く紛らわしいですが、型番は「Y8J712000」です。
もちろん、ブリーディングに必須なシマノ純正ミネラルオイルとブリードキットも購入。
ミネラルオイルはフルサス29erのマグラ製ブレーキにも使えるので、中サイズの500mlを選びました。
シマノ純正のブリードキットにはレバー用の「TL-BR003」とSTI用「TL-BR002」の二種類があり、両者でファンネルの接続部分のサイズが異なっています。
複数のブリードスペーサーや注入用のシリンジ、二種類のファンネルが同梱された「TL-BRプロフェッショナルディスクブレーキブリードキット」もリリースされているので、財力に余裕があるなら全部入りのこちらの方がオススメでしょうか。
そして、オマケで購入したのが自転車用内部ケーブル配線ツールキット。安価な中華製ですが、どれを選んでも機能的な差は殆どありません。
ワイヤー・ホース・電気配線に対応し、付属のケーブルで先にルートを通したり、強力マグネットで誘導することも可能。
過度な期待はしていませんが、カットしたホースを塞いでオイル漏れを防止できるネジ蓋が付属しているので、それ目当てで購入した感じですね。
ネジ蓋はホース径と同じ太さなのでルーティングの際に邪魔になりづらいです。
SLXのパッケージに目を移すと、表面には画像のようなアイコンが並び、2ピストンのBR-7100はXC/クロスカントリー用という位置付け。
パッケージに記載はありませんが、レバー・キャリパー・ホースを含むシステム全体の重量はフロントが260g、リアが290gほどで、トータル550g前後となります。
同梱品はレバー・キャリパー・取付ボルト・パッドスペーサー・コネクティングインサート・ホースカバー・スナップリング・注意書の8点で、事前情報の通りブリーディングスペーサーは付属していませんでした。
紙製の取付マニュアルの類は含まれていないので、シマノ公式からディーラーマニュアル「DM-MADBR01-06-JPN.pdf」をダウンロードしてから、作業に臨みます。
先ほどの画像で、ホース接続用のコネクティングインサートはあるのに、肝心のオリーブが無いのでは?と思った方も多いはず。
実はオリーブは既にレバー側に収まっていて、コネクティングボルトもレバー側に既に取付け済み。
レバー内部にはオイルがひたひたに充填され、レバー側には白いストッパー、ホースが挿し込まれる先端部分には黄色いシールプラグがはめ込まれています。
また、クランプ部分はオープン式になっていて、いちいちグリップを外さなくてもレバー本体の取外しができるようになりました。
これで心置きなく非ロックオン式のグリップが使えます。
キャリパー側はこんな感じ。
パッドの固定が安っぽい割ピンじゃないのが嬉しいですね、新SLXからバンジョーボルトの位置が内側になり、転倒してもダメージを受けづらくなりました。
旧モデルはブリードニップルがバンジョーボルトと同じ側に設けられていましたが、新SLXからはキャリパーの反対側になり、以前よりもエアが抜けやすい構造に。
初シマノで意外だったのがブレーキパッドの形状でしょうか、初めから面取りされていてパッドの下部が斜めになっていました。
ホイールを取付ける際にローターを挿し込みやすかったり、ピストン戻しをこじ入れやすかったりするのかな?
プロショップなんかでは、ディスクロードの音鳴り対策やパッドの欠け防止目的で面取りする場合もありますが、音鳴りは別としても、確かにこの部分は無理にこじると欠けやすい部分です。
個人的に一番驚いたのがこのホース先端の部分。
下調べ時点では、ホースよりも太いキャップで塞がれている物が多く、内装だとルーティングで苦労しそうな印象だったのですが、実物はシールされたコネクティングインサートのような物で完全にオイルが密封されいました。
うろ覚えですが、シマノが油圧への乗り換えを促進する目的で考案した「イージーホースジョイントシステム」は、STI版が散々な仕上がりで、内装で使う場合は結局ホースカットと再ブリーディングが必須でした。
現在でもMTB用に限った話なのかも知れませんが、この方式なら内装でも簡単にインストールでき、ルーティングでホースからオイル漏れする心配もありません。
因みに、ホース側面に見える意味深なマークは、ホースをここまで押し込んでレバーに接続して下さいという目印です。
どうせ大半の方がホースカットするのに、ここに付けても無意味では?と思ってしまいますが、目印はホースカット後に先端から18mmの位置に付け直して下さいとのこと。
また、ダウンロードしたマニュアルに目を通した限り、このシールされたコネクティングインサートについての記載が一切なく、稀にいるホースカットしない派の方がシールされたホースのまま接続してしまわないかと、ちょっと心配になります。
まさか、未カットでも接続してレバーを引けば、オイルの圧力で勝手に開封されるとか?
想像以上に簡単!SLX油圧ブレーキの取付けと簡易ブリーディングのやり方
早速、SLX油圧ブレーキのインストールをしてみますが、実はここで詳しく解説する意味が無いくらい簡単です。
オイル充填済みのセットだけに、取付け後にレバー側をエア抜きする手順があるだけで、公式マニュアルがあれば誰でもスムーズに取付けできる親切設計。
私が実際に作業してみて、ここはちょっと注意した方が良いかも……と思った点が二つほどあったので、今回はそちらをメインに解説してみます。
何度か触れていますが、ベアグリースはブレーキが内装式、不親切なことにグロメットすら備わっておらず、フレームに開いた穴はホースとほぼ同じ直径という悪材料。
ですが、前述の通りホース先端はサイズを変えずに密閉されたままだったので、オマケで購入した内部ケーブル配線ツールキットの出番はありませんでした。
実際、シマノ製のホースは表面が滑らかで直径もテクトロ製ホースよりも僅かに小さく、スルスルと内部ルートを抵抗なく進んでくれました、テクトロのホースを引き抜く時の方がよっぽど大変だったくらいです。
因みに、テクトロのホースはレバー付近でカットし、穴に爪楊枝を挿し込んでオイルを封印してから引き抜きました。
せっかく内部ケーブル配線ツールキットにホースキャップ的な物があるのに、不精してここでも使わず仕舞い。
メーカーごとに穴のサイズが異なるので爪楊枝は万能ではありませんが、フレーム内部にオイル漏れするのが嫌な場合は、ブレーキシステムからオイルを抜いてから作業するのがオススメです。
マニュアルに記載されていることは徹底的に端折りますが、本当にシステム内に空気が混入しづらい方法になっています。
ホースカットしてもオイルは流れ出てきませんし、余程の無茶をしない限りホース側からキャリパー方向に空気は混入しません。
レバー側も同様で、ホース接続時はレバー先端が天井を向いた状態で作業します。
レバー先端を塞ぐ黄色いシールプラグを外しホースを目印まで差し込むと、レバー内にたっぷり充填されたオイルが溢れ出るようになっていて、過程の大半で空気の混入を抑える配慮が窺えました。
作業の要素は単純にホースを「切って」「差して」「締める」だけといった印象で、そのままでもブレーキは正常動作してくれましたが、仕上げの意味で簡易ブリーディングくらいはしておきます。
簡易というだけあって下準備は至って簡単、レバーにあるブリードネジを外し、そこにファンネルをねじ込むだけ。
後はミネラルオイルを50mlほど注いでからレバーを何度もニギニギ、レバー内の空気をファンネル側に追い出してあげます。
この作業を、レバー水平、レバー上向き30度、レバー下向き30度、の3パターンで行い、レバーやホースをコンコンと小刻みに叩きながらやると更に効果的。
レバーを握ると小さな気泡が出てきますが、納得するまでしつこく続け、レバーを握る他にレバーを弾く動作を加えると細かな気泡が出やすかったです。
最後に失敗しやすい注意点を二つほど。
まずは右下の赤矢印「ホースカバー」ですが、このパーツはとにかく取付けを忘れやすいです。
一般的な油圧ブレーキはホース接続前に、ホースカバー・コネクティングボルト・オリーブなど、ホースに通すパーツが多いので注意が行き届きますが、SLXはレバー側にコネクティングボルトもオリーブも取付け済みなだけに、うっかりミスの確率が急上昇します。
不幸にもミスってしまった場合はホースを再接続する羽目になりますが、オリーブは一度接続すると変形してしまうので、再利用不可という罠。
オリーブもコネクティングインサートもパッケージには一組しか同梱されていないため、正しく再接続するにはパーツを買い直さなければなりません。
さて、お次は中央上の矢印「ブリードネジ」です。
一見、何の変哲もない小さなネジですが、実は赤矢印の部分にOリングが備わっていて、これが実に見失いやすい。
通常は画像の通りネジと一緒になっていますが、ブリードネジを取外した際に結構な頻度でレバー側に置き去りにされます。
実はファンネルの先端部分にも全く同じOリングが備わっていて、レバー側に取り残されたOリングに気付かず、ファンネルを使用すると、使用後にファンネルのOリングが二つに増えていた……なんてことが。
このOリングは、ブリードネジをシールしてオイル漏れを防いだり、レバー側の気密を保つ役割があるので、くれぐれも無くさないように注意しましょう。
ブリーディング作業中は、ブリードネジにOリングがしっかり付いているか?、ブリードネジやファンネル先端のOリングが二つに増えていないか?、これらをしっかりと確認した方が良いです。
拘り派はXTの方が良い?SLX 7100系 油圧式ディスクブレーキの使用感について
さて、SLX油圧ブレーキの取付けが恙なく終了し、あれほど煩わしかったローターの引きずり音も嘘のように解消しました。
噂通りシマノの油圧ブレーキは精度が高く、動作も非常に安定していますね。新品のせいもありますがピストンの出代がちぐはぐ何てことも当然ありません。
現行世代のシマノ製はパッドクリアランスが若干広いと聞きますが、確かにフルサス29erのMAGURAよりも余裕が感じられ、キャリパーのセンタリング調整がセンタリングツール無しでもすんなり決まります。
レバータッチも上々で、交換前のテクトロ製が重過ぎたせいもありますが、ワンフィンガーでもツーフィンガーでも負担を感じない軽さ、これならロングライドでも指が疲れずに済みそう。
唯一残念に感じたのは、SLXはレバーの握り幅は調節できても、フリーストローク調整ができないことでしょうか。
ブレーキ効き始めのコンタクトポイントがもう少し早い方が好みですが、これは慣れるしかありませんね。
トレイル主体でこの辺りにも拘りたい場合は、一つ上のXTグレードを選んだ方が良いです。
レバーの取付け時に気付いたのですが、新SLXからレバーの剛性を強化する目的でハンドルに接触する台座のような突起が追加されています。
取付け時はグリップやトグスの邪魔になるなぁ……と煩わしく思っていたのですが、剛性UPの他にブレーキバンド位置が最適化される効果もあり、グリップのキワに合わせるとレバー位置がピタリと決まってくれました。
グリップを握ると指先が自然とレバーの適切な位置に掛るようになり、蛇足に思えてもしっかりと考えられた作りになっています。
気になる制動力ですが、前後とも2ピストンな上にローターにアタリも出ていないので、ガツンと効く感じではありませんね。
ファットバイクのブレーキは効き過ぎるとアイスバーンで転倒しやすくなるため、画像のように凍結した路面では今くらいの方が安全に止まれます。
冬場の定番コース、ちょうど折り返し地点の神社で風雪が強くなってきたため、庇を借りてしばしの雪宿り。
昨シーズンまではキックスタンド付きのファットに乗っていたので、撮影場所に困ることはありませんでしたが、今季からはこの小さな神社の境内が撮影スポット化。
極太タイヤからお察しいただけるように、ファットバイクは横風に弱く、風向きを間違えると撮影中に車体が倒れやすいという弱点があります。
過去にスタンド付きだったにも関わらず強風で倒れてしまい、ディレイラーハンガーを曲げてしまった経験があるので、できるだけ落ち着いた場所で撮影したいのというのが本音でしょうか。
他のファット乗りの方は雪面に寝かせて撮影しているケースが多いですね、見栄えはしませんが賢いです。
あまりの安定感に26インチホイールにBUD&LOUタイヤの組合せで使い続けていますが、前回の反省からダウンチューブにフェンダーを追加。
ファット用では定番のPDW製やBBB製ではなく軽量なMUCKY NUTZで統一してみましたが、これでフロント側の防御力はほぼ完璧になりました。
さて、あえて触れていませんでしたが、ディスクローターがテクトロ製のままです。
他社製のローターを使うのはあまり推奨できませんが、前後の構成とローター径を決めかねていて、取り合えず前後160mm径で実験中。
フロントもリアも180mmにしたいところですが、画像の通りチェーンステーにブレーキ台座があるタイプは、アタプターを噛ませるとキャリパー固定ボルトへのアクセスが極端に悪くなるのが難点。
キャリパーのセンタリング時にもたつくのが嫌なので、フロント180mm、リア160mmの組合せが現実的かな。
因みに、シマノの6ボルト式ローターでは「SM-RT86」が今のところ最上位グレード。
プレス打ち抜き式の安価なローターと比べて精度が高く、初期状態の歪みが殆ど無いとのこと。
一枚5000円弱と消耗品の割に高価ですが、レジンパッドなら殆ど減らないので、選択肢としては悪くなさそう。
ブレーキの使用感を確かめレバーのストローク調整をした後、風雪の隙を見て帰途に着きましたが、特に不具合は出ず、私の一番い嫌いな油圧ブレーキの引きずり音からも、ようやく解放されました。
帰り道でローターにアタリも出始め、2ピストン&レジンバッドの組合せながら、ホイールロックできる制動力にも大満足です。
海外のフォーラムでは、コンポはスラム派でもブレーキだけは絶対シマノという方が多く、ずっと不思議に思っていたのですが、今回の件で納得できました。
私もシマノ信者になりそうな予感。
まとめ
SLX 7100系 油圧式ディスクブレーキの取付けから試走までを一通り体験してみましたが、機能面での安定感はもちろん、インストールの容易さにも目を見張るものがありました。
少なくとも、シマノのMTB用ではイージーホースジョイントシステムが完成の域に達しているので、ディスクブレーキ初心者の方にほどオススメです。
欲をいえば、シマノ純正工具やキット類の価格が控えめになってくれると更に嬉しいのですが……