チューブラーでもクリンチャーでもチューブレスでも、自転車には絶えずパンクというトラブルが付き纏います。
自転車を趣味にしている私も年に数回はその憂き目に遭いますが、不思議とファットバイクとミニベロの二車種だけは、ライド中にパンクを経験したことがありませんでした。
さて、春を思わせるような好天に誘われて、ファットバイクで近場の海辺まで。
長期予報によると、この先まとまった量の雪は望めず、気温二桁の日もチラホラ、シベリアへ向かう白鳥の北帰行も始まり、この日のライドがスノータイヤことSURLY BUD&LOUの走り納めとなります。
「今年はもうおしまい?」とタイヤが駄々を捏ねたのかも知れませんが、このタイミングでファットバイクが唐突にパンク。
過去にガレージ内でスローパンクしたことはありますが、ライド中にファットバイクがパンクしたのは初めての経験です。
とはいえ、タイヤに刺突を受けただけでダメージがチューブまで達しているか判断がつかず、パンクかどうかまだ疑わしい段階。
ファットバイクはチューブに充填されている空気が膨大なこともあり、あからさまな大ダメージでもない限りパンクに気付きづらい特徴があるのです。
私も驚かされましたが、スノータイヤの分厚いトレッド面を穿ったのは、この「サンショウ」です。
うな重を食べる時に使うジャパニーズペッパーこと「山椒」の枝はご覧の通り鋭利で、運悪く棘の部分がトレッド面に対して、ほぼ垂直に突き刺さっていました。
フロントタイヤが踏みつけた物は15cm程の枝だけになっていましたが、低山の雑木林や郊外の道端も普通に見られるそうなので被害者は意外に多いのかも知れません。
何の根拠もなく、植物の枝なんて極太ファットタイヤでイチコロでしょ?なんて思い込んでいましたが、太さ5mmの枝に生えた棘は、天然の有刺鉄線と呼びたくなるくらい硬く、簡単に折れない柔軟性も兼ね備えていました。
余談ですが、雨の日はパンクが激増することが良く知られています。これは雨の水分でゴムの摩擦が低下し、鋭利な異物がタイヤに刺さりやすくなることが原因。
ただでさえ春先は雪に隠れていた異物が露出して危ういというのに、この海辺に至るまで残雪や雪解け水によりタイヤがしっとり濡れて、知らず知らずのうちにパンクしやすい条件が整っていたのでしょう。
その後、10分ほど海を眺めつつ様子を伺ってみましたがタイヤが減圧する気配は無く、杞憂だったとライドを再開することに。
ですが……この判断の甘さが失敗を招きます。
サンショウによる刺突がすっかり頭らか抜け落ちた頃、件のフロントタイヤに異変を感じ始め、ハンドリングの度にヌルっとした感覚が。
画像の通り、タイヤサイドには減圧によるシワが寄りはじめ、ようやく刺突がチューブまで達していたことを理解します。
空気圧は目測で0.1BARくらいでしょうか?低圧が当たり前のファットバイクだけに、刺突直後の0.75BARからでも8km近く走り続けることができました。
空気抜けは穏やかですし、携帯ポンプで継ぎ足しすれば余裕で帰宅できるだろう……そう思ってました、この時までは。
いきなり結果からお伝えしますが、私は自宅までファットバイクを押し歩きして帰りました。
前述した通り、低圧が得意なファットバイク、空気抜けは大変穏やか、携帯ポンプ&パンク修理キット一式あり、こういった条件が整っていたにもかかわらず、それらを全て無にするようなトラブルに見舞われます。
ちょっとした予兆はあったものの、まさかバルブコアに不具合が発生するとは思いもしませんでした。
実録「バルブコアツール」も携行品に忘れず加えておこう!という話
撮影している余裕が無かったので帰宅後の再現画像となりますが、雰囲気だけでも感じ取って下さい。
さて、空気を継ぎ足せば余裕で帰宅できるだろうと安易に考えた私は、フレームバッグに忍ばせていた携帯ポンプを接続して、シャコシャコとポンピングを開始。
この携帯ポンプはLEZYNE「POCKET DRIVE」でホース付きでは恐らく最軽量の79g。
ホースねじ込み式の携帯ポンプは、注入時の空気漏れが少なかったり、激しくポンピングしてもバルブに負担が掛りづらいという利点がありますが、まさかこの特徴が弱点になってしまうとは……
ファットバイク特有の手応えのないポンピングが延々と続き、時間は掛ったもののギリギリ走れるレベルの注入が完了。
場所が人通りの多い民家の軒下で悪目立ちしていましたし、好天でも既に日が傾き冬の屋外作業で体が冷え始めていたので、もう少し腰を落ち着けて作業できる場所を求めて再出発という流れに。
ここから先がまさかの展開なのですが、ホースのねじ込み部分を緩めて携帯ポンプを取外したところ、バルブコアが共回りして、ホースにバルブコアが持っていかれるという予想していなかった事態に。
サイズの大小にかかわらず、ねじ込み式のポンプでは稀に起こる現象とは聞いていましたが、このタイミングは流石に意地が悪すぎる。
おまけに普段は見えないシール部分も劣化していて、仮にバルブコアを元に戻せても気密性の確保が疑わしい状態。
最近、妙にコアネジの上下動作が鈍かったのは、恐らくこれが原因だったのでしょう。予兆があっただけに、完全に私の整備不良です。
当然のことながら、この間にバルブから空気は駄々漏れで、ミニポンプでせっせと入れた空気が一瞬で無に帰すことに。
この日は、パンク修理キット一式と携帯ポンプは持ってきていたものの、予備チューブとバルブコアツールは持ってきておらず、予備チューブからのバルブコア移植という緊急手段も使えません。
本来、バルブコアを外すには専用のバルブコアツールやラジオペンチ等の工具が必要で、赤矢印のようにバルブキャップ用のネジ山にはバルブコアを外すための平面が切られています。
バルブコアツールがあれば、ねじ込み式ホースの共回りに耐える増し締めも可能ですが、愛用のバルブキャップ型バルブコアツールは自宅待機の27.5インチホイールに付けっぱなし……
バルブコアを未使用の割りばしで挟んで回す裏技もありますが、残念ながら近場にコンビニや商店は無さそう。
因みに、冬の屋外作業で完全に手がかじかんでいて、この時点でホース側からバルブコアを取外すのも困難な状態でした。
幸い自宅までは5km程と余裕で押し歩きできる距離だったため、この時点で腹を括ることに。
さて、押し歩きでの帰宅を選んだものの、一難去ってまた一難。
過去にファットバイクがスローパンクした際にも薄々感じていましたが、ファットバイクはパンク時の押し歩きが大変困難でした。
無論どんなタイヤを使っているかにも左右されますが、チューブ内の空気がゼロだと、上画像のようにタイヤの一部が極端に扁平してしまい、押してもホイールが上手く転がってくれません。
普通はパンクすると接地面だけタイヤが潰れるものですが、ファットバイクは潰れた部分もホイールと一緒に回転してしまうことがあり、タイヤがフェンダーやフォークに時折干渉する現象も見られました。
ハンドル部分に少しでも加重すると発生するため、ホイールを少し浮かせた状態で押し歩きする羽目になるのですが、タイヤとホイールが激重なファットバイクでは、これが筋トレ並みに腕に効きます。
僅か1kmで腕がパンパンになり、おまけに暖気で緩んだ雪で足下は最悪、短距離でも苦行のような時間が続きました。
0.05BARでも空気が入れば、まともな押し歩きができるのに……と日寄った私は、再度空気の注入に挑むことに。
手始めに、ホース先端にガッチリはまったバルブコアの取外しに挑みますが、前述したように寒さでかじかんだ手では思うように摘まめず、全く歯が立ちません。
因みに、バルブコアのこちら側は平面が切られていないので、仮にバルブコアツールを持っていたとしても無力です。
小型のラジオペンチ等があれば双方に使えますが、ペンチ類は小型でも嵩張るのが難点ですね。
さて、無い知恵を絞って目を付けたのが携帯ポンプのラバー部分です。
有難いことに、赤矢印の部分でバルブコアを挟んで回すと、あっけなくホースから外れてくれました。
バルブを持ちやすくする&滑り止めの効果があるので、同じくゴム素材の予備チューブやリペアパッチでも代用可能かも知れませんね。
参考までに、下のバルブコアがバルブシールが劣化したファットバイクの物で、上がシュワルベのチューブから取外した正常なバルブコアです。
バルブシールが劣化しているのは明らかで、バルブコアを手で締め直しても気密が保たれる保証はありません。
ここから先の作業は博打な上に、バルブコアを共回りさせない慎重さも必要になります。
劣化したバルブシールを軽く指先で整えてから、手締めできる限界までバルブコアをねじ込み。
その後、共回りせず空気漏れもしないギリギリのトルクでホースを接続して、タイヤの接地面が完全に陥没しない程度までポンピング。
最後はバルブコアが共回りしないようにゆっくりとホースを取外し、何とか不自由なくファットバイクを押し歩きできる状態に。
ふう、ここまで長く険しい道のりだったぜ……
劣化していたバルブシールが思いのほか持ちこたえてくれて、結局バルブからの空気漏れはありませんでした。レバー式の大容量携帯ポンプがあれば乗車で帰宅できたかも知れません。
嵩張るので使うのを躊躇っていましたが、ファットバイクやプラスサイズタイヤのMTBにはトピークのマウンテンシリーズに代表される、大容量かつ注入量の多い携帯ポンプが欠かせないと再認識しました。
押し歩きで帰宅後、不精して付け損ねたパナレーサー製バルブコアツールとご対面。
画像のように筒状になっていて、一方の穴がバルブキャップとして、もう一方の穴がバルブコアツールとして機能してくれるシロモノ。
冷静に考えると、前後セットになったバルブキャップ型だけに、一つを26インチホイール備え付けにすれば良かったのでは……とマヌケすぎる事実に気が付きます。
今回のライドで、ファットバイクのパンクとバルブコアツールの不具合という二つのトラブルに見舞われましたが、同時に携行品の見直しへのヒントも得られました。
まとめ
そもそもの発端はサンショウの枝による刺突パンクではなく、ねじ込み式の携帯ポンプを選んでしまったことのように思えますが、これにはちょっとした事情があります。
実は、私が多用しているTPUチューブにはバルブナットが備わっておらず、カチッと上から押し込むワンタッチ式や、上から押し込んだ後にクランプするレバー式の携帯ポンプとは相性が悪いのですよ。
近いうちに携帯ポンプを買い直すことになりそうですが、今回のトラブルから学んだ点をまとめると以下のようになるでしょうか。
【1】ファットバイク用の携帯ポンプは大容量タイプでレバー式が良い
【2】バルブコアツールや予備のバルブコアを携帯する、ねじ込み式携帯ポンプを使うなら尚更
【3】仏式バルブでもバルブコアの劣化や寿命に気を払うべし
【4】冬のパンク修理は寒さ対策も考慮する
【5】ファットバイクの押し歩きは苦行、パンクに気付いたら近場で対処する
【3】のバルブコア寿命に関しては、今まで意識したことはありませんでしたが、目安はチューブ寿命とおなじ三年くらいだそうです。
普通はコアネジを緩めて頭を押すと空気が放出されますが、頭を押さなくても空気が漏れていたり、コアネジの動きが鈍かったりすると、高確率で内部のバルブシールが劣化しているので注意が必要。
【5】のファットバイクのパンクは本当に悩ましいですね、真冬だと長時間の屋外修理はほぼ不可能ですし、場所の確保すらままならないことも。
チューブレス化するのが一番の対処法なんでしょうけど、チューブ派の方はクイックショットなどのパンク修理剤を携帯するのも手かな?
チューブ内で泡状に広がるのでファットバイクにも十分使えると思います。
気になるのは、最近増えているMATE Xなどの電動アシストファットバイクやホームセンターで見掛ける街乗り用ファットバイクですね。
これらは大抵が米式バルブなのでバルブコアに不具合は起こらないと思いますが、チューブレス未対応な上に車体が重いため、パンクしたら輪をかけて苦労しそうな予感。
軽自動車用や自動二輪用のパンク修理剤なら米式バルブに対応しているので、緊急時はこれに頼ることになるのかな?